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【まほやく 東訓練イベ考察】愛すべき「傷」⑤(ネタバレ)
今回も懲りもせず、訓練イベントのストーリー考察をしていく。前回の南訓練イベがなかなか刺さる内容だったため、今回は南にも東にも少し救いがあるのでは…と期待した私が甘かった。
今回こそが本番だった。
【初めての訓練シリーズイベント予告】
— 魔法使いの約束【公式】 (@mahoyaku_info) July 20, 2020
7月23日(木)18:00よりイベント「哀愁のひまわりのエチュード〜東の国&南の国〜」を開催予定!
ガチャにはSSRファウスト・シノ・ネロのカードが新登場🧙♀️
ひまわり畑の人食い魔女“ビアンカ”の伝説と、置き去りにしてしまった過去が眠る場所だった。 #まほやく pic.twitter.com/ICZc1BobYN
以下、イベスト未読の方はネタバレにつき、十分にお気をつけいただきたい。
基本的には、南訓練イベの考察の続編である。未読の方は、お手数だが下記記事をご一読願いたい。
前回検討した内容から、大きな救いや進展はなく、しんどさが増しただけだったというのが私の見解である。メインストーリーの更新が待たれる。とはいえ、前回以上にファウストとフィガロについては理解が深まったように思う。
今回は主にこの二人について考察していく。ちなみに、便宜的に「傷」シリーズの記事に入れているが、あまり厄災の傷には触れない予定である。厄災にかかわりのない「傷」には触れていく。
今回はメインストーリーはもちろん、イベントストーリーについても盛大なネタバレ記事になる予定である。不快に思われる方はUターンをお願いしたい。また、毎度のことであるが、カード・親愛ストーリーは全く読んでいない上での妄想である。ご容赦願いたい。ほぼ二次創作である。
また、記事中の画像は全てゲームアプリ内の引用である。
1.前史としてのフィガロとファウスト
これまでも小出しに情報が出てきていたフィガロとファウストの関係性が、今回のイベスト(および新スポット)で大部分明らかになった。ざっくり確認していきたい。
・革命軍参加約一年前、ファウストはフィガロに弟子入り志願→フィガロ、オズに報告の上、自宅で預かり厳しく鍛える
・約一年後、ファウストとともにフィガロも軍に合流したが、すぐに離脱
・人間&魔法使い共同軍、「とある事件」で決裂。魔法使い側の言い分では「人間に裏切られた」→魔法使い側に甚大な犠牲(ビアンカ含む)
・アレク、ファウストを火刑に処す
・レノックス、火刑の現場からファウストを救出。療養先の小屋に匿う→その後、ファウスト単独で離脱。
・ファウスト、嵐の谷に隠棲。時々人間を助けてしまう
・フィガロ、ファウスト捜索中のレノックスと出会い、羊飼いの仕事を斡旋
・(時期不明)ファウスト、賢者の魔法使いになる
・(数ヶ月前)ファウスト、東の魔法使い2名を石にしてしまう。直後、新しい賢者の魔法使いと出会い、フィガロとも再会する
フィガロがファウストの「見た目」までも気に入って弟子入りを許したところは、薄目で見るくらいの感じにしておく。
2.直線と曲線の邂逅
二人の過去を整理したところで、フィガロがなぜファウストを弟子として迎えたか、というところを確認していきたい。ヒントになるのはイベストの「線」の話である。
「俺の人生を線で書いたら、塗りつぶしたみたいに真っ黒になる」
フィガロの人生観である。
もう少し噛み砕いてみよう。
嵐の谷スポットエピソードでファウストを受け入れた時を述懐するフィガロの発言である。
「オズ以上は無理なのになーって思いながら、自分の弟子を育てるのはなんだか虚しいだろ?」
だいぶ見えてきたのではないか。
そうだ、フィガロという人物を考える上で、オズと同門・兄弟弟子であるという事実を忘れてはならない。最強の魔法使いがすぐ隣にいるのだ。
おのずと「オズには何をやっても敵わない」という思考が固着していく。ではフィガロは何をやれば、オズ以上に価値を見出してもらえるのか…そこから彼の「紆余曲折」はスタートしているのだ。泡沫イベストでも、ワルプルギスの夜に招かれ、魔法使いたちにご機嫌とりをされるという、よく分からない役をこなしていた。これも紆余曲折のひとつだ。
そのなかで、オズには到底こないであろう「強くなりたい」ではない弟子入り志願が舞い込んだ。
フィガロは、ようやくオズとは違う物差しで自分の力を測れる機会に恵まれたのだ。だから嬉しくてオズに報告してしまったのであろう。
だからファウストはフィガロにとって
「ぐちゃぐちゃの黒い線がまっすぐに伸びる可能性があった、それがきみだったんだ」
と言わしめる存在となったのである。
フィガロはファウストとともにあることで、曲線だらけの人生から抜け出せると感じていた。だから彼はファウストとの出会いを「天命だと思った」のである。
北の魔法使いとしてオズの近くにある限り、フィガロは曲線でしか生きられない。北にはない新しい概念を持つファウストに触れることで、フィガロは、オズを頂点とする概念とは異なる生き方ができる気がしたのかもしれない。
(※ファウストの可愛さ、綺麗さ、に惹かれるのも、自分には到底求められてこなかった新しい尺度だから…と信じたい。以前シャイロックの青臭さも遠回しに愛でていた…)
ファウストとの出会いはフィガロにとって大きなターニングポイントである。何百年経とうとも、ファウストの存在に未練が残るというのも、致し方ないことと言えるだろう。
3.傷つきたくない―フィガロ
前回の南訓練イベ考察でも述べたが、フィガロはとにかく傷つくことを避ける傾向にある。今回の東訓練イベストでは、本人の口からはっきり述べられている。
「傷つきたくないからさ。君の元から立ち去った理由も同じだ」
前回のイベストからわかっていたが、やはり。傷つく前に、回避する―愛することの代償を、フィガロは避けている。
しかし、残念ながら、このフィガロの主張はファウストには理解されない。ファウストには傷つけているつもりはなく、フィガロは一方的に傷ついている。平行線である。
そもそも、ファウストとともに軍に入ったフィガロは、なぜ「傷つく恐れ」を感じとってしまったのか。
これはスポットエピソードで明らかになっている。
「いざ軍に合流したら、俺はお客さんだった。ありがとうごいざます。またいらしてくださいね。って、言われる前に家に帰ったんだよ」
これがフィガロの言い分である。ファウストにはもっと直接的に告げている。
「アレクが死んでも、きみは死ぬまでアレクを忘れない。俺は結局ひとりぼっちだ。そんなのやってらんないよ」
もう少し整理してみよう。
フィガロはファウストに何を求めていたのか。
尊敬、感謝…ではない。
おそらくは、「共に歩むこと」なのだ。師弟関係ではない、おそらくは対等な関係を望んでいたはずである。なぜならフィガロは「中央の国とアーサーを二人で見守る世界」を望んでいたというのだ。
前述したが、フィガロはファウストの存在によって、ようやく自分固有の物差しのようなものを得たと考えられる。つまり、ファウストと共に歩んでいけば、オズの下位であり続ける緩やかな地獄から抜け出せるのである。
それなのに、ファウストはフィガロに「育ててもらった感謝」だけを残し、こともあろうか人間に「同志」を見出し、彼と共に歩もうとしている。それを目の当たりにしたフィガロの胸中は、想像するだけでも心臓が痛い。
やってらんないよ
の言葉の裏には、失望と、諦めと、飢えと、懇願と…フィガロの苦しい当時の思いが未だに渦巻いている。フィガロはファウストのもとを去ってから、自分の価値を見失ったままなのである。失恋…なんて生ぬるいものでは無い。生きる場所を、生きる目的を、失ったのである。
それでもなんとか、医者、南の魔法使いの頼りないおにいさん、などの属性を作り上げ、居場所を作ろうとしている。本当の自分は見失ったままだから、傷つくことはない。
傷を避けて避けて、フィガロはたったひとり、石になろうとしているのである。
4.傷つけたくない―ファウスト
一方のファウストである。彼は、信頼していた親友アレクに裏切られ、火刑に処されるという過去を持つ。一見「もう傷つきたくない」という欲望を持っていそうだが、今回のイベストから見えてきたのは、逆の性質であったように思う。
ビアンカの呪いの件にしても、ネロが「体調不良だ」と嘘までついてくれたにもかかわらず、率先して異変調査に向かおうとしている。傷つきたくないのなら、行くはずがない。
ファウストがビアンカの件で心を砕いているのは、彼女の呪いの原因が自分にあること―つまり、自分が彼女を「傷つけた」ということに対しての、責任感、罪悪感―贖罪を望む思いなのである。
ファウストは、自分が指導者として先導した結果、軍に加担し、魔法使いに多くの犠牲をだしたことへの罪悪感に、未だ支配されている。
もちろん、人間の裏切りには傷ついただろう。でももし、人間い裏切られたも、同胞に犠牲が出なければ、失望こそすれ、呪うほどにはならなかっただろう。つまりファウストは、自分が原因となり誰かを傷つけることを、ひたすらに厭うのである。
アーサーやシノが無茶をするのを見ていられないのも、自分が「指導者に向いてない」と言い放つのも、村を放っておけないのも、すべては、自分のせいで、自分の目の前で、「傷つく」なにかを見たくないからである。
夢が溢れ出すのも、それを見られることへの羞恥で結界を張っているのではないだろう。それを見てアーサーが罪悪感に苛まれたら、東の魔法使いにいらぬ不安を抱かせたら……ファウストは常に周囲が傷つくことを恐れているように思える。だからこそ、彼は「世界を良くするために」アレクと共に革命に加担し、指導者として獅子奮迅したのであろうし、東の魔法使いを二人石にしてしまったことを、こんなにも悔やんでいるのだ。
それはファウストの優しさだとも言えるかもしれないが、そんな単純なものではないように思う。
おそらくファウストは自分が傷つきすぎた結果、自分の痛みや、強者(傷つける側の者)の痛みに疎いのだ。人間を呪うことで、ファウストは、かつての心の傷にフタをしている。アレクが自分を裏切らざるを得なかった事情の裏で、彼もまた傷ついていたかもしれないことに、気づかずにいる。そしてなにより、自分の横で、密かに深く傷ついていたフィガロに、微塵も気がついていない。
「見えないものこそ恐ろしい」
……村人にそう告げたファウストこそ、「見えないもの」を見ていない。それはアレクの傷であり、フィガロの傷である。裏返せばそれは、ファウストが「愛されること、求められること」でもある。そのことに鈍いが故に、ファウストは無意識に、誰かに「見えない傷」をつけ続けている。
5.共に歩むもの、戻るべき場所―結べない約束
「傷」に関して対照的なフィガロとファウストだが、そのすれ違う関係性が如実にあらわれていたのが、ビアンカの浄化前夜である。
二人は、翌日の浄化について打ち合わせをしている。ここで方針の違いがまず打ち出される。
ファウストの案:東の魔法使い全員で浄化
フィガロの案(未遂):フィガロとファウストの二人で浄化
前述したが、フィガロはファウストと「共に」行動することを望んでいる。これは今も昔も変わらないようだ。
振り返れば、東の来る前にもフィガロは「頼ってもいいんだよ、きみにはつらい案件だろう」と声をかけている。この「頼る」のニュアンスだが、フィガロが全てを引き受けるという意味になっていないことが重要だ。あくまでも、ファウストと一緒に問題解決…というのを、フィガロは望んでいるのである。
しかし、最終的にファウストはこれを突っぱねる。
「あなたと一緒に生きるのは僕じゃないし、僕と一緒に生きるのはあなたじゃないんだよ」
これは…かなりバッサリである。
ファウストにもそれを言うだけの理由がある。彼はどうやら、革命に加担する前後で、長寿の運命に悩んでいたらしい。想像するに、おそらくアレクという同志がいても、彼は先になくなってしまうところに悩んだのだろう。そこでフィガロはファウストに対し「一緒に生きよう」と言ったらしいのだ。
ファウストはそれが「嬉しかった」のだという。
つまりこういうことではないのか。
ファウストは一時的にアレクと革命に加担していたが、そう遠くない未来にアレクを失うのは自明のことであった。その時に居場所をなくすことに悩んでいたところに、フィガロが「一緒に生きる=永遠に君の居場所になる」と手を差し伸べたわけである。ファウストとしては、フィガロ=「戻るべき場所」という認識だったのではないか。戻れる場所があるから、多少の無茶もできるというものだ。
それがいきなりいなくなった。裏切りだと思われても仕方なかろう。
今、そのときを、共に歩みたかったフィガロ
に対し
歩み疲れた時に、戻っていく場所を求めていたファウスト
なんたる切ないすれ違いか。
フィガロはもう一度ファウストと共に歩むために、彼なりに最大限言葉を尽くしている。
「頼ってよ。もうきみの期待を裏切らない。約束したっていいよ」
ここで「約束」だ。南の魔法使いとも結んでいない約束である。
こんなにフィガロが何かを渇望したことがあっただろうか。約束という絆しを結んでまで、ファウストを繋ぎ止めようとしている。
繰り返しになるが、フィガロが渇望しているのは、「自分にだけにできる生き方」である。それはファウストの中に自分を刻み、彼によって叶えられることでしか実現しない……とフィガロは思っているのだ。
教えること、共に歩むことはルチルやミチルともできる。しかしフィガロは、彼らに全てを教えず、愛しすぎず、距離を保っている。きっとそれは、彼らの中にフィガロの生き方まで預けないようにしているからだ。フィガロが自身の生を預けようとするのは、後にも先にもファウストだけなのだ。
しかしファウストはフィガロを信じられないといい、共に歩むことも、彼の生を引き受けようともしない。裏切られた過去のせいで、ファウストは先入観なしにフィガロの言葉を聞けなくなっている。ファウストに向き合うことは、自らの傷に向き合うこと。ファウストはそれを避けている。
そしてファウストは気がついていない。その先入観に基づく言葉が、実はフィガロを傷つけているということを。もっとも忌避する「誰かを傷つけること」をやってしまっている自分に、気がついていない。
約束は結ばれない。
そしてフィガロはひとりで生を終えようとしている。まだ、直線にはなれていないのに。
6.フィガロの最期の望み
前回の記事にも書いたが、フィガロはファウストにだけ、自分の死期が近いことを告げている。
もうひとつフィガロがファウストにだけ告げていることがある。それは彼が叶えたい世界のことである。
「人と魔法使いが、平和に暮らす世界…その世界を子供たちに遺して逝きたい」
この「人と魔法使いが共存する世界」というもの。
もともとはフィガロが目指したものではなかった。
それは、世界を変えようとする志を持って弟子入りをしてきた、ファウストが掲げた理想であった。
フィガロはそれを共に叶えたいと思い、ファウストを鍛えた。このためにそれまでの生があったとまで思っていた。
しかしファウストはその世界をフィガロではなく、アレクと共に叶えようとしていた。フィガロは去り、ファウストは結局その世界を実現できないまま、アレクとは決裂し、周囲を大いに傷つけ、そのために自らも傷つき、引きこもってしまった。
フィガロが最期に叶えたいのは、ファウストの夢見た世界の実現なのである。
本当なら一緒に作り、見守りたかったその世界を、ひとり、命を賭して実現しようとしている。実現することで、ようやくフィガロは「自分の生き方」はこれだと感じることが出来るのだろう。
人間と魔法使いが共存する世界の実現―
それをもってして、ようやくファウストの傷も癒え、人を呪うという縛りから、ファウストは解放されるのだろう。その世界では、魔法使いも人間も傷つけ合わないのだから。
傷つかない世界を居場所として、綺麗で純粋なファウストが生きること―それを世界の礎として見守ること……
傷つかない世界を、ファウストと共に守っていくこと……たとえその世界で2人が手を取り合って並んでいなくても、フィガロの願望は形を変えて叶うことになる。やっとフィガロは、この世に居場所を得るのだ。
ムルは月との同化を望んだ
月がこの世界を滅ぼそうとするとき、この世界の礎として守ろうとするフィガロの願望は、ムルをも凌駕する、狂おしく、大胆な望みなのかもしれない。
たとえ形が変わっても、ファウストと同じ場所で、それを守っていくのがフィガロの最期の望みなのだとしたら、その想いの強さは計り知れないものがある。
ファウスト自身を守ろうというのではないのだ、彼の夢を―本人すら諦めてしまった夢を、世界を変えて叶えようと言うのだから。そしてそれは図らずも、最強の魔法使いであるオズにすら、決してたどりつけない境地に……彼だけの居場所に、フィガロを導いていくのである。
いつも以上に酷い妄想を書き連ねてしまった。
あまりにもフィガロが不憫で、救済してあげたくなってしまったのだ。これまで北のしんどさばかりに目がいっていたが、やはり長寿系魔法使いは、だれもがみんなしんどさを抱えている。長く生きているのに、ネロが清涼飲料水のようで、ファウストと友情を育んでくれてありがたい。フィガロにも清涼飲料水を与えてあげてほしい。命果てるその時に、どうかフィガロが自分の生き方を、心から笑って終えられますように。メインストーリーの更新が待ち遠しいようで怖いようで、複雑な気持ちである。
これまで考えたことはなかったのだが、フィガロとファウストの関係性は、少しオーエンとカインに似ている気がする。フィガロはオーエンと同じように、相手を渇望している。それなのに、ファウストとオーエンは気がつかない。シャイロックとムルもそうである。
この求める・求められるのすれ違いは、月と魔法使い、あるいは月と世界の関係に通じる部分なのかもしれない…とぼんやり思ったのであった。
長文におつきあいいただき、ありがとうございました!
2010/11追記
南バラッドイベスト・1周年イベストでのフィガロについて、当記事の補足考察をしました。よろしければ。