【まほやく1周年イベ考察】愛すべき「傷」⑦(ネタバレ・カイン/オーエン編)
「魔法使いの約束」一周年おめでとうございます。
サービスイン初日からプレイしている身として、大変うれしい。メインストーリーの続編制作も決定したとのこと、ますます今後が楽しみである。
1周年の大型企画として公開された、記念イベントストーリー。すでに読了された方も多いと思うが、1章と2章をつなぐ大切なパーツのひとつだったと思う。
概観としては、本作のキーパーソンはかわらずにムルであり、少年漫画の主人公的な立ち回りはアーサーとシノが担い、新時代のトップはミスラなんだろうな…という印象を受けた。それだけに、その前の世代の魔法使いたち、中心では動いていかない魔法使いたちが今後どうなるのかが非常に気になるところだなと思った。賢者の立ち位置も気になるところである。
とはいえ、今後のストーリー展開については、他の方々が大いに考察してくださっているだろう。私はいつもの通り、気になったキャラクターたちについて深堀をしていくことにしたい。まずは、カインとオーエンからはじめる。
以下、各種ストーリー未読の方は盛大なネタバレにつき、十分にお気をつけいただきたい。不快に思われる方はUターンをお願いしたい。また、毎度のことであるが、カード・親愛ストーリーは全く読んでいない上での妄想である。ご容赦願いたい。ほぼ二次創作である。
また、記事中の画像は全てゲームアプリ内の引用である。
【参考】過去のカイン・オーエン考察記事
・【まほやく〜21章考察】身のつながり、魂のつながり①(ネタバレ)
・【まほやく~21章考察】愛すべき「傷」①(ネタバレ)
・【まほやく 南訓練イベ考察】愛すべき「傷」④(ネタバレ)
・【まほやく 中央バラッドイベスト考察】自分の在り処(ネタバレ)
1.「いばら」という枷
今回のイベストで重要なモチーフとして登場してきた「いばら」。オーエンにもかなり因縁のある事物であることがわかった。
まずは夢の森スポットエピソードから。
いばらを見たとたんにオーエンは黙り込んで、立ち止まってしまったとのこと。ブラッドリーはそれを「呪いみてぇなもんさ。魂にのしかかる忘れられない景色」と表現している。ほぼその通りだと思われる(ブラッドリーすごい!)
また、北の国から戻ってきたオーエンは、裾についたいばらのとげをカインにとってもらったことで、再び同じような状態になる。
いばらに囲まれた、暗くてじめじめした場所
=かつてオーエンが閉じ込められていた場所
と考えてほぼ間違いないだろう。「いばら」を見たり、触れたりすると、オーエンは過去に戻ってしまい、例の人格が出てきてしまうのだ。そして、外の世界は「いばらよりももっとトゲトゲしている」と教えられていた。だから外に出るという選択肢はオーエンの中から摘み取られてしまった。
閉鎖的な部屋中に籠って「いい子」にしていれば、必ず戻ってくる、迎えに来る…と「誰か」に言われていたのだ。そして迎えは来なかった。
カインの部屋で「いかないで…!」と懇願したオーエンは、この経験をもとに発言していると考えていい。
カインは簡単に「いつでも出ていけるし、戻ってこられる」と彼を諭すが、オーエンにはそれができない。「外はトゲトゲしていて怖い、中でいい子にしていれば迎えに来る」という言葉の呪いは、まだオーエンの中で有効なのだ。
(※ただし、外に出る試みを全くしていないわけではないことが、「カインの部屋の扉に何度も椅子をぶつけて傷だらけにした」行動からにじむ。恐らくオーエンが実際に外に出た背景にも、こういった暴力的な行動があったのだろう。とはいえ、暴力行動の結果偶然扉が壊れてしまった、という意味合いが強く、「外に出たい」欲は強くなかったように思う。)
するとやはり、オーエンを置いて行った「誰か」は、カインとは異なるものの…「騎士」に近い存在であったとみるほうが良いかもしれない。
今回、このオーエンが抱える「いばら」の風景―それこそ「傷」は、オーエンにとって重たい枷となってしまう。
以下、それぞれの過程を見ていこう。
2.カインを「助ける」こと
これまでカインとオーエンを見守ってきた身として、今回大変驚いたのは、本当に唐突に…さらりと、オーエンが「手伝ってあげようか?」とカインの戦闘に協力してきたことである…
オーエンがカインを助けたのは、過去に2度ある。
最初はニコラスとの戦闘時(メインストーリー終盤)
二回目は、中央祝祭イベストである(ただし、遠隔)
※雨待花イベストは行動を共にするが、助けてはいない…と思う。
いずれの場合も、他の魔法使いがいた。今回は、途中でクロエとラスティカの助力があるものの、基本的には「ふたりきり」である。こんな日が来ようとは思うまい、1年前の私。
今回の場面に入る前に、まずは、オーエン自身が「カインを助けること」をどう思っているのかを、スポットエピソード(助け船の理由)から確認しておきたい。
賢者に、ニコラスからカインを守ったことについて尋ねられたオーエンは、理由をふたつ述べている。
①「絶望も憎悪もしらなそうな騎士様に教えてあげる、本物をね」
②「たかが人間の男に言い負かされそうになっていたから気に食わなかった」
だいぶニュアンスが違うが、どちらも本音だと思う。こういうふたつの感情を使い分けるあたりが、オーエンのタロットカードが「節制」である理由だと私は思っている。
②は「騎士」としてのカインの在り方を貫かせ、自分の目(魂)を預けている器を守らせるための発言だと考えていい。さらに重要なのは①である。
オーエンにとって本物の絶望や憎悪とはなんだろうか。
恐らく彼が「よく知っているもの」であろう。それを、カインに知らしめたいというのだ。
言い換えれば、「自分がよく知る感情を、カインにも知ってもらいたい」
これである。今回のイベストのテーマである「君を知りたい」の反転、「私を知ってもらいたい」…ということである。
以前から考察していることだが、オーエンはどうしてもカインを通して自分を相対化したいようだし、カインにそれを受け入れてもらうことで、承認欲求を満たしたいのだろうと思う。これもまた狂おしい「乞い」である…
(※大前提として、オーエンは自分の魂をカインの「目」に隠している…預けていると思っている。自己をカインに委ねている重さがすごい)
以上を踏まえて、今回のイベストの場面を考えていこう。
過去2回の助け方と、今回の助け方は少々ニュアンスが異なる。オーエンは「カインに魔法の使い方を教える」ことで彼を助けているのだ。
私はちょっと、いやだいぶ感動した。
なぜなら、魔法は「心」で使うもの。アプローチは微妙だが、オーエンがカインの心に触れようとしたのである。これは大きな進歩だと言っていいだろう。自分の心を知ってほしい、だけでなく、相手の心も知ろうというのだ…オーエン…
そしてカインがより強い魔力を持つ可能性についてオーエンは「まだね」と告げている。これも非常に重要だろう。
今後もオーエンは「魔法を教える」という方法で、カインの魔力のもとである「心」に介入していくのではなかろうか。でなければこんな発言はできないように思うのだ。
「目」だけではカインの魔力の底上げは難しいだろう。二人は今後「目」だけでなく、「心」でもつながっていくのではないか…という希望が見えた矢先に、今回のイベストでは悲劇が待っていたのであった。
3.「騎士」という導火線
これまで、オーエンが「騎士」という存在を求める場面では、だいたいが「傷」人格が優勢で、非常に弱弱しい態度であった。これが今回は違っていた…と言わざるを得ないだろう。
ふたたび「いばら」により人格が過去に戻ってしまったオーエン。共闘は頓挫、カインは困惑し、最悪な選択をしてしまう。
城内にいるであろう賢者・アーサーを単独で助けに行くから、この「いばら」の場で一人待つようにオーエンに指示したのである。
つまり「騎士」であるカインは、
いばらに囲まれたアーサーを助けに行くかわりに
いばらに囲まれたオーエンを置き去りにするというのである。
突き付けられたのは、カインが「オーエンの騎士」ではなく、「アーサーの騎士」であるという事実である。
この発言を受けてオーエンは「僕はかわいそうじゃないの?」と言い、南訓練イベストでみせたような表情を見せる(過去記事参照)。違ったのはこのあとだ。
オーエンが使役するケルベロスがカインにおそいかかり、彼を食ったのである。
「いい子にしてても、いい子に待ってても、僕は助けてくれなかったくせに…死んじゃえ」
といいつつ、オーエンは食われるカインを傍観する。自分を置き去りにし、裏切った「騎士」は、もう「いらない」のだ。
とんでもない場面だと思った。
現在の人格のオーエンよりよほど怖いではないか。
ひたすら迎えを待っていたオーエンは、「騎士」の裏切りというショックから、完全に獣性を解放したとしか思えない。過去においても、こういうやりとりが繰り返されたのではないだろうか…
現在のオーエンのほうが「怖い魔法使い」という認識が一般的だったと思うが、それは改めなくてはならないだろう。「騎士」という導火線を持つかつてのオーエンは、今よりもはるかに恐ろしい存在だと思うのだ。
4.「騎士」ではなく、「カイン」として
現在の人格に戻ったオーエンの反応を見ていこう。
ここでは、直前とは打って変わり「騎士」にこだわらないオーエンの姿が垣間見える。ここがかなり重要だと思うのだ。
確かにオーエンは、カインに魔法を教える際に
「 大事な賢者様と王子様を守るんじゃないの?それでも騎士様なの? 」
と煽っているのだが、そこに「傷」人格の時のような「騎士」への執着は、見えないような気がする。
それよりもオーエンの執着がむき出しになったのは、カインが「おまえまで見えなくなって…」とオーエンすら視認できなくなったことを告げた時だ。
カインの最も鋭い感性であり、二人の「つながり」である肉体=手、を握って、オーエンは必死に呼びかけている。
「…目をあけろよ!見えるはずだろ!?カイン!…カイン!」
こんなに必死になるオーエンの様子は、初めて見たといっていい。そして何よりも、この…「カイン」という呼び方である。
これまで頑なに「騎士様」と皮肉っぽく呼んでいたオーエンが、こんなにカインの名前を連呼するなんて、かつてない一大事である。(ここはフルボイスで聞きたかった)
ここからわかるのは、いかに今のオーエンが、カインに「見られること」に執着しているか、ということではないか。
「騎士」という肩書も、どうでもよくなっているのだ。
かつてのオーエンが渇望していたのは「騎士に守られること」だった。今は違う。オーエンが求めてやまないのは、「カインに見られること」なのである。
これもしつこく考察してきたが、オーエンは「人から向けられる思念、まなざし」に従順であることで、「自分」を理解することしかできない。
だから今回も、傷ついたカインをみた瞬間に、いわば自分の「看板」である、「悪い魔法使い」のレッテルを選び、「僕がやったんだ、きみの不幸は全部僕の仕業」、と納得しようとする。実際は記憶がないのに、だ。
ところがカインは「お前がわるいんじゃない」と、オーエンの言葉を否定する。オーエンの「目」を持ち、その瞳でオーエンを見ていたカインが、「悪い魔法使い」レッテルを否定していることの意味は重い。
オーエンはここから明らかに冷静さを欠いていき、クロエの言葉の影響もあり、「カインのために祈る」という、「悪い魔法使い」ではありえないことをする。
やはり、体(魂)の一部を預けている相手から「見られること」は特別なのだ。オーエンが自己を保つための生命線、それはカインである。無意識にしろなんにしろ、オーエンがオーエンなりに必死に彼を救おうとしたのは、そのためなのであろう。
※ちなみにイベスト終盤、オーエンがカイン以外から「見えにくく」なっている現象の背景には、これまで彼のアイデンティティであった「悪い魔法使い」属性が揺らぎつつあるからだと思う。オーエンの本質に触れたカインにだけは、ちゃんと見える。
5.「身」のつながりから、「心」のつながりへ…
最後にカインのことをもう少し掘り下げてみたい。
さすがに1周年、カインもオーエンの「傷」人格については、イベスト冒頭から一応認識しているようだった。(メインストーリーでは、なんなんだ…?という姿勢しかなかったと思う)
「傷」人格に対するカインの理解が、このイベストで一気に深まったのは、怪我という代償はあったものの、大きな収穫であったといえるだろう。オーエンの内面の「傷」への理解が、カインの外側の「傷」によって進んだということだ……
カインは、オーエンの「傷」人格を
「小さいおまえ」
と呼んだのである。
作中人物のうち、北の一部の魔法使いを除き、おそらく唯一…
オーエンの幼いころの人格=「傷」人格
だと理解したのが、カインということなのだ。
私は過去の考察記事で、カインは心の機微に疎いかわりに、身体感覚にたけている…ということを書いたのだが、今回のイベストではそれを訂正せねばなるまい。
カインは間違いなく、この一連の事件を通して、オーエンの心に触れている。しかも「目」のつながりには頼らずに、だ。
その証拠に、イベスト終盤でオーエンを食事に誘うカインは
「オーエン。おまえだけ置いていかない」
とはっきり告げるのである。
これは、「傷」人格のオーエンのしっかり見て、その言葉に…心にしっかり触れなければ、理解できなかったところなのだ。
なんたる成長…私は感動した。
カインのタロットカードは「力」。この図像はウェイト版では、獣を手なずける女性である。彼女が持つのは「心の力」。カインは心の力でオーエンを救う存在だ…と信じたい。いや、今回のイベストを通して、信じられると確信した。
そしてカインの「力」は、オーエンをより強くするだろう。今回だって、相性の悪い「いばら」に、カインと一緒なら立ち向かえたではないか。
カインとオーエンの間に「約束」はない。
しかしきっと、「目」という肉体のつながりよりも強い、「心」のつながりができたとき、それは二人の「約束」となるのではないかな…と思っている。
長文にお付き合いいただきありがとうございました!