【まほやく 中央バラッドイベスト考察】自分の在り処(ネタバレ)
魔法使いの約束 依頼人シリーズイベント「極光祈る犬使いのバラッド」。
満を持してのオズイベントということもあり、これまで手薄だった中央の考察をしよう……と思ったのだが、捗ったのは西と北と南の考察であった。
以下、イベスト未読の方は盛大なネタバレにつき、十分にお気をつけいただきたい。不快に思われる方はUターンをお願いしたい。また、毎度のことであるが、カード・親愛ストーリーは全く読んでいない上での妄想である。ご容赦願いたい。ほぼ二次創作である。
また、記事中の画像は全てゲームアプリ内の引用である。
基本的にはこれまでの考察の延長線上にあるのだが、オズを手がかりとして、フィガロ・シャイロック・オーエンについて考えていく。私の興味関心がある例のキャラクターたちである。結局まほやくのことを考える時、私はどうにもこの3人に戻ってきてしまう。3人というか……まあ、3組なのだが。
1.自分の在り処
今回のイベストメインであるオズから考えていこう。とにかく今回衝撃的だったのは、オズがアーサーがかつて住っていた部屋を焼き払っていたという事実だろう。彼がアーサーを避けていたのも、城に戻ろうとしなかったのも、なるほど、そういう事情だからだろう。
アーサーが13歳で中央の国に戻ってから、部屋を焼いたり、またそれを戻したり…を繰り返していたオズ。心が壊れるからと双子にそれを止められ、その残骸はどこにあるかわからないという。
(※13歳といえば、ちょうど元服の年齢。つまり幼少期が終わるタイミングでアーサーはオズのもとを離れたことになる。通過儀礼的な…)
その話を聞いたムルの言葉が大変印象的である。
「オズだって知りたいはずさ!何に恐怖して、何に歓喜して、何が許せずに、何に欲望を向けるのか。そこに自己がある。自己とは世界そのものさ。あなたの住んでる世界の正体!」
これはいろいろなキャラクターにブーメランな考え方なので、今回はこのセリフを手がかりに考察していきたいと思っている。
本作には、自分の中に自分の居場所があるキャラクターが少ない。基本的には、執着する相手に、自分の在り処を委ねてしまっているのである。
自分一人ならば感じない恐怖、歓喜、欲望―それが、執着する相手を媒介すると、生まれてしまう。そしてをそれは、弱さと強さをあぶり出し、「自己」の輪郭を形成してしまう。
自分の欲のままに魔法を繰り出すのが魔法使いであるはずなのに、誰かのための情緒が生まれるために、自己が乱される。
自己へこだわりが強い魔法使いであればあるほど、相手を通して相対化された自分によって、自己が大きく揺らぐのだ。
私はその揺らぎのなかで垣間見えるものこそが、「傷」であり、「月」はそれを愛しているのだと考えている。
なので、今回のムルのセリフは、大変重要だと思うのだ。
1.オズの在り処―過去のあなたの中
イベストの内容を頼りに、オズがどこに自己を置いているかを考えていく。
それはまずオズの城であることは間違いない。中央の国などにはないのだ。
オズの城の中にいるオズとは何なのか。
その最大の手がかりになるのが、今回明らかになった「アーサーの部屋を燃やしては復元した」というエピソードである。それを繰り返していると、オズ自身の心が壊れてしまうという。
つまり、かつてアーサーが住んでいた「過去」の中に、オズは自己を置いているのである。
アーサーを拾ってはじめて、魔法で服を作ろうとしたり、無関心を捨てたりしたオズは、アーサーが13歳になるまでのその期間だけ、自分以外のもののために心を動かしたことになる。
そこに自己が形成された…されてしまったのだ。
その「過去」が詰まった空間を繰り返し復元しているという行動が重要である。そしてその城を、吹雪で守り、誰も招き入れない。
つまり、アーサーとの過去を封じ、風化させず、誰にも侵されず、そのときのまま閉じ込めておくのである。
オズは、13歳以降のアーサー、未来のアーサーに執着しているのではない。過去の幻影を愛で、それを自分の手の中に収めておきたいのだ。オズの弱さのあらわれともなる「自己」も一緒に。
(オズの弱さを表象する存在だからこそ、オズはアーサーを守りたい反面、目を背けるようなところがあるのだろう)
ちなみに今回のイベストでオズは繰り返し「約束はしない」と発言している。
新しい約束などいらないのだ。彼が愛でるのは「過去」のアーサーとのつながりである。それだけを守りながら、生きていくのだ。そうしていれば、何も失うことはない。恐怖することもない。オズの約束は、時を止めた雪深い城の中に埋まっている。そして、その約束の行方はわからなくなってしまった。
オズが空虚を見つめ、心を動かさないのは、約束を見失ったからとも言える。だから「傷」も治らないし、最強の魔法使いとしての実力も半減しているのだろう。
とはいえ、今回のイベストでその城に灯りがともった。
ともすれば、約束が動き出すのかもしれない。
2.シャイロックの在り処―あなたと私の中
ここからが本題である。
オズとアーサーの関係性については、これまでのストーリーの中からも多少予想できるところがあった。それに引っ張られる形で、オズ・アーサーよりも複雑怪奇な関係性を結んでいるキャラクターについての理解が進みそうなので、そこを考えたいのである。
今回のイベストにも大きくかかわったシャイロックから考えよう。
前回のバラッドイベストで、シャイロックの命の危機をムルが助けたことは、皆様の記憶にも新しいところだろう。
それが、今回はムルの命の危機を、必死でシャイロックが助けている。
私は以前から、この二人が「同化」することを、ほかならぬシャイロックが望んでいるのだ、と考察してきたのだが、ふたつのイベストを通じてほぼ確信に変わりつつある。
シャイロックを助けたムルに対して、シャイロックは
「私が、あなたを作り変えてしまったんですか…?」
と問いかける。
情操教育と称して、シャイロックはムルに自分を刻み込んでいる。かつて双子決裂の原因を作った際にムルの命乞いをした自分の傾向を、ムルに刻み込んでいる…ということなのだろう。
そして、シャイロックはムルの魂の欠片を食べている。
つまり、自分の中にもムルを刻みこんでいるのだ。
…そう考えると、果たしてシャイロックの「自己」とはどこにあるのか、ということになる。
言うなれば、ムルと自分、両方の中にある…そしてムルと自分は「同化」すればいいと思っている…と。オズなんて可愛いもんだと思えるほど、業の深い欲である。
そして、シャイロックがムルとの「同化」を望むのは、「月」に身を捧げようとするムルをつなぎとめるためだと思われる。
つまり、約束よりも何よりも強いつながりを、「同化」により実現しようというのである。
今回のイベスト終盤で、オズはシャイロックに「心労をかけたか」とねぎらいの言葉をかけている。
2回にわたるムルの命乞いを通し、オズはシャイロックの痛ましいほどの欲望を理解しつつあるのだろう。過去に約束を埋めたのに、それが今はどこにあるかわからないオズ。ムルが月と結ぼうとしている見えない約束よりも、強いつながりを求めるシャイロック。
とても前向きとは思えない約束にとらわれる者同士…その空虚さへの共感があるのかもしれない。
3.オーエンの在り処―あなたの心と身体の中
わかりやすいといえばわかりやすいのは、オーエンである。
これもしつこいくらい当サイトで考察しているので繰り返しで恐縮だが、私は、オーエンの魂はカインに与えた眼球のなかにあると思っている。つまり、オーエンの自己は「カインの中にある」のだ。
そこから考えると、オーエンが自分では自分のことがよくわからず、周囲の思念に左右される理由もよく分かる。
オーエンは自分の中に「自己」がない。だから、周りから求められるイメージを頼りにするしかない。中でも、オーエンが自己を預けているカインに「どう求められるか」「どう見られるか」が非常に重要なのである。
言うなれば、オーエンの自己は、カインの肉体と精神の中にあることになる。もっとも自我が強いように見えて、自分の全てを手放してしまっているのがオーエンだ。
そのかわり、自己を預けた相手との間に、約束よりも強く確かなつながりを結ぼうとしている。
今回のイベストで、トトをカインに紹介されたオーエンは、「怖がられた」から喜んだという。それは自分が「怖い魔法使いだ」とはっきりわかったからである。そして、それをほかならぬカインの前でできたことは、オーエンにとって嬉しいことだったのだろう。
今回カインは「本当はアーサーが思っているような魔法使いではない」オズを見ても、「優しい奴だと信じたい」と発言している。さらには、オズたちに一般的な会話術を教えるカインは、「相手を知らないままじゃ、心の距離は離れていくだけだから」とも言っている。
本当に騎士様はどこまでまっすぐなんだ…というところなのだが、オーエンに対してもこの姿勢なのであろう。
特に「相手を知らないままじゃ…」という部分。カインは相手に触れなければ、相手を見ることができない。以前それはカインが「見えないものに疎い」ことの裏返しだと考察した。カインはそれを、会話という術で埋めていこうとしているのかもしれない。
この「見えないものに疎い」ことの副産物として、カインはオーエンを「恐ろしい魔法使い、得体の知れない魔法使い」という通り一遍の見方をしていない。今後は、「対話」によって、オーエンの本当の姿に近づいていくのかもしれない。「怖い魔法使い」などではない、孤独と承認欲求に喘ぐ、いたいけなオーエンの本質に…
しかしオーエンの「自己」はカインの中にある。
オーエンを知ろうとすることは、必然的にカインが自分自身を知ることにつながる(これはムルを知って同化しようとするシャイロックもそうだが)。「騎士」という肩書きを取り去ったカインの中になにがあるのか、大変興味深いところである。その過程で、二人の間に新たな約束が結ばれば良いが…
4.フィガロの在り処―あなたが生きる未来の中
ここ数ヶ月の最大の関心事であるフィガロについても、今回のオズのエピソードで少し考察が深まったように思う。
訓練イベストで詳しく考察したのだが、フィガロはファウストと共に歩むことを望んでいながらも、それが上手くいかなかったため、ファウストが望む未来を命を賭して叶えようとしている、、、、のだと思う。
まさかあのフィガロが、そんないじらしく、狂おしい思いを抱えているとは…というところだが、今はそうとしか考えられない。
そのフィガロの「自己」はどこにあるのか。
「過去」にはない。オズと比較されることを避けた過去、ファウストを育て、裏切られた過去…そのどこにもフィガロは自己を置いていない。
では現在…も目をかけているミチル・ルチルに自己を託しているようには見えない。なんせ自己演出である「お医者さん」として彼らに接しているのであり、自己を晒すなんてもってのほかである。
彼が「自己」の在り処として定めているのは、おそらく未来だ。自分が石になったあとの未来。
そこでは、ファウストが望んでいた「人と魔法使いが共存する平和な世界」が実現しているはずなのだ。ほかならぬ自分が、その世界の構築の犠牲となることで、彼はかつてのぞんだ「ファウストと共に世界も見守る」ことを実現しようとしている。それは、ファウストに優しい世界だ。
ファウストの存在は、フィガロの中に、誰とも比較されない自己を芽生えさせた。
だから、ファウストのための未来にこそ、ありのままのフィガロとして「まっすぐ」な「自己」があるのである。
ファウストの中でも、自分の中でもない。
ファウストが生きる世界そのものになろうというのだ。欲望の大きさは果てしない。
オズがひたすら、時間の止まった籠りの空間に押し込め、手のひらの中のアーサーだけを慈しむのに対し、
フィガロはひたすら、時の流れの中にファウストを泳がせ、その世界まるごと相手を守り慈しもうとしている
オズの対照にいるのはミスラだろうと思っていたが、
やはり大元ではオズとフィガロという対比もかなり重要なのだと思う。
フィガロが欲望を叶えて石になるとき、オズがどんな行動にでていくのか、大変気になるところである。
さて、そんなフィガロだが、これまで考察してきた通り、ファウストにだけ「約束」を持ちかけているが、拒絶されている。諦めているようには見えないため、一方的な約束を結び、それを信じて行動していくことになるのだろう。約束は「双方向ではない」ことを、自ら体現していくということだろうか。
ファウストは、自らが拒絶してきた約束を、フィガロが命を賭して一人で守りぬいたことを知った時、どれだけの衝撃を受けることになるのか…今から少々心配である。なんとなくだが…フィガロの意思を受け止めたファウストは、呪い屋ではなく、医者になる気がしている。
また長々と、中央の国以外の考察を垂れ流してしまった。
まほやくは魅力的なキャラクターが多いのだが、どうしてもオーエン・シャイロック・フィガロが気になってしまうのである。
今回のイベストを通じて彼らを捉え直してみると、自分の在り処がすべて「相手由来」であることがわかる。
自分の中に自分を見いだせず、相手の中に自分を見出そうとするから、彼らは相手をひたすらに乞い、繋がろうとする。
月に恋するムルのように
それにしても、月にしても魔法使い同士にしても、どうにも「双方向」にならないのが、本作の関係性の特徴である。メインストーリーの更新がいつになるかわからないが、二部では「一方的」なつながりが「双方向」になる過程が描かれることを、今からとても楽しみにしている。
長文におつきあいいただきありがとうございました!