【声劇台本・4人用】余計なお世話は会議室に集う
“余計なお世話は会議室に集う“
ジャンル:現代コメディ
こちらは声劇を想定した台本になります。
よろしければお読みいただけると幸いです。
◆内容
トランスジェンダーであることを告白した新入社員。
その周りの三人によって繰り広げられる世間話とよけなお世話。
◆登場人物
桜井:男。入社6年目。真面目な好青年。伊織の世話係。
渡辺:男。入社9年目。仕事に対してはやる気がない。桜井と同じ部署。
近藤:男。入社12年目。年上らしく堂々としているが、傷つきやすい。
伊織:女→男。入社1年目。トランスジェンダーで女性の体だが心は男性。真面目で一生懸命。
・本作品は「トランスジェンダー」を取り扱っております。不快に思われる方は、本作品を読むのはご遠慮ください。
・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
・アドリブ可。好きに演じて下さいませ。
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回想 一カ月前の会議室
伊織:…ミーティングの最後ですが、お時間をお借りしてもよろしいでしょうか。チームの皆さんにお伝えしたい事があります。
僕は、トランスジェンダーです。
戸籍上の性別は女性ですが、心は男性です。大学の時、男性になることを決意しました。
皆さん僕の素振りや行動に違和感があったかもしれません。それは男性として振舞って日が浅いためです。申し訳ございません。
以上です。貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございました。
現在 会議室
桜井:(ドアから入ってくる)…遅れてすみません
渡辺:おせーぞー桜井。先輩を待たせる後輩に育てた覚えはねーぞー
桜井:いや別に渡辺さんに育ててもらった覚えないんですけど…近藤さんもお疲れ様です。
近藤:おーう、おつかれ
桜井:てかなんなんですか。急に呼び出して。チーフにみつかったらマズいんじゃないですか?
近藤:うむ、俺も渡辺に呼び出されたんだよ…なにか急ぎの相談があるとかで
渡辺:まーまー、まずは一杯、どーよ?
桜井:いりませんよ!仕事中ですよ?
渡辺:じょーだん、冗談!ま、それぐらいリラックスしてくれやって事
桜井:また仕事さぼるための口実考えたとかじゃないんですか?
近藤:なんだそうなのか?なら俺は行くぞ
渡辺:そんなわけないでしょー!つっかかる言い方すんなあ。今からする話はマジ大事!大事なことなんだから!
桜井:本当でしょうね…
渡辺:ほんとホント。あ、でも。酒の一杯はダメでも、コーヒーの一杯は欲しいなー。桜井買ってきて
桜井:俺すか!?今来たばかりなんですけど!
渡辺:まーまー。俺と近藤さんのと合わせて3本ね。金あとで出すから
桜井:ホントでしょうね…まあ飲み物ないのもアレだし、いってきますよ
渡辺:よろー
近藤:…で、なんで俺まで付き合わされてんだ?
渡辺:え?
近藤:桜井をからかいたいだけなら、俺は邪魔だろ?なんで俺まで呼んだんだ?
渡辺:からかってるんじゃなくて、俺なりの愛情表現なのに。でもまあ、今回の話、てゆうか相談は、近藤さんも気にしてることですよ
近藤:俺が気にしてる?
渡辺:リーダーって役職だからこそ、聞いておいた方がいいかと思いまして。
近藤:ふーん…さわりだけでも教えてもらえない?
渡辺:駄目です。桜井が戻ってきてからのお楽しみ
近藤:お楽しみって、楽しんでるのはお前だけだろ…
桜井:…はい買ってきましたよー。
渡辺:おっ、待ってました!
桜井:ブラックでいいですか?
近藤:おお、サンキュー
渡辺:えー俺、微糖派なんだけどなー
桜井:文句あるなら飲まなくていいです。どうせ金払わないんですから
渡辺:へへ、ばれた?
桜井:ばれたじゃなくて、たまには出してください!
渡辺:あーん後輩がこわーい
近藤:ハイハイ、ふざけるのはそこまでな。…おお、やっぱコーヒーはワンダだよな
渡辺:コーヒーの銘柄にこだわりとかありませんて…
近藤:マジか。朝専用とか俺好きなんだけどな
桜井:あーわかります、でもコンビニにあんまり置いてないんですよね
渡辺:いやコーヒー談議はいいですから。本題入ってもいいですか?
桜井:あ、ハイ
近藤:つかお前が仕切るのな
渡辺:当然!俺が話持ってきたんですから
桜井:ハイハイ。で、その話っていうのは?
渡辺:聞いて驚け!驚いて聞け!なんと!
近藤:なんと?
桜井:なんと?
渡辺:…伊織を中心に、三角関係が出来てるみたいなんすよ!恋愛の!恋の!三角・関係!
(間)
近藤:ハイ撤収てっしゅー
桜井:おつかれしたー
渡辺:ハイ待って。待って待って。わかってたから。この冷めたリアクション予想してたから
桜井:予想してたなら言わないでくださいよ
渡辺:そんなツレないこと言うなってー!だって伊織の事だぞ?お前教育係に就いてんだろ?
桜井:そりゃ、伊織のことは、気になってますけど
近藤:というか、桜井に限らず、チームの皆は気になってるだろ。あいつの事は
桜井:そうですね。この前のミーティングはびっくりしました
近藤:ああ、そうだな。あの、その…伊織が、えと…
渡辺:トランスジェンダー
近藤:お、おい!
渡辺:なんだ、言いにくそうにしてたから忘れたのかと思いましたよ。
近藤:そんなわけないだろ!今も悩んでるんだよ、どう接すればいいのか…
渡辺:そんな難しく考えることないのに
近藤:お前能天気すぎない?
渡辺:ちなみに、伊織のような奴の事を「FtM」て言うらしいですよ
桜井:FtM?
渡辺:フィーメル・トゥ・メル。女から男になったってこと。逆はMtFだって。ネット情報
桜井:それで、その伊織の恋愛事情に首突っ込もうって話ですか
渡辺:マジどうしたの桜井チャン。言葉のトゲがさっきからチクチク刺さってきてるよ?
桜井:毎度毎度面倒事を押し付けてくる先輩の言う事ですから
渡辺:まーまー、あの件もその件も悪かったって。今回は話だけ!な!
桜井:いいですけど、短くしてくださいよ?
渡辺:わーってるよ。…あ、そだ。桜井そこのホワイトボードに相関図書いて
桜井:なんでだ!?長く話す気満々じゃないですか!
渡辺:いいじゃんあった方が分かりやすいじゃん?ほらマジック持って、キャー似合ってるぅー!
桜井:嬉しくないスよ…
近藤:まあ、いいや。聞こうじゃないか。伊織のこと
渡辺:そうこなくっちゃ。先ずですね、佐々木!
桜井:佐々木?あの伊織の同期の?
渡辺:そう、佐々木が伊織の事好きみたいなんだよねー
桜井:へえ、確かに佐々木は伊織と一緒に行動することが多かったから、それで惹かれたのかもしれませんね
渡辺:で、もう一人は、別チームの神田!
近藤:神田!?
桜井:え、近藤さん知ってるんですか?
近藤:ああ、神田は有名だからな
渡辺:そう、色んな男を手籠めにする色魔!サキュバス女!それが神田!
桜井:渡辺さん神田に恨みでもあるんですか…
近藤:で、その神田が伊織を狙ってると
渡辺:そう、これが伊織をめぐる、三角関係の出来上がりなんです!
(間)
桜井:なんか、伊織のやつ、ハーレムマンガの主人公みたいになってますね
渡辺:だよな。許せる?
桜井:そういう話!?
渡辺:ま確かに、伊織は顔整ってるし、線細いし、優しいし真面目だし?モテるのも分かるんだけどさー
近藤:結局愚痴りたいだけだったんだな
渡辺:違いますって!これから伊織をサポートするために話し合いたいってことですよ!
近藤:サポートってお前、余計なお世話なんじゃ…
渡辺:じゃあ、伊織はどっちを選べば幸せになると思います?
近藤:…
桜井:…そりゃやっぱ佐々木でしょ
渡辺:だよな!やっぱ佐々木だよな!神田はダメだよな!バツだよな!願い下げだよな!?
桜井:マジで何があったんですか渡辺さん…でも、悪い噂のある神田さんより、気の合う佐々木の方が、付き合うと楽しいんじゃないかなーって
渡辺:そう、桜井チャン分かってるぅー!結局は安全な橋を渡る方がいいの!危険な橋は叩いて壊したがいいの!ダメゼッタイ!
桜井:それに、佐々木は家庭的っていうか、よく自作のお菓子持ってきてくれるし、しかも美味い
渡辺:うんうん
桜井:それに、体調崩すと心配してくれるし、笑顔が可愛いし、身長も丁度いいいくらいだし
渡辺:うんうん…あれ?桜井、もしかして佐々木に惚れてた?
桜井:…はっ?ばっ!ちが、違いますよ!
渡辺:話聞いてて内心傷心してた?
桜井:違います!とにかく、真面目な伊織と佐々木がくっつけば、2人とも幸せになっていいんじゃないスか?
渡辺:おーおー強がっちゃって。でも進展するのはちょっと難しいかもな
桜井:え?なんで
渡辺:伊織がトランスジェンダーって告白したからさ。佐々木も、恐らく噂で耳にしている神田も、手が出しにくくなったんじゃないか?周りの目もあるし
桜井:あー…
近藤:…くだらない
渡辺:え?
近藤:恋愛に性別は関係ないだろ。男は男を、女は女を好きになってもいい。俺たちが口を出すことじゃない
近藤:いいか、伊織が男でも女でも、誰を好きになってもいいんだ。周りを気にせず、堂々としてればいいんだ
渡辺:…
桜井:…
近藤:…
渡辺:…それは違くないですか?
近藤:え?
桜井:そういう事じゃないっていうか
近藤:え?
渡辺:伊織は大学までトランスジェンダーであることを隠してたんですよね?周りを気にしながら。その経験上、他人の目には敏感だと思いますよ
近藤:あ…
桜井:それに伊織はトイレ行くのも、共用で使われてるとこ探してるそうですよ。男性のところは入りづらいって。それで周りの事を気にせずっていうのは、無理があるっていうか
近藤:うぅ…
渡辺:だいたい考えが甘いんじゃないですか?そんなテンプレ構文だされても、そんなの伊織や他の人間に響きませんて
桜井:そうですね、ちょっと配慮が足りないっていうか
渡辺:だからリーダーから昇進できないんじゃないですかー?
近藤:そ、そんな、そんな…。そこまで言わなくたって、いいじゃない…ぐすっ
渡辺:あ、凹んだ
桜井:近藤さん傷つきやすいんだから、言葉選んでくださいよ
渡辺:いやお前だって共犯だからね?
(コンコン)
伊織:…すみませーん
桜井:あ
渡辺:あ
近藤:ぐすん
伊織:あ、やっぱりいた
渡辺:伊織だ
桜井:どうしてここに
伊織:チーフが呼んでましたよ。サボってないで仕事しろって
近藤:チーフ!?もうバレたのか!
渡辺:あ、復活した
伊織:どうせ渡辺さんあたりがサボるための口実作って3人でサボってるんだろって
桜井:え、待って俺らよくサボる3人として認知されてるの?
近藤:渡辺はともかく、俺らは普段は真面目に仕事してるぞ!
渡辺:あーひどい!俺だけ仲間外れにする気だ!罪を俺一人になすりつける気だ!
桜井:事実、俺たち集めたの渡辺さんでしょ…
伊織:さ、戻りましょう。仕事たまってますよ
渡辺:そーのーまーえーにーいおりくーん!
伊織:な、なんですか
桜井:嫌な予感…
渡辺:伊織はさー、好きな子とかいんの?
伊織:は?…は!?
近藤:あー、ぶっこんだな。単刀直入だ
伊織:す、好きな人って、高校生ですか!?
桜井:そういわれると、結構ツラい…
伊織:はっ、もしかして会議室にこもってまで話してたことって…
渡辺:まあ、そこに相関図書いちゃってるから、隠せるとは思ってなかったけどな
伊織:わ、わー!わー!何かいてるんですか!個人情報漏洩!プライバシーの侵害!
桜井:消しちゃった…この反応からすると、本当の話だったのか
渡辺:リアルハーレム主人公、ここに爆誕ってね
近藤:本当なのか伊織?その…三角関係というのは
伊織:は、はあっ!?三角関係?違いますよ!
近藤:佐々木とは?
伊織:佐々木さん?佐々木さんとは、よくご飯行ってますけど
桜井:神田さんとは?
伊織:神田さん?他部署の?よく話しかけてくださりますけど、それ以外の事は…
渡辺:二人のうちどっちが好きなの?
伊織:す…好きって!好きって?そんな選ぶとか、僕なんかがおこがましい、恐れ多いですよ!
渡辺:うわー、ハーレム主人公らしい発言
桜井:ホントに言うんですね…
伊織:それに!僕好きな人いるし!
桜井:え?
近藤:え?
渡辺:え?
桜井:すきなひといるの?
渡辺:それはさっきのふたりいがいに?
近藤:それはだれなの?
伊織:ちょ、なんですか3人とも!居たら悪いですか!もういいでしょ戻りましょうって!
渡辺:ちょいちょちょいって待ってって。ここまで言って、誰とか言わないとか無しでしょー?
伊織:う、ウザい…いいでしょ誰でも!個人情報!プライバシー!
渡辺:ええーそんな俺達のなかじゃないのー水臭いじゃないのー
桜井:これは、言うまで離さない気ですね
近藤:だな
渡辺:そのとーり!言うまで離さん!さあ、言え!言うんだ!誰なんだ!相手は!
伊織:なんて面倒くさい…分かりましたよ、言う、言いますよ、姉川さんですよ!
近藤:え…?
桜井:あ、姉川って…
渡辺:もしかして受付の…?
伊織:そうですよ…ったく
渡辺:あの、超絶美人で高嶺の花の?
伊織:はい
桜井:長身でモデル顔負けのスタイルの?
伊織:はい
近藤:入口で笑顔で俺を出迎えてくれるあの?
伊織:はい。…はい?
桜井:それは近藤さんの主観でしょ…。家族いるんだからしっかりしてください
近藤:いや妻帯者だってクラっときちまうくらい美人って事で!
渡辺:その姉川さんを狙ってるってワケ?どーしてまた
伊織:その、姉川さんは僕が入社したころから色々気遣ってくれてて。よくご飯にも誘われてくれて
近藤:あの姉川さんが?意外だな、男と話してるのあんまり見たことない
伊織:そりゃ2人っきりじゃないですけど…佐々木さんとかと一緒だったりしますけど。でもよく相談とか乗ってくれて…それで
渡辺:惚れたと
伊織:ちょっ…まあ、そうです…
桜井:まあ姉川さん相手だったら皆そうなっちゃうよなー。美人だもんな
伊織:ち、違います!外見じゃなくて中身に惹かれたっていうか
桜井:じゃあ外見には全然興味ないと
伊織:いやっそれは…外見もとても魅力的だと思いまふ…
渡辺:よし決めた!
桜井:え?
渡辺:伊織。今度姉川さんデートに誘ってこい!
伊織:は!?
近藤:なんでお前が決めるんだよ
渡辺:それで当たって砕けてこい!
近藤:あ、ただの嫉妬だったわこれ
伊織:デートって…そんな間柄まで行ってないし。いきなりは無理ですよ!
渡辺:えー?でもー?行きたいでしょデートー?
伊織:それは、まあ…
渡辺:早くゲットしないと、他の奴にとられちゃうぜ?
伊織:ぐっ…
桜井:でもまあ、デートまでいかなくても、プライベートで遊びに行くっていうのはアリかもよ、伊織
伊織:桜井さんまで!
桜井:友達とか誘ってさ。複数人だったらハードルも下がるだろ?
近藤:もしかしたら伊織を諦めた佐々木が桜井の方を向くかもしれないからな
桜井:そういう意味で言ったんじゃないです!でも、伊織も今のままだと辛いだろ?
伊織:それは、まあ…
渡辺:さすが絶賛片思い中の人間の言葉は重みが違いますなー
桜井:だから違いますって!
伊織:桜井さん、もしかして佐々木さんの事
桜井:だーかーらー!違うって!俺より伊織の事でしょ!?
近藤:そうだな、まあ遊びに誘うくらいいいんじゃないか?タダだし。上手くいけば姉川さんの普段着見れるかもしれないぞ?
伊織:う、それは、見たいかも…
渡辺:奇抜な服だったらどうする?
伊織:どうもしません!姉川さんは姉川さんなんですから!全部受け入れます!
渡辺:ハイ決定!今度メシ行ったときにでも誘え!必ず!な!ハーレム主人公!
伊織:無理矢理話を進めないでください!あとハーレム主人公ってなんですか!
桜井:まあまあ、渡辺さんに突っかかってもしょうがないから。
渡辺:この後輩ホントひどくない?
近藤:じゃ、がんばれよ伊織。姉川さんの私服、頼んだぞ
伊織:もしかして決定してます!?あと近藤さん欲望がはみ出ちゃってますよ!
桜井:頑張れ、伊織
伊織:うぅ~…
一週間後 会議室
近藤:…ごくっ。ふぅー…。ワンダもいいけど、最近ボスもいいなって思って来たんだよ
桜井:え、ボスですか。例えば?
近藤:贅沢微糖とか、好きなんだよな。缶が金色ってのがいい
桜井:金色
近藤:そう。なんか、豪華な感じっていうか、いかにも俺贅沢してますーって感じしない?
桜井:あー、色で左右されちゃうことってありますよね
近藤:あとコク!コクが全然ちがうよな
桜井:コク?
近藤:そう、深みが全然違ってるっていうか、な!
桜井:コクってなんですか?
近藤:え?
桜井:コクってなんですか?俺わかんないっす
近藤:こ、コク…コクは、あれだよ…なんか、コクってするっていうか
桜井:コクってする?
近藤:そう、コクってする。コクってする…コクってする…コクする…コクる…
近藤:コクる、告る!そういえば、伊織の告白ってどうなった!?
渡辺:流れが無理矢理すぎでしょ!それにコーヒー談議はもういいって言ったでしょうが
近藤:す、すまん
桜井:結局コクって何なんですか?
渡辺:いいんだよコクの話は!どうせここにいる誰も知らないんだから!近藤さんもロクに知りもせずに使った言葉なんだから!
近藤:そんな言い方、ひどい…ぐすっ
桜井:あ、また泣かせた。渡辺さん近藤さんのこと泣かせすぎですよ
渡辺:いやお前が原因つくってるからね?言葉のパワーブロウ打ってるからね?自覚した方がいいよ?
桜井:それで、今回は何なんですか?また会議室に集めて
渡辺:さらっと話題すり替えたよ、何気に怖いよこの後輩。
桜井:就業時間に呼び出すの、もうやめた方がいいですよ。前回だってチーフに睨まれながら仕事してたんですから
渡辺:それでも集まってくれる2人が好きよ
桜井:キモいです
近藤:キモいなあ
桜井:あ、復活した
近藤:まあ、伊織をけしかけた手前、このままドロンとはいかないだろ
桜井:ドロンってまた古い…
近藤:そんな言い方…
渡辺:ハイハイ凹むのは後で!今回は伊織も呼んでるんですから、あいつが来るまで待ちましょう!
伊織:(ドアから入ってくる)…遅くなりましたー
渡辺:噂をすれば伊織!ようこそ伊織!さあ、あれからどうなったか話したまえ!
伊織:うっ、入って早々にウザい…
渡辺:君も俺に対して当たり強いよね。どうして俺ってこんなに後輩に好かれないかなあ
桜井:自業自得でしょ
近藤:で、伊織。結局姉川さんとはどうなったんだ?
伊織:そ、その話ですか!?仕事中ですよ!この前だってチーフに…
渡辺:いーからいーから!チーフの事は大丈夫だから!きっと。で、姉川さんはデートに誘ったのか!?それとも砕けたのか!?
桜井:どちらかというと砕ける方を期待しているような
近藤:最低だな
渡辺:気のせい気のせい!で、どうなの実際!姉川さんの私服、期待してんだから!
伊織:それが…この前2人きりでご飯に誘われて
桜井:おおー!やったじゃん!
伊織:それで、遊びに誘おうとしたんですけど
近藤:ふんふん
伊織:その前に
渡辺:ふんふん
伊織:…姉川さんが、実は佐々木さんが好きだってカミングアウトされて
桜井:…
渡辺:…
近藤:…
伊織:…それで、佐々木さんとお近づきになるために、色々サポートしてほしいって
渡辺:相関図!
桜井:ハイ!
桜井:…えっと、佐々木さんは伊織を、神田さんも伊織を、伊織は姉川さんを、姉川さんは佐々木さんを…なんか、数学の図形の問題みたいになってます!
近藤:すごいな、こんだけ人がいて全員片思いか。ハチクロか?
桜井:そんなマニアックな例え誰も分かりませんて
渡辺:相関図に桜井が抜けてるぞ
桜井:俺はいいんです!でも姉川さんって女性好きなんですね。今まで男の影がなかったのも納得というか
近藤:そりゃ影なんて生まれないわな。男は恋愛ターゲット外なんだから
渡辺:じゃあ伊織に近づいたのも佐々木の事を知るため?
伊織:うっ!
渡辺:姉川さん、伊織のこと体よく利用してただけじゃね?
伊織:うぅっ!
桜井:ちょっとやめてくださいよ、そうと決まったわけじゃないんだから。伊織が可哀そうでしょ
近藤:そうだぞ、事実かもしれないが
渡辺:近藤さんは伊織のこと持ち上げたいのか下げたいのかどっちなんすか
桜井:で、伊織はそれを聞いて?
伊織:いや…どうしろって言うか…彼女の幸せを考えたら、佐々木さんのこと協力した方が…
渡辺:甘い!甘いぞ伊織!
伊織:えっ?
渡辺:姉川さんはまだ佐々木とは付き合ってないんだろ?だったら横から奪っちゃえばいいじゃん
伊織:そんな…!僕にはそんな真似できませんよ…
桜井:完全に折れてる
近藤:だろうなあ。意中の人が女性好きで、しかも自分じゃなく同僚の事を好いてるってなったらなあ
渡辺:近藤さんさっきから一言多くありません?
伊織:うう…そうです、これで良かったんです…僕なんかが、人と付き合うなんて…
桜井:そんなことないぞ、伊織
伊織:え?
桜井:姉川さんを奪うって話。俺はいいと思う。男だったらガンガン押してけ!
伊織:桜井さん…
渡辺:桜井チャンは押す前に撤退しちゃった人間だけどね
桜井:だからそれは違うって…いや、もういい、認めます!好きでしたよ佐々木の事!
近藤:おお、じゃあ桜井もガンガン押していくつもりか?
桜井:さすがにこの激戦区には突入する気概ありませんて…。でも、伊織はそうでもないんだろ?
伊織:…ハイ、好きです!姉川さんの事!
近藤:おっ、じゃあ諦めるつもりは無いんだな?
伊織:ハイ!
桜井:さすが、俺の教え子だな!
渡辺:それはお前が教育係ってだけだろ…
伊織:…あの、皆さん、ありがとうございます
近藤:え?
桜井:何が?
伊織:…僕の事、男扱いしてくれて
桜井:あー…
伊織:僕、この前ミーティングでトランスジェンダーの事告白してから、怖かったんです。色目で見られるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか、とか
近藤:そんなこと…
伊織:ええ、してません。だから、本当にありがたいって思ったんです。告白する前は、男のくせに線が細いとか、トイレが長いとか言われて
桜井:トイレが長いのは、会社に共同トイレがなくて、コンビニまで行ってるからだろ
伊織:ハイ、それも今は気が楽になりました。告白してよかった。これからもよろしくお願いします
渡辺:…
近藤:…
桜井:…あのさ、
伊織:ハイ?
桜井:俺達も、実は探りさぐりでさ。体は女で心は男で、体に違和感を持ったって言われてもよく分かんなくて
桜井:だから、自分たちができることをやっていこうって思って。その一歩目が男扱いってわけで。嫌だったら、言ってくれていい、いや、言ってくれ
伊織:嫌だなんてそんな…
桜井:俺達も模索中だから、間違ってるなら行ってほしいって話。一緒に仕事するんだから、少しでもいい関係築きたいじゃん?
伊織:桜井さん…
近藤:…俺さ、家族がいて、子供がいるんだけどさ。小学生の
伊織:…ハイ
近藤:もし、自分の子供が伊織みたいにトランスジェンダーだって言ってきたら、どうしようって考えたんだ
近藤:もし以前の俺だったら、動揺して無神経な事を言ってしまってたんじゃないかと思う。だからこれは予行練習だ
伊織:予行練習?
近藤:そう。もし子供にそう告白されたら、って時の予行練習。どうか俺の練習に付き合ってくれないか?伊織
伊織:近藤さん…分かりました!
渡辺:ま、俺は面白ければ何でもいいんだけどね
伊織:渡辺さんらしいですね
桜井:…さ!そろそろ戻らないとチーフに仕事増やされますよ!早く早く
伊織:ハイ!いきましょう!仕事仕事!
渡辺:しょーがねーなー…行くか。はーかったるぅー…
近藤:そういえば。さっきの桜井カッコつけてたよな
桜井:ちょ、そういう蒸し返しかたします?
伊織:僕が女だったら惚れてますね
渡辺:おー?桜井チャン佐々木から伊織に鞍替えかー?
桜井:しません!伊織も先輩をからかうな!
伊織:ハハハ…
(終わり)
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