【声劇台本・3人用】デンジャー・アニメーション!~c70の由来~

“デンジャー・アニメーション!~c70の由来~“


ジャンル:現代お仕事ドラマ


こちらは声劇を想定した台本になります。

よろしければお読みいただけると幸いです。


◆内容

アニメスタジオに届いた殺害予告の手紙。

制作進行の弓野は動揺するが、プロデューサーの須美は相手にもせず…。

怒り苛立つ予告犯は行動に移る。


◆登場人物

弓野:女。20代後半。スタジオ・プライマルベースに勤める制作進行(スケジュール管理や素材回収を行う人)。エネルギッシュで言いたいことはスパッという言うタイプ。

須美:男。30代後半。スタジオ・プライマルベースに勤めるプロデューサー。腰が低いがしたたか。

鬼面仮面:男。20代前半。引きこもりでアニメオタク。根暗でよくSNSにアニメの悪口を投稿している。名前はハンドルネーム。


・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。

・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。

・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。

・アドリブ可。好きに演じて下さいませ。


(以下本編)

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◆鬼面仮面の部屋 PC前



鬼面仮面:(荒い息)…ああ、くそ、くそ、くそくそクソクソクソクソ…!

…ッ、全然っ!分かってない…分かってない分かってない…!

…どうして、どうしてさァ、分からない馬鹿しかいないんだ、この会社ァッ!

スタジオ・プライマルベース…!絶対許さない、ない、無い、無い、マジで無いィ…!!

ああぁぁぁぁぁ…くそ、くそくそクソクソクソ…ッ!



◆スタジオ・プライマルベース 制作部



弓野:(N)私が勤めるアニメーション制作会社、有限会社プライマルベースのプロデューサーである須美さん。彼は捉えどころのない人だ。

外部の人、監督や社長には腰が低くペコペコしてて、かといって部下や後輩に威張ったりもしない。

他人と喧嘩してるところなんて見たことがない、なんというか「素の自分」を出さない人だ。


須美:へえ…すごい迫力だね、これ


弓野:…あ、いた!す、須美さん!…って何ですか、この人だかりは!


須美:おお、弓野。これ見てみなよ


弓野:え?


須美:いま制作部の皆でゲーム大会やってんだけどさ、見てよあれ。ストリートファイター、今6作目だって!


弓野:え、げ、ゲーム大会って…?ゲーム機を会社に持ってきたんですか!?ていうか今勤務時間…


須美:勤務時間なんてこの業界にはあってないようなものだろ?


弓野:そんな事ないと思いますよ?


須美:もうグラフィックなんて実写だよ実写!すごい質感!ね、ね、プレイヤーの君、次ガイル使ってよガイル!


弓野:うわー…ほんとだ、すごい技術。これで映画って言われても信じちゃうかも


須美:だろ?いっそ作っちゃえばいいのに、映画

…え?一人用モードではムービーシーンもある?それやってよそれ、見てみたい!

あ、あと、今も「待ちガイル」ってあるの?


弓野:すごーい!私も見てみた…じゃなくて!須美さん!大変なんです!


須美:え?僕?


弓野:そうです!ちょっとこっち来てください!


須美:あー、わかったから腕引っ張らないで。また今度見せてねー


弓野:見せてね、じゃない!皆も仕事に戻ってくださーい!!

…ハア。そんな浮かれてる場合じゃないんですって。これ、見てください


須美:なんだいこれ。手紙?ええと、なになに…

『「クレオケ」の制作を辞めないと、スタッフを殺します』

…何これ?ひょっとして、脅迫文?


弓野:ひょっとしなくても脅迫文です!今朝、会社のポストに入っていたそうです。

住所も差出人も不明。手紙を見つけた事務の林さんが気味悪がっちゃて


須美:「クレオケ」…「クレアのオーケストラ」の事だよね多分。今期放送の、うちで制作してるアニメ。


弓野:制作も中盤に差し掛かってきたところで、こんなものが届くなんて


須美:ふーむ、視聴者の反応もいい感じだと思ってたんだけどな。ま、少し原作改変はあるけど


弓野:それに怒って、犯人が…?


須美:さあ、そこまでは。まあ只のイタズラでしょ。ぽーい


弓野:ぽーいって、ああ!な、何で手紙捨てちゃったんですか!?


須美:気にしすぎ。只でさえ切迫した状況なのに、そこに殺害予告?現場キャパオーバー。面倒事は見て見ぬ振りだね


弓野:切迫した状況でゲーム大会してたくせに


須美:それは英気を養っていただけ。ほら、制作部も作画部も、忙しすぎて殺気立ってただろ?息抜きもたまには必要だよ


弓野:それは、まあ…にしても、他に方法が…


須美:ちなみにこの事は誰が知ってるの?


弓野:え。ええと…事務の林さんと、私と、それだけです。


須美:結構。もし監督に知られていたら大騒ぎしていただろうからね。繊細だから、彼女


弓野:山崎さんがですか?意外です


須美:そうでもないさ。顔には出さないようにしてるけど、本当はかなり緊張してる


弓野:へえ。須美さん、人の事よく見てるんですね。それも意外です


須美:あのね、プロデューサーだよ僕は。それより弓野。山崎監督が管楽器の資料、まだかって言ってたぞ


弓野:え?ああ!そうだった!今持っていきます!


須美:まったく、今回の制作進行は君なんだから。こんな嫌がらせに負けんなよー


弓野:な、ま、負けてません!行ってきます!


須美:やれやれ…

(独り言)…まあ、心配しなくても、どうにかなるさ



◆鬼面仮面の部屋 PC前



鬼面仮面:(荒い息)フウゥ…三日…三日、三日経ったぞ…

三日経った…なのに、なのに何で何もリアクションがねえんだよォ…!

はあぁ…イラつく、いらつく、苛つく苛つく苛ツクイラつくイラつくぅ…!

SNS、SNS…!

「クレオケ、終わってる」「クレアのオーケストラ制作陣が全然ダメ。全員代われ」「プライマルベースはクソ会社。このクオリティは原作舐めてる」

う、打った、打った、送信したぞ…はあ?なのに、なんでこっちもリアクションがねえんだよォ…!

は、はあ?コメント…「そんなことありませんよ」って、そんな事あるんだよボケがぁ!!

分かってない、全然分かってない!世界はバカで出来てるのか!?

っ…!そうだ、SNS…!そうだ、方法なら他にもあるじゃねえか…はは…!



◆スタジオ・プライマルベース 制作部



弓野:…ただいま戻りましたー


須美:おかえりー


弓野:はっ、須美さん!ちょっと、ちょっとこれ見てください!


須美:ええ、何?また何かあったの?


弓野:ちょっとこれ、見て下さい!今外部の原画を回収しに行った時に教えてもらったんですけど


須美:ああ、そうなの。車こすってない?法定速度守ってた?


弓野:いやいや今月はまだ…って違う!話を逸らすのをやめてください!

とにかく、これ見て下さい!


須美:スマホの画面?


弓野:ユーチューブです。その…えと…ここを操作して…これ!このチャンネルの動画です


須美:チャンネル名が…鬼面仮面?動画タイトルが…こりゃ凄いね

「近年稀にみる終わってる系アニメ『クレアのオーケストラ』!制作陣全員土下座要求レベルのクオリティに鬼面仮面がトドメを刺す!」

…長いな


弓野:これ、酷いんです!ある事ない事言って、クレオケの評判を下げようって魂胆が見え見えで!


須美:へえ、どれどれ。再生してみて?


弓野:あ、はい


鬼面仮面:(動画)どうもこんばんは。鬼面仮面の動画にようこそ。今日はとあるクソアニメの話をお伝えしたいと思います


須美:おおー…ホントに鬼のお面付けてる


弓野:こいつが本当に腹の立つ奴なんです!上から目線で分かったような口きいて!何様だっつーの!


須美:弓野、音聞こえない


鬼面仮面:(動画)ホントは俺もこういう事言いたくないんですけどね?でもあんなアニメが存在するなんて許せない!

ですが他にこのアニメを言う奴は誰もいない、でも誰かが言わねばならない、なら俺が言うしかない!より良いアニメ業界にするために!

という訳で、動画を見ているお前たちに、この「クレアのオーケストラ」について!お話したいと思います

ハッキリ言ってクソアニメ!今年一どころじゃない、歴代一!30分観てるのが苦痛で仕方ない!

まずは…


弓野:ホラ、この通りですよ!悪い所ばっかり指摘して!


須美:へえ…


鬼面仮面:(動画)あの作画はマジありえない!原作に似せようともしていない!自分の作品だと勘違いしてるんじゃないか?


弓野:な、なんですか自分のものって!監督や作監(さっかん)がどれだけ原作の夢ウ凪(ゆめうなぎ)さんと打ち合わせしたか…!


鬼面仮面:(動画)更には原作改変!ファンの中でも人気のエピソードを省くなんて、何考えてんだ!視聴者の事を考えてない!


弓野:ああもう決めつけてくるのが本当にムカつく!ねえ、こんなの許していいんですか!?


須美:いいんじゃない?


弓野:へ?


須美:いやーよく観てるよ、この人。動画を出すだけあって、放送したの全部観てるんじゃないかな。感心感心。


弓野:感心って、こんなにこき下ろしてるんですよ!?須美さんは腹立たないんですか?


須美:弓野。アニメ…に限らずエンタメの作品は観た人の感想は大事にしなきゃ。それが観た人にとって良い感想でも、悪い感想でも、僕らは受け止めなきゃいけないの

でないと、窮屈な世界になっちゃうだろ?自由にレビューできないアニメは、それこそクソだ


弓野:それは、そうですけど…


須美:それに、昨今は不謹慎の「ふ」の字が見えただけで、内容も見ずに抗議してくる人だっている時代だよ?

それに比べたら全然健全!観てくれてありがとう!って感じだね、僕は


弓野:でも、だって…私たち、スタッフが一生懸命頑張ってる姿を見てるんですよ?それが簡単に否定されてるみたいで


須美:悔しい?


弓野:はい…


須美:それこそ耐えなきゃ。一生懸命頑張ったのが、自画自賛とか、褒めてもらうためだけだとか、恰好悪いだろ?

批判もあって輝くんだよ


弓野:…適当言ってますよね?


須美:バレた?


弓野:もー!…で、このこと、山崎監督や他のスタッフには


須美:もちろんオフレコ。わざわざ話すことないでしょ。たまたま動画見られたら、その時って事で。それより好きなお菓子の話とかしてあげて


弓野:お菓子って…はいはい、じゃ、私原画とレイアウトを作監に渡してきます。


須美:はいはい


鬼面仮面:(動画)それに2話のあのシーン!監督はうどん県出身なのか?キャラの好みまで変えちゃうのはダメでしょ!

全くもってマジで面白くない!ホント呆れるわ!


須美:思ったより少ないな…


弓野:え?


須美:あ。いや、何でもない



◆鬼面仮面の部屋 PC前



鬼面仮面:(荒い息)経った、経った、経ったぞ、一週間経った…!

動画、作って、投稿したのに…俺が頑張ってやってやったのに…!

なんで高評価が全然付かねえんだよぉぉぉ…!

低評価ばっか増えやがって…!舐めんじゃねえぞ、クソボケどもがあぁっ!

俺が!親切丁寧にクソアニメ教えてやったのに、なんだこの反応どもはぁっ!

「見当違いも甚だしい」だの「目が腐ってる」だの、テメエらの目の方が腐ってんだよ!目玉取り替えろ!

「可哀そうな人」「ネガキャンやめろ」「アンチ乙」…うぜえ、ウゼえウゼえウゼえうるせえええええええ!!!

全部俺の思い通りに動きゃいいんだよ!!

がっ…げほっ!げほっ!げほ…!畜生が…っ!

全然分かってねえ、全然分かってねえ…!

はあ…それとも、こりゃアレか?制作委員会が裏で人雇って俺様を潰しに来てるのか?

きっと!いや絶対そうだ!汚い野郎どもめ!許せねえ…!

潰してやる!そっちがその気ならこっちから潰してやる!潰す潰す潰すうぅぅぅぅっ!



◆スタジオ・プライマルベース 制作部



弓野:…うーん…


須美:弓野、頭ひねってどうしたの?またトラブルか?


弓野:あ、須美さん。うーん、そうなんですかね


須美:なんだ、煮え切らないな。何があったんだ?


弓野:車で回収行こうと思ったら、タイヤがパンクしてたんです。


須美:お前…あれほど荒い運転はやめろって…


弓野:してません!まだ、してません!今月は、まだ…。でもおかしいんです


須美:何が?


弓野:この前もタイヤがパンクしてて、事務の林さんに取り替えてもらったばかりなのに、またパンクなんて、サイクル早くないですか?


須美:んー…確かにね


弓野:もしかして誰かに意図的に穴開けられてるとか


須美:かもねぇ…最近はこんなお手紙も増えてきたし


弓野:え?


須美:ほれ


弓野:えっと、なんですこれ…『「クレオケ」の制作を止めないと、全員ぶっ殺す』

こ、これってこの前の脅迫文と同じ…!


須美:そう。この前の手紙から数えて、これで三通目。ちょっとまずいかもね


弓野:そ、そんな悠長な!なんか文面も物騒になってるし!これ犯人が何かやりかねない状況なんじゃないですか?


須美:かもねえ


弓野:かもねえって!もういいです、私から警察に通報します!


須美:…じゃあお願いしようかな。弓野、スタッフにばれないように、こっそりやっといて


弓野:こっそりって!警察の捜査に介入なんかできませんから!


須美:あれ、そういえば弓野


弓野:なんですか?


須美:回収行くんじゃなかったの?


弓野:は…っ!そうだった!背景の草刈(くさかり)スタジオに、仕上げのプロダクションMG、原画の色(しき)さん!どうしよう、電車で行けるかな!?


須美:その素材たちを持ち歩いて回収するのは無理。しょうがない、僕の車貸してあげるよ


弓野:ホントですか!?やったー!ぶっ飛ばして2時間で返しますんで!


須美:…やっぱり僕が運転するよ



◆スタジオ・プライマルベース 入り口から駐車場へ



弓野:色々作業してたら夜になっちゃったな…

はあ…一昨日、通報はしたけど…警察の人に話も聞いてもらったけど。見回りを強化するって言って、犯人探したりとかはしない感じだったな…。

こっちは怖い目に遭ってるってのに…。市民を守るのが警察の勤めじゃないのか…。

車のパンクも偶然だろうって簡単にきめちゃってさあ…そりゃあ荒い運転してるかもしれませんけど、それが原因かもしれませんけど…。

何もなければ、それに越したことは無いんだけどなあ…

…いやいや、不安になってる場合じゃない!切り替えていこう!

先ずは回収回収、素材回収して山崎監督にチェックしてもらわないと!

会社の車、また林さんにタイヤ交換してもらって申し訳ないな…いや気にしてもしょうがない!私が原因じゃないんだし!多分

今日も東京の街をドライビングー、と…?


鬼面仮面:(荒い息)…ハアー、ハアー、ハアー…


弓野:…あの、うちの車に何か御用ですか?


鬼面仮面:わっ!


弓野:あ、ごめんなさい!


鬼面仮面:あ、あ、えと、すいません、俺、ここで落とし物しちゃって


弓野:自社の車の下で、ですか?


鬼面仮面:そ、そうなんですよ。この車の下に転がっていっちゃって


弓野:それは、今背中に隠したものと何か関係があるんですか?


鬼面仮面:…っ!


弓野:今左手に持ってる何か、です。さっき声を掛ける前に見えました。なにか鋭く尖ったもののようでしたけど。


鬼面仮面:こ、これは…


弓野:あなたがパンクの犯人だったんですか?答えてください。


鬼面仮面:ぐ、ぐ、ぐ…


弓野:さあ


鬼面仮面:…うるせえええええええええええええええええええッ!!!


弓野:きゃっ!


鬼面仮面:黙って聞いてりゃ調子乗りやがってよぉ!クソ制作会社のクセに生意気なんだよ!

このアイスピックでよお…タイヤじゃなくテメエを刺してもいいんだぞ!


弓野:え…!何この人、急に逆上して


鬼面仮面:ああ、腹立つ腹立つ腹立つ…!

全然分かってねえ!殺すって言っても何もしねえ、動画出してもリアクションしねえ!テメエらみたいな残念なオツムにはよぉ…一体なんていえば伝わるんだ!?ああ!?


弓野:え、え、何を言って


鬼面仮面:クレオケだ!クレオケの事だボケ!いつになったら制作止めるんだよ!こんなに言ってあげてんだからさっさと止めろや!


弓野:クレオケ…?


須美:弓野!


弓野:須美さん…!来てくれたんですか!


須美:外から大きな声が聞こえたからね。丁度弓野が車使うって言ってたし、いやな予感がして

それより弓野。こういう時は大事になる前に、先に警察を呼ぶものだよ?


弓野:う。す、すみません


鬼面仮面:な、なんだよテメエ!


須美:初めまして。有限会社スタジオ・プライマルベースのプロデューサーをしています、須美と申します


弓野:ちょっと!こんな時になに挨拶なんか


須美:岸川平太郎さんですね?


鬼面仮面:…!?


弓野:え…!?


須美:普段は清掃員のアルバイトで生活して、都心から数駅ほど離れたところに一人暮らしをされている

ユーチューブにクレアのオーケストラの批判動画を投稿するが不評。さらにはその制作会社であるわが社へ脅迫文を送りつけた…


弓野:え…じゃあ、この人があの、鬼面仮面ですか!?

…ていうか、いつの間に調べたんですか?


須美:ちょっと昔のコネを使ってね


弓野:…須美さんって、何者なんですか?


鬼面仮面:え、ああ…


弓野:動揺してますね


須美:岸川さん。今は引いて頂いて、今後うちには手出ししないというのであれば、今回の件、通報はしません

どうか、お互い水に流しませんか?


弓野:え、な、なんでそうなるんですか!警察に引き渡さないと、いつかまた…!


須美:いつかの危機より、今の危険だよ。どうでしょう、考えていただけませんか?


鬼面仮面:う…


須美:岸川さん?


鬼面仮面:うぅ…


弓野:あ、これヤバイ…


鬼面仮面:…うるせええええええええええええええええ!

なんでテメエに指図されなきゃいけねえんだよ!そっちが主導権握ってるつもりになってんじゃねえよ!!


須美:…それでは、交渉は決裂、ですか?


鬼面仮面:これを…見ろ!


弓野:えっ…なんですかアレ。鞄から何か出して…瓶ですか、あれ?

中に何か入ってますけど


須美:おそらく…タオルと、瓶の中に入っているのは、油か酒らしき液体、ってとこだね…


弓野:瓶に油…それってもしかして…!?


須美:火炎瓶…!


鬼面仮面:そうだ!よく分かったなメガネ野郎!


弓野:そんな、ここでそんなもの投げたら車に燃え移って、爆発とかしちゃうんじゃないですか!?

危ないです!しまってください!


鬼面仮面:ここで使うんじゃねえ!すぐそこにあるテメエらの会社に投げるんだよ!


弓野:そ、それって…


須美:放火…!なるほど、最初からそれが目的だったって訳か…!


弓野:そんなもの、鞄に戻してください!


鬼面仮面:嫌だね!これは制裁だ!分かってない奴を分からせるためには強行手段も必要なんだよ!


弓野:世界中を失望させた事件を知らないんですか!?


鬼面仮面:ぐっ…!はあ…?


弓野:気分を損ねたなら謝ります!でも、あなたの行いはクレオケのスタッフだけじゃない、アニメファンやファンじゃない関係ない人も、たくさんの人を悲しみや失望に落とす行為です!!

そんな多くの落胆を生み出そうとしてるあなたは、絶対に、間違っています!!


鬼面仮面:ま、間違ってる、だと…?


弓野:人の物を奪ったり傷つけるって事はそういう事なんです!あなたはその感情の重圧に一生付き合うしかなくなるんです!人々の気持ちを、なめないで下さい!!


鬼面仮面:うるせえっ!!そんな事どうだっていいんだよ、俺が正しいんだよ!俺の思い通りになればいいんだよ、それ以外はクズなんだよ!!


須美:せいっ


――――バリンッ!!(瓶が割れる音)


鬼面仮面:うわっ!


弓野:え…火炎瓶が割れて…!


須美:熱弁ありがとう、弓野。すみません、少々強引な手を取らせていただきました。


弓野:え…!小石を投げて火炎瓶に命中させたんですか!?そんな腕あったんですか!?普段はヒョロヒョロしてるのに!


須美:まあ、昔取った杵柄(きねづか)、ってとこかな。

さて、これで放火はできませんよ?飛び散った液体…酒か油が服に染みついて、うっかり火なんてつけたら、自分に燃え移るかもしれませんからね


鬼面仮面:う、う…畜生が…!どいつもこいつも邪魔しやがって…!


須美:警察へ行きましょう。あなたはまだ未遂だ、間に合う。


鬼面仮面:…ふざけんな!あったま来た…!別に放火じゃなくてもいいんだよ、テメエらでもいいんだよ!これでなあ!


弓野:さっきのアイスピック…!


鬼面仮面:ぶっ刺してやる!!これで、クレオケも終わりだ…やっと終わる…鬱陶しくてしょうがなかったんだ、あのアニメはよお!!


弓野:なんでそこまで…


須美:弓野、下がって


弓野:須美さん!?危ないです、逃げましょう!


須美:なに、大丈夫だよ


鬼面仮面:なに女の前でカッコつけてんだよ…腹立つなあテメエ…!腹刺されても後悔すんなよ…!!


須美:どうぞー


鬼面仮面:…っ!ふざけんじゃ、ねえええええええ!!


弓野:突進してくる!危ない、須美さん…!


鬼面仮面:死ねやあああああ!(アイスピックを振る)


須美:…よっ


鬼面仮面:!?


弓野:…え?避けた…あんな紙一重で!?


須美:いやーあぶないあぶない。もう少しで刺されるところでしたよ


鬼面仮面:て、めえ…!おらあ!(アイスピックを大振りする)


須美:はいっ(紙一重で避ける)


鬼面仮面:このっ、このっ、このっ!(振り続ける)


須美:よ、や、ほ(避け続ける)


弓野:すごい…ぜんぶ避けてる…!


鬼面仮面:ふ、はあ、はあ、はあ…。テメエ何なんだよ!ふざけんなよ!


須美:すみません、刺されてしまうと、明日の仕事に響いてしまいますので


鬼面仮面:…気に入らねえ、気に入らねえ!ウゼえんだよマジでよお!テメエも、そこの女も、テメエらの会社も、アニメも!!

つまらねえ…マジつまらねえ…!


須美:どこがですか?


弓野:え?


鬼面仮面:はあ!?


須美:いえね、今後の参考までに聞いておきたいと思いまして


鬼面仮面:…どこまでも人をコケにしやがって…!

…改変だ!!原作改変!2話の冒頭でクレアと友達がうどん喰ってるシーン!原作じゃミートスパゲティだった!


弓野:そんな細かいとこ…!?


須美:カット70からの事ですね


鬼面仮面:なんでわざわざうどんなんかにしやがったんだ!意味分かんねえんだよ!!


須美:それは…


弓野:それは…?


須美:…そっちの方が、かわいいからです!


鬼面仮面:は、はあ!?


弓野:かわいい…!?


鬼面仮面:テメエ、わけわかんねえ事言ってんじゃねえぞ!


須美:本当です。山崎監督と原作の夢ウ凪(ゆめうなぎ)さんが打ち入りで居酒屋で飲んでた時、テーブルの上のうどんを見て、ふと監督が思いついたんです。クレアがうどんを啜ってる顔が可愛いんじゃないかって


鬼面仮面:の、飲み屋で決まった事、だと…?


弓野:まあ、確かにクレアがうどん啜ってる姿は幸せそうで可愛かったですけど…


須美:でしょ?夢ウ凪さんも同意してくれて。いやあ、あの飲み会は盛り上がりました。他にもばんばんアイデアを言い合って


鬼面仮面:普通そういうのは、会議とかで決めるもんじゃないのか…?


須美:勿論会議で決まるアイデアもあります。ですが創作作品のアイデアは得てして、くだけた場で無意識にポンっとでる事も多々あるのですよ


鬼面仮面:…ふざけんなあああああ!殺す!!


須美:あらあら


鬼面仮面:(アイスピックを振りながら)じゃあ、原作にあった、クレアのトランペットを買うエピソードぉ!あれをカットしたのは何故だ!?


須美:(避けながら)原作の最初の方にある話ですね。まだアニメには出てないだけですか、今後出る予定です。そうシナ打ち(シナリオ打ち合わせ)で決まっています。そっちの方が効果的だそうで


鬼面仮面:(振りながら)声優!クレア役もマナミ役も、全然合ってねえんだよ!声優事務所とかスポンサーから、売り出し中の声優、押し付けられたんだろ!?


須美:(避けながら)オーディションは原作者にも協力頂いた結果、彼女達に決まりました。夢ウ凪さんのイメージに沿えたつもりです


鬼面仮面:(振りながら)原作より、キャラクターの絵の線が少ないのは!?


須美:(避けながら)アニメーションで動きやすくするためです。技術と予算と時間を鑑みて、あのデザインになりました


鬼面仮面:くそがああああああああ…!!


須美:…さて、そろそろ疲れたでしょう?諦めて警察に行きません?


弓野:あれだけ襲われたのに無傷って…


須美:気になることは全部説明しましたよ?ほら、足がガクガクじゃないですか。ここらで手打ちとしましょう


鬼面仮面:…まだだァ!


須美:…まだ何かあるんですか?


鬼面仮面:監督だ!なんで女が監督やってんだよ!?


弓野:は…!?


須美:…


鬼面仮面:名のある監督は男ばっかりだろ!宮崎駿、庵野秀明、新海誠、富野由悠季!女なんかが、面白いもん作れるわけねーだろーが!バーカ!


弓野:な、そんなの完全に言いがかりじゃないですか!女性で活躍している監督だってたくさんいます!


須美:そうだね。事実「けいおん!」を制作していた山田監督は、後に「聲(こえ)の形」という映画で日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した。女性なのにね


鬼面仮面:うるせえ!!そいつだって偶然賞とれたってだけだろ!演出だってストーリーだって、絶対男の方が上手くやるんだよ!!


弓野:勝手に決めつけないで…


須美:…はあ~~~~~ぁ……


鬼面仮面:は…!?


弓野:溜め息…?


須美:…私はね、実はあなたの事買ってたんですよ。骨のある奴だって。批判する前にアニメは全部見る、気に入らないところはハッキリしてる。

でもね、男だの女だの、つまらないことに拘るなんて、なんだか拍子抜けって感じですね


鬼面仮面:拍子抜け…!?


須美:たくさん動いてもらって、疲れて動けなくなったところで降参させる、って流れを想定してたんですけど…もういいか。

あのね、男とか女とか関係ないの。面白ければそれでいいの。そこで止まってる奴はクリエーターとしても、レビュアーとしても、終わってるね。


弓野:須美さん…?


鬼面仮面:てめえ…終わってるだと…?許さねえ、絶対、絶対!ぶっ殺してやる!!

そうだ…俺が、俺が正してやるんだ、俺が正しいんだ!!他は全部クズでバカな駄作なんだ!!!!

うらあああーーーーッ!!


弓野:須美さん、危ない!


鬼面仮面:(アイスピックを振る)おらああああああッ!!


弓野:須美さん…!…あれ…?


鬼面仮面:消えた…!?どこ行きやがった、アイツ!!


須美:下ですよ


鬼面仮面:は…っ!!


須美:ところで…待ちガイルって知ってますか?

…ふっ!!


――――バシイッッ!!(須美のサマーソルトが鬼面仮面の顎に命中する)


鬼面仮面:…あがッ…!ぐふ…っ(倒れる)


弓野:な…!


須美:…ふう。まあ、こんなもんかな。正当防衛って事で、勘弁してください


弓野:な、なんですか今の!バク宙みたいなやつ!それであいつの顎に蹴り当たっちゃってましたけど!!


須美:知らない?ガイルのサマーソルトキック。まあ本家は両足揃えて飛ばないんだけどね。いや成功してよかった


弓野:え?え?格闘技なんですか!?須美さん、格闘技使えるんですか!?


須美:はいはい興奮しない。弓野、警察に電話


弓野:あ、ハイ…ていうか、須美さん、相手の人、もしかして死んで…


須美:死んでない。脳震盪(のうしんとう)起こして一時的に気を失ってるだけ


弓野:そ、そうなんですか…はぁー…なんか力抜けちゃった…

…この人、何だったんでしょうか…あんな言いがかりつけて、制作を止めさせて満足だったんですかね


須美:満足しなかったと思うよ


弓野:え?


須美:調べてもらったけど、彼、岸川さん、以前は他のアニメ会社にもうちと同じように殺害予告出してたらしいよ

でもどこにも相手にされなかった。その鬱憤(うっぷん)が溜まりに溜まって、自社の番で爆発した、ってところかな

例えうちが制作を止めても止めなくても、次へ次へとキリなく続けていたと思う


弓野:はあ…なんでアニメをあんなに憎んでたんでしょうね


須美:それは彼にしかわからない。環境がそうさせたのか、或いは彼の才能か

もしかしたら…クレアのオーケストラ、自分が監督したかった、とかかもね


弓野:自分が監督できなかったのを僻(ひが)んで、って事ですか?


須美:知らない。それこそ神のみぞ知るって感じだね


弓野:…にしても、須美さん、カッコよかったですね


須美:ええ?そう?


弓野:だって、山崎監督が女だって言われた時、怒ってたじゃないですか


須美:怒ってた…僕がかい?


弓野:そうです。いつもはどっちつかずの日和見主義って感じなのに


須美:また酷い言い方だな…まあ、面白いものを作るのに性別なんて関係ない。気にする方が馬鹿らしいって思っただけだよ


弓野:まあ…そうですね。事実、山崎監督は面白いもの作れてますからね!


須美:面白くなきゃ困る。そういう契約を結んでるんだ。

もし面白くなかったら…その時は…


弓野:須美さん…ちょっと怖いですよ…?


須美:…まあ、その時はその時さ。弓野、早く警察に電話


弓野:あ、はい…でも、最後に一つ、いいですか?


須美:なに?


弓野:須美さんって、結局何者なんですか?


須美:…内緒☆


弓野:(N)その後、岸川さんは警察に連れていかれた。気絶してる彼を見て、警察も目を白黒させていた

今回の件、クレオケのメインスタッフにも知られちゃうんだろうな

今度、山崎監督が好きなエクレアをお土産に持っていこう。酒の席にも付き合ったりして…出来る限り、フォローしていこう

でないと、面白いアニメができないかもしれないからね

…余談だが、後日、原作者の夢ウ凪さんが、主人公クレアの好物に、うどんが追加したそうだ。


(終わり)

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