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血と家から考えるアイドリッシュセブン③(ネタバレ有)

【アイナナ考察記事についてのお願い】
・「二次創作」としてお読みください。ストーリーの展開を保証するものではなく、公式やキャラクターを貶めようとするものではありません。
・アイナナに関するすべての情報を把握しているわけではありません。個人の妄想と願望を大いに含む、一解釈であることをご理解ください。

こちらは、アイドリッシュセブンを「血」と「家」という観点から考察する記事です。初めての方はからご覧下さい。

前回では、八乙女楽と両親の関係を考察した。TRIGGERのリーダーである彼の根幹を確認したところで、今回はTRIGGER全体のことを考えてみたい。


1.TRIGGERという「船」


まず私のTRIGGERに対する基本的な考え方を、解釈違いを避ける意味でも記しておきたい。

三部をクリアした現在、TRIGGERというグループの印象は「船」である。これは私の中で屈指の名曲に位置付けられている「願いはshine on the sea」が元ネタではあるのだが、やたらとしっくりくるのだ。

最年長の十龍之介は、楽曰く「普段はそう見えないけれど、TRIGGERで一番強い男で戦いから逃げない」。姉鷺が龍の「願い」のラビチャでも言っている通り、彼が楽と天を受け止め間に入らなければTRIGGERは崩壊していたと言っていい(楽と天のもめごとの原因は、前回書いた八乙女家父子問題とリンクしている)。
つまり龍はTRIGGERの土台、船本体である。だからこそ、3部でTRIGGERは龍の家に集い、居住するのだ。

船はその枠だけあっても動かない。重要なのは動力と舵である。それは、言わずもがな本グループのリーダーであり血の気の多い八乙女楽である。
良くも悪くもこのグループで真っ先に動くのはいつも彼であり(cf.アイナナをサウンドシップに引き入れる、ゼロアリーナこけら落としでゼロ仮面を真っ先に追う、2周年の閉じ込め事件ですぐ店の奥に行くなど)、活気づかせるのも彼である。腰が重い龍、完璧主義の天を動かせる楽は、器を船たらしめる動力的存在といえよう。

最後に九条天である。センターである天は、最も前面に立ち海風にさらされる存在。船の帆である。これが何の船で、どこに向かっているかを常に周囲に示す。天はTRIGGER内部の事情よりも、対ファンを優先する。それゆえに、これまでのストーリーでTRIGGERの重要な動きが天に託されることは少なかったように思う。
TRIGGERのシンボルである天が折れないように、最も輝くように支えるのが楽と龍だと考えて良いだろう。その片鱗は、3部後半で九条に宣戦布告する楽や、ツクモに「そこを退け」と声を荒らげる龍の様子に見て取れる。

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…ということで、私はTRIGGERを三位一体、一艘の船だと考えるのである。
※実はTRIGGER出会いのBARの名前は「deepriver」。川から大海原に出航した彼らは、はじめからやはり「船」だったのかもしれない。


2.三人が見続ける「夢」


TRIGGER結成時のことを振り返っておきたい。前回も紹介したが、結成エピソードはYouTubeで公開中である。

アニメの中のセリフにも、「DIAMOND FUSION」の歌詞にもあるように、三人は自分の意志とは無関係に集められたものの、初対面時に「TRIGGERというグループに恋をした」と言っている。その初恋の感覚は今も消えないそうだ。アイナナにもリバレにも通用しないであろう独特の表現である。

「SECRET NIGHT」の歌詞に「醒めない夢を」とあるのも、この初恋の感覚と無関係ではないだろうし、彼らのキャラクターがTRIGGER時と素では全然違うのもここに起因しているだろう。
(TRIGGERメンバーの二面性については、こちらの記事も参照いただきたい(4部ネタバレあり)

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TRIGGERというグループは、三人にとっても現実とイコールではない、夢、恋なのである。それを醒まさずに、ファンに提供していくことが彼らの目指すところである。そのために、TRIGGERが終わらない、醒めない夢だと3人が一番信じていなければいけない。でなければTRIGGERという夢をファンと一緒に見られない。

3部中盤で龍が虎於に「(素とは違うキャラクターを)演じていることに罪悪感がないわけじゃない」といいつつ、ファンの夢を壊さず、仲間の力になれていることは誇りに思っている、という趣旨の発言をしている。これは龍だけの問題と思われがちだが、TRIGGER全体に共通することである。

三人は三人で一緒にTRIGGERを演じ、夢を作っている。その原動力となっているのは、出会いの時の初恋のような気持ちを、ファンにも提供したい一心だろう。だからこのグループは純粋なのだ

この感覚を持ち得ているのは、他グループでは二階堂大和くらいしかいない。4部次第だが、六弥ナギにもその片鱗が見える程度である。TRIGGERが激動の3部を通じても解散しなかったのは、ひとえにこの感覚の共有があったからだと言えよう。アイナナという作品が他と違うのは、この葛藤を解消させずに抱えさせているところにある。堪らない魅力である。


3.三人が抱える「父」の問題


三人の共通点は「家」の問題にもある。三人はそれぞれ、父親に関する問題を抱えている。

八乙女楽に関しては前回書いたように、二階堂大和同様にアイドルになって父に愛されることを望んだ過去が大きく影響している。母が父に愛されていなかったという思い込みと、芸能界が絡んで歪んだ家父長制の中に育ったのが八乙女楽である。何度も言うが二階堂大和と対をなしている。

十龍之介の家族問題は深堀されていないが、実父母が離婚しており、父が漁業関連で借金を背負っていることが明かされている。アイドルにならなければ漁師になっていたとの言葉から察するに、龍は弟たちとともに父親に引き取られたと考えられる。母親はホテル王と再婚済みだ。
つまり、龍は楽と違い、父から恩恵を受けたのではなく、父から損失を受けてしまったわけである。龍がしきりに兄や家長らしくあろうとする姿(実弟だけでなく、ナギに対しても兄の立場を崩さない)は、十家の家長=父という構造が崩壊していること、それを龍自身がなんとか保とうとしていることを意味している。

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龍もまた歪んだ家父長制の中で育ったのだ。両親に愛情を注がれるより、彼が弟たちに愛情を注いだ度合いが高そうである。

さらに龍は八乙女父により、自分の母の再婚相手の属性を生きることを余儀なくされる。OFFでは漁師の父の代わりを、ONではホテル王の養父の属性を演じている。彼のキャラクター齟齬にも、根深く「家」の問題が横たわっている。
それが唯一切り離されるのが、TRIGGERのメンバー内である。楽や天を弟のように愛しく思いつつも子供扱いはせず、メンバー内の龍は家長を演じることを強いられない。これは他の二人もまた歪んだ家父長制の中で生きてきた結果、TRIGGERの中での役割分担が「家」と切り離されているということだろう。

最後に九条天である。彼が最も複雑で、難解な家族観の持ち主である。私の中でもいまだ答えが出ず、四部に期待したいところである。
わかっているのは、自ら選択して九条の養子になったことである。ただし、彼の実父母に対する思いはいまだ明かされておらず、よくわからない。貫かれているのは七瀬陸に対する兄の立場だけであり、弟に「もう家族じゃない!」と言われたときには少なからずショックを受けている。

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また、陸を守るという役割に徹してきた幼少期があるため、誰かに守られることには慣れていない(楽に撫でられる、等のアクションに弱い)。養父九条にしても、決して天を守る存在ではない。すべてに共通しているのは、九条天が「家族に尽くす、奉仕する」という姿勢であることだ。陸のために踊り、九条のために完璧を目指した。見返りとして笑顔をもらい、「愛された」という認識を得たのではないか。

つまり、他の二人と同じく「(父に)愛されたい」という願望を抱きつつも、それが満たされることなく生きてきたのが九条天である。楽と違い、天の場合は父から愛されることを放棄し、弟やファンに奉仕することに徹しているのが怖いところである。彼のゆがみは4部で明らかになるであろうが、そこで楽や龍が自身の家族問題を乗り越え、どれだけ天に寄り添えるかがポイントである。

まとめると、三人にとってTRIGGERというグループは、家族とは異なる集団ということになろう。リーダーを「兄」に据え、結成当初から同居生活をするアイナナと違うのはここである。
アイナナはスタッフも含めすべてが「家」めいている。TRIGGERの場合は、「家」ではない。そんな3人は3部で同居を始めたわけだが、その影響で異次元の「家」を形成していくのかどうかは、4部を待ちたいところである。


今回も長々と書いてしまった。我ながらまとまりのない文章である。

とにかく私はTRIGEERが好きだ。この完璧に見えて、いびつで、不器用で、でも純粋で美しい。アイナナという作品は、アイナナの対極にTRIGEERを置いたからこそ、こんなに魅力的なコンテンツになったのだというのが、伝われば何よりである。

さて、次回もまたTRIGGERについて書いていきたい。今回はグループ内のことばかり書いたが、他グループとのかかわりについてざっと述べておきたいのだ。先延ばしにし続けている紬と二階堂大和の問題も、そろそろちゃんとやろうと思っている。

長文にお付き合いいただきありがとうございました!


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