【朗読用台本】戦火、響かぬのなら
朗読・一人用(男女不問)
ジャンル:SF 戦争
こちらは朗読を想定した台本となっております。
・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
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僕の夢は、何かになることだ。
今の僕以外の、何かに。
先に手を出したのはどちらの国だったか。
それすらも忘れるくらい、この戦争は長く続いていた。
唸る兵器は自然を潰し、火を噴く銃器は街を焼く。
そんな理不尽が当然に行われる世界で、僕は僕の意思とは関係なく、武器を取ることとなった。
機動二足歩行兵器(きどうにそくほこうへいき)「ヴィルヘルム」それが僕の手足の名前だ。
機動なんたら、なんてご大層な肩書が付いているが、要は2.5メートルほどのロボットだ。
戦場をより効率よく制圧するため開発された機械の塊。それがヴィルヘルム。
遠隔操作の技術はまだ完成していないからと、鋼鉄の人形に生身の心臓、つまりパイロットが入る事になった。
パイロットとヴィルヘルムのみで構成された部隊、ヴィルヘルミナ隊は、今日も敵の生き血を求め歩を進める。
耳障りな足音を響かせながら。
なぜ、これがヴィルヘルム…兜などという名前を持ったのか。それは、この長いツバが、視界を塞ぐ為だからと考えている。
人々の悲痛な声も、無残な姿も。ヴィルヘルムは隠してくれるから。
操縦桿(そうじゅうかん)の硬さを忘れたのはいつだったか。
アサルトライフルの振動の強さを忘れたのはいつだったか。
人の命の重さを忘れたのは、いつだったか。
203年5月4日。
長い道のりを経て目的地に辿り着くと、駐屯地(ちゅうとんち)の入り口に一人の子供が手を大きく広げて通せんぼをしていた。
子供の顔は鬼気迫るもので、許さないという意思が見て取れた。
部隊長が立ちふさがる理由を聞いた。
子供は答えた。ここは将来、学校になる場所なんだと。
その学校に通うのが、私の夢なのだと。
ここはとある村を間借りした急ごしらえの基地だ。元々そういう予定だったのだろう。
隊長は言った。敵軍を追い払ったら、ここは無事に学校になる。それまで、待っていてくれないか。
最初は抵抗していた子供も、渋々だが頷いた。絶対だ、という大きな、願うような声が聞こえた。
三日後、203年5月7日。
その場所は、敵武装兵器によって火に包まれた。
ああ、また。夢が一つ、消えてしまった。
子供は生きていた。たくさんの理不尽を背負い、それを憎しみへと、ろ過させながら。
子供は言った。敵の奴らを全て、全て――してくれと。
子供は、夢以外のものも奪われていた。
203年5月9日。
先日攻めてきた敵軍へ奇襲作戦が決行された。
こちら側しか知らないトンネルを使って白兵戦を仕掛け、混乱に乗じてヴィルヘルム数機で叩く。
作戦は珍しく成功し、敵が武装兵器に乗り込む前に引き金を引き、殲滅した。
相手の悲鳴も、無残な姿も、ヴィルヘルムは隠してくれる。
見せないように、見えないように。
武装兵器の搭乗に間に合った一機があった。
ヴィルヘルムと同じく、ロボットの兵器。
それは僕めがけて突進してくる。
急な襲撃で武装を持てなかったのだろう。ロボットだが丸腰でこっちに来る。
僕は、冷静に、コクピットがあるだろう胸部に、対戦車チェーンナイフを突き立てた。
機械と、機械でないものを貫く感触が腕に走る。機械越しでも、その感覚は嫌でも伝わってくる。
僕はまた、人の夢を奪ったのだ。
作戦が終わった。
子供は喜ばなかった。まだ敵は生きている。それが納得いかないと、泣いていた
僕らヴィルヘルミナ隊は、次の戦地へ赴くことになった。
早々に駐屯地から切り上げ、誰からも感謝もされず、何も言われず、当然のように、次へ。
操縦桿(そうじゅうかん)の硬さを忘れたのはいつだったか。
アサルトライフルの振動の強さを忘れたのはいつだったか。
人の命の重さを忘れたのは、いつだったか。
もし。もし許されるのなら、僕は僕以外の何かになりたい。
こんな憎しみと悲しみに汚れた僕でも、夢見ることが許されるのなら。
砲撃の地を揺らすような重音が響かない世界があるなら。
人が、人を撃たない世界があるのなら。
僕は
(終わり)
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