【声劇台本・3人】アテンション・アニメーション!~c231のゆくえ~

“アテンション・アニメーション!~c231のゆくえ~“

ジャンル:現代お仕事ドラマ

こちらは声劇を想定した台本になります。
よろしければお読みいただけると幸いです。

◆内容
アニメ業界で繰り広げられる制作進行と監督のぶつかり合い。
こだわりを捨てられない監督とスケジュールを重視する制作進行。どちらを取ればアニメは完成するのか?

◆登場人物
弓野:女。制作進行。きっぱりとモノを言うタイプ。
矢島:男。監督。こだわりを捨てたくないタイプ。
須美:男。プロデューサー。腰が低いがしたたかなタイプ。

・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
・アドリブ可。お好きに演じて下さいませ。

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◆スタジオ・プライマルベース 制作部

弓野:おはようございます

須美:おはよー、弓野。ダビング帰り?

弓野:はい、3話の

須美:おつかれー。上手くいった?

弓野:いってませんね

須美:あ、そう…

弓野:須美さんはこれからシナ打ち(シナリオ打ち合わせ)ですか?

須美:そう。別番組の件かたづけた後なのに、骨折れるよ

弓野:これからもっと骨折れると思いますよ。監督あったまってるんで

須美:ハハ…なにか怒らせたんだ。しっかりしてくれよ。3話の制作進行、キミだろ

弓野:…すみません

須美:で、なにがあったの?

弓野:例のカット231

須美:ああーあれまだ止まってるのか…3話のカット231

弓野:そのシーンをめぐって、あーでもない、こーでもないって堂々巡りですよ

須美:なるほど。でも一応は録りおわったんだろ?

弓野:まあ、一応は。妥協したって感じでしたが。

須美:妥協かあー…。どうする弓野。放送は再来週だぞ?

弓野:これからどうにかします。須美さん、シナ打ちの前に監督借ります

須美:いいけど…。時間押さないようにしてくれよ?

弓野:そのためにも、須美さんもお借りします。

須美:え?

弓野:私だけだと、血の雨降っちゃうかもしれないんで

須美:君も結構あったまってるのね…

弓野:このままだと4話、5話と同じようなこと言いだしますよ、監督

須美:そりゃ、困るな…。しょうがない、行くよ

◆スタジオ・プライマルベース 作画室の奥

須美:矢島さーん、お疲れ様でーす…

矢島:ああ、お疲れ様です

須美:矢島さんアフレコとダビングお疲れさまでした

矢島:いえ、こちらもお仕事ですので。で、プロデューサーと制作進行が揃って、何の御用ですかね

弓野:なんの御用じゃないでしょう…!そこの、原画置きにある、それ!カット231の事です!

須美:ちょ、落ち着いて

弓野:なんでチェック下ろしてくれないんですか!?作監(作画監督)だって待ってるんです!この前もやっとリテイク出したと思ったら、やっぱり違うとか言って取り上げて、そのまま進まずで!

矢島:それについては説明したよ。まだ、納得のいく原画になっていない

弓野:その納得のいく原画はいつできるんですか!?テレビシリーズなんです、放送日が、期日があるんです!

須美:いや、映画だろうが配信だろうが期日はあるからね?

弓野:それに、今日のアフレコだって!台本のセリフ変えるから待ってとか言っていつまでも待たせて!男ならスパッと決めてください!

矢島:お、男は関係ないだろう!元々あのセリフはしっくりこなかったんだ。声が乗ればよくなると思ったんだが…

須美:あーありますよねそういうの…

弓野:それで振り回される身にもなってください!困るんです、ダビングも1時間押しですよ!?

矢島:しょうがないだろ?簡単には頭に浮かばないんだ、それを理解するのもスタッフの役割だろ!

弓野:そんなマイナスにしかならない理解いりません!期限!締め切り!スケジュール!守らなきゃいけない事は守ってください!

矢島:この、若い奴が、言わせておけば!

須美:まあまあ、二人とも落ち着いて。まずは状況を整理しましょうよ

弓野:…

矢島:ふんっ…

須美:えー、カット231は、主人公カエデにヒロインのシノが耳打ちする場面ですね。シノのセリフが「頑張ったね」でしたっけ

須美:矢島監督はこのシーンのどこに引っかかってるんですか?

矢島:それが分かれば苦労しないよ

弓野:どの口がいうんだか…

須美:はい、弓野黙って。具体的にはどこを直すか決まってないんですか?

矢島:なんというか…何かが足りないんだ。
このカットは3話の戦闘後から4話につなげるための重要なシーンのカットだ。
それが耳打ちして「頑張ったね」…なにかが繋がらない。4話に行かない。モヤモヤするんだ

須美:なるほど…

弓野:あのですね、そういう話の繋ぎはシナ打ちで決めたはずでしょう?なんで今更蒸し返すような事を

矢島:最初はこれでいいと思った!でも時間が経つにつれてこれでいいのかってなって…

須美:そこにやってきたのがカット231、ってわけですか

矢島:うん。231の原画をみて、違和感が噴き出したというか

須美:それは困りましたね…

弓野:困りましたね、では済まされません。最悪3話が完成しないかもしれませんね

須美:そんな、脅かし禁止…

弓野:いえ、あり得ますよ。今日のアフレコ見てましたけど、監督の駄々コネは磨きがかかってましたから

矢島:な、駄々コネだと!?年上を馬鹿にするな!

弓野:そういいたくなるくらい長々と指示出されていたからです。しかも内容が二転三転するし。声優が可哀そうでしたよ

矢島:こだわって何が悪い!今作はオリジナル作品なんだ!漫画や小説原作が多い中オリジナルが許されたんだ!クオリティだって上げたくなる!

弓野:知ってますか?クオリティにこだわりすぎて放送日に間に合わず、総集編や再放送を代わりに流しているアニメの事!

矢島:そうなるって言いたいのか?いいよな制作進行は!作品の事を考えずにスケジュールだけ守っていればいいんだから!

弓野:な、なんですかその言い方!スケジュールを守れないクリエイターが多いから制作進行のような役職があるんでしょうが!

矢島:どうせお前もあれだろ?本当は演出とか脚本とかやりたくて入ったけど、現実はそうはいかなくて!しぶしぶ制作進行やってるって奴だろう!?

矢島:それで、俺達クリエイター職の人間を恨んで、こうやってバチバチ当たってきてるんだ!

弓野:な…!私を、なめるな…!

須美:ハイハイストップ。矢島さんも言い過ぎですよ

矢島:チッ…

弓野:…

矢島:…ん?いや待て。声優…セリフ…頑張ったね…そうだ!セリフだ!

弓野:は?

須美:セリフ?

矢島:そう、セリフだ、セリフがおかしかったんだ!「頑張ったね」じゃなく「頑張ってね」なんだ!

矢島:過去を褒めるんじゃなくて、未来へ目を向けさせるための言葉!「頑張ってね」!なんで気づかなかったんだ!

弓野:…ハア?

矢島:「頑張ってね」と言う事で、この先の展開にカエデが思いをはせる事も出来る!そしてシノの小悪魔的な可愛さだって出すこともできる!

弓野:いや、あの

矢島:こうしちゃいられない、まずはレイアウトから見直して…いや、思い切ってこのシーンの流れ全部を直すのもアリだな!

須美:ちょ、ちょっと

矢島:シナリオのセリフを変えて、いや声優の演技を聞いてからでも遅くはないな。燃えてきたぞ…!

弓野:ちょっと待ってくださいッ!

矢島:…なんだよ

弓野:なんだよって、こっちが聞きたいです!セリフを変える?レイアウトを変える?そんな時間あると思ってるんですか!?

矢島:それを詰めるのが制作進行だろ?よろしく

弓野:そんなの無理です!放送2週間前ですよ?ワンカットでも後戻りすることはできません!

矢島:でもこのアイデアを捨てるわけにはいかない!声優の演技を聞いて、イメージを膨らませて、シーンを作り直すんだ!

弓野:はあ!?アフレコは午前中に終わったでしょう!

矢島:来週の4話アフレコの時に一緒に録ればいい。その後レイアウトを組み直し、原画、背景、動画と作っていくんだ!

弓野:…という事は、来週のアフレコ後になるので、実質一週間でこのシーンを1から作り直す…?

弓野:駄目です無理です!間に合わないのが子供でも分かります!夢見てないで現状でできることでアイデアを出してください!

矢島:夢見て何が悪い!俺は監督なんだ!作品をより良い物にするためならなんだってする!

弓野:その作品だって、王道王道、王道ばかりで真新しさが見当たりませんが?これで視聴者がつくと思ってるんですか?

矢島:なんだと…?もう一回言ってみろッ!

須美:はいそこまで。お二方とも一旦引いてください。

弓野:…

矢島:…

須美:そもそも…なぜ今、それを思いついたんですが?

矢島:え?

須美:なぜ今、そのアイデアが出来たのか知りたいんです。以前からカット231は持っていたんでしょう?

矢島:それは…

須美:私は今回については弓野に賛成です。いくら何でも無茶が過ぎる。そもそも以前にアイデアを思いついていればこんな事にはならなかった。

弓野:おおかた他の人の話を聞いたりして、刺激を受けてしまったんじゃないですか?

須美:それは難しい。矢島さんは必要以上にスタッフと会話しないし、作業だってこの作画室の奥で周りに原画マンもいない。刺激なんて…

矢島:刺激なら受けている。

須美:え?

矢島:原画、動画、美術背景、3D。ME(音楽の事)、SE、声優の声。作中の素材全部から、素材を通してスタッフから語り掛けられているようなものだ。

矢島:刺激を受けない方が、難しい。

須美:…なるほど

弓野:…

須美:で、つまるところ。二人はこのアニメをどうしたいんですか?

矢島:え?

須美:どうしたいか、です。完成させたいのか、させたくないのか。

矢島:そりゃ当然完成させたい!

須美:そうですね。ではそれ以上に何か望むものはあるんですか?弓野も

矢島:この作品を…それは…

矢島・弓野:…このアニメを、もっといいものにしたい!

矢島:え?

弓野:は?

矢島:嘘だろ?お前。そんなこと考えてるなんて

弓野:当たり前でしょう?スタッフとして関わる以上、よいものを作りたいと思うのが当然です

矢島:スケジュールにしか頭にない、給料もらえればいいと思ってた…

弓野:給料が目的ならもっと金払いのいい職業を選びます。アニメ業界にいる以上、私も矢島さんと同じ表現者です。

弓野:制作進行にしか出せない作品の味だってあるんです。その最たるものがスケジュールです

矢島:スケージュールが作品のクオリティに影響するのか?

弓野:今度見比べてみてください。スケジュールがギリギリで作られたアニメと、余裕をもって作られたアニメ。作品の出来が天地の差ですから

須美:それ、確かに。ギリギリだとキャラの顔崩れてても白箱にしなきゃならないからな。それで視聴者に作画崩壊だって語り継がれる

弓野:私なりのクオリティアップの信条です。計画があるからこそスタッフが同じ方へ顔を向けられる。精神的余裕だって生まれるんです。守られれば、ですが

矢島:…クオリティアップか

須美:ではこうしましょう

矢島:ん?

弓野:え?

須美:カット231のセリフを、来週の4話のアフレコで録りなおします

弓野:ちょっ…

須美:ただし、他に直すのは原画だけです。それもリテイクのみ。タイムシート変えればいけるでしょう?

矢島:ちょっ…待て!それじゃ「頑張ってね」のセリフを生かせない…

須美:生かせるように工夫してください。プロなんですから。それが我々にできる最大の譲歩です。

矢島:くっ…プロか…それを言われると…

弓野:矢島さん

弓野:お願いします

矢島:…お前がそこまで頭を下げるなんてな。珍しい

弓野:スケジュールがありますので。お願いします

矢島:…わかったよ。それでいい。監督の工夫を見せてやるよ。

須美・矢島:ありがとうございます!

矢島:それと…弓野

弓野:…なんでしょう

矢島:さっきは、その、悪かった。文句ばっかり言って。あと、制作進行をしぶしぶやってるとか言って

弓野:矢島さん…

弓野:…でいっ!

矢島:い、痛った!椅子の足を蹴るな!なんて奴だ、間接的とはいえ監督を蹴るなんて

弓野:これでおあいこです。私も色々言ってすみませんでした

矢島:さっきはしおらしくしてたのに…まあいい!今から作業に取り掛かる。話は以上でいいな?

須美:はい、よろしくおねがいします。では我々はこれで

弓野:後でまた様子見に来ますからね!

矢島:…やれやれ。まあ、やるといったんだ。カット231、いっちょやったるか!

◆スタジオ・プライマルベース 屋上

弓野:…はあ~~。どうにか話がつきましたね

須美:おつかれさん。シナ打ちにも間に合いそうだし、上手くいってよかったよ

弓野:須美さんの思惑通りにいきましたか?

須美:え?

弓野:最近矢島さんくすぶってましたからね。溜まってたものぶちまけさせたかったんでしょ?

須美:ハハハ…さあ、どうだかね。それより、ほら。一本どうだい?

弓野:須美さん私が禁煙してるの知ってるでしょう…私は今から素材回収に行ってきます。

須美:今から?少し休憩していきなよ

弓野:遠慮しときます。働いておかないと、矢島さんに何か言われるかもしれないんで

須美:そう。いってらっしゃい

弓野:車、一台借ります。では須美さんもシナ打ち頑張って

須美:あいよー

弓野:…さて、いっちょ3話、完成させたりますか!

(終わり)
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