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チューベローズ〖男女2人台本〗


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涼は涼、涼M、涼Nとあります。
カナはカナ、カナMがあります。
涼:妻子持ち男性
カナ:夫持ち女性
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〖チューベローズ〗

涼M:甘い甘いエキゾチックな香り、花の香りが…鼻につく。ダジャレか。っと。
自分でツッコミを入れるくらいには意識ははっきりしていた

涼:「この匂いは…」

カナ:「…チューベローズ…嫌いだった?」

涼N:彼女の…指から指輪を抜き取り、カランと灰皿へ投げ捨てる

涼:「いや…ちょっと、そそられる」

カナ:「ふふふ。そう?でもまだ駄目みたい」

涼:「え?…どうして?」

カナ:「まだ足りないの。まだ咲ききっていないし、貴方は、まだ酔っていないでしょ」

涼:「いや、酒はさっき少し飲んだけど…酔うほどは、飲まないよそれに…」

カナ:「(遮る様に)黙って。この時間を楽しんで?」

涼:そういって彼女は俺の唇に指をあて、耳に息を吹きかけるように耳元で囁く

カナ:「今、十二時。奥様に出張だなんて言って、有給取ってこんなところまできて、
悪い人。」

涼:「それは君に会いたくて…」

カナ:「本当に?体が目的なんでしょ?」

涼N:ゆっくりと細い、爪もきっちりと、そろい切られた派手ではない、少し荒れた
指先が俺のネクタイを解いていく

涼:「…行動が伴なっていないね」

カナ:「そうね。女ってそう言う所あるから。好きなのに好きじゃないっていったり。
会いたいのに会いたくないって言ったり」

涼:「フッ。めんどくさいね」

カナ:「そう。めんどくさいの」

カナ:「でも、めんどくさいのを我慢して我慢して、やり取りを続けて。今、会えてるでしょ?
貴方は私を手に入れたくて、自分のものにしたくて仕方がないでしょ?」

涼:「…ふっ。有給まで使ったんだしね」

涼N:SNSで気になってフォローをした。お互いに家族の事…。友人の事、今日あったことまで細かく話す程、カナとはSNSのダイレクトメールでやりとりするようになった。

カナ:「でも今、私を手に入れたら貴方は満足してしまう」

涼N:そうでしょう?と言いながら、ほどかれたネクタイが目に当てられ目隠しをさ
れる

涼:「な…」

カナ:「動かないで。そのままじっとして。いい子だから」

涼N:待ち合わせ場所のカフェで見たカナはたいして美人というわけでもなく、身長も、体型も普通。年齢も言われたように年相応。
服装も、地味な方でわざわざ地方から会いに来た男と会うようには見えない。真面目そうな女だった。

カナ:「…このネクタイ。奥様が選んだんでしょう?」

涼N:ゾクリとした

【間】

涼N:あまりにも、想像していた容姿とかけ離れていたから彼女が…空気が動くと花の香りが強く感じる
脳に花の香りが充満し、ふわふわと漂う

カナ:「貴方の聞いていた好みとは、全く違うもの。奥様はよくわかっていらっしゃ
るのね」

涼:「あ…」

涼N:カナの少し荒れているザラザラとした指が頬に触れる。感じたことのない高揚感

カナ:「ねぇ。今…どんなきもち?」

涼:「ッ。アッ…」

カナ:「いつもそんな顔をして奥様を抱くの?」

カナ:「ずるい人。自分は指輪を外さないくせに。私のは簡単に引き抜くのね」

涼:「いや…妻とは…君しか見えなくて…」

カナ:「うそ。一歩踏み出せないくせに」

涼:「あっ…会いに来たじゃないか…」

カナ:「そうね。来てくれてありがとう」

涼:「そう思うなら…」

カナ:「だーめ。」

涼N:どこにこんな色気があったのだろうか
今の俺は彼女を手に入れたくて手に入れたくて…
あと数センチで餌が届かない、鎖につながれた犬のようだ

カナ:「涼くん。手だめ。私に触れないで?触れたいのなら指輪を外して?」

涼N:外してしまいたい。でも…一瞬、妻の顔がよぎった

【間】

涼M:妻は息子、娘を出産し、落ち着く暇もなく、日に日に自分の事がないがしろに
されていく。それでも良き妻、良き母でいようと必死に頑張ってくれている妻をねぎらい、
やさしくしていたつもりだった。
あなたは何にもわかっていない。私の事なんてなんとも思っていないんでしょ
う?
そういわれて少しドキリとした。

【少しの間】

涼:「はぁ…なあ…もう…まだ?」

カナ:「だーめ。ねえ。想像して…」

【少しの間】

涼M:次第に妻への気持ちも苛立ちにかわっていったある日。妻の母親から連絡があった幼稚園から連絡があり、子供が頭を打ち付け、嘔吐し、今病院にいると連絡が
あったそうだ。俺には連絡がなかった事から、緊急連絡先は妻、妻の実家になっていたのだろう。
そこで妻とは連絡が取れないと母から言われた。
俺はたまたま営業先が自宅に近かったため、何かあったのかと、自宅にいるは
ずの妻を心配し帰宅した。
妻は自宅におらず、買い物にでも出かけているのか、それとも何かあったのか…。
安否が気になり、俺が電話をかけてみるとすぐにつながった、妻は家にいる。と。
漫画やドラマの世界だけかと思っていたものが現実に突き付けられ
嘔吐した

カナM:「【サレ女】」

涼M:夫婦としてはもう破綻していた…と思う。SNSで目に留まった。そこには夫に浮気され、でも知らないふりを続ける妻
の日常が書かれていた
同情、哀れみ、愉悦

カナM:「【今日も夫は女の香りを纏って帰宅する。
帰宅といっても着替えをしにきただけだ。
もちろんシャワーは「彼女」の自宅で済ませたのだろう。
お疲れ様です。トラブルでしょ?大変でしたね…笑顔を無理やり張り付けたのが分かったのだろうか。バカにするように夫は深いため息をついた】」

涼M:お互いの傷を舐めあうように。会ったこともない画面越しの…文字だけ…声だけの君にいつの間にか恋をしていた
恋といっていいのかも分からない…ただの依存なのかもしれない
カナからの連絡がないと…
タイムラインにカナの表示がないと…
落ち着かない。

カナ:「いいの。まだ…」

涼N:カナは俺の指輪をくるくると撫で。

【少しの間】

涼N:薬指がねっとりと生暖かいモノに包み込まれた

涼:「ッ!?」

カナ:「いいのっ。まだ。」

涼N:生暖かさがなくなりひんやりとした人差し指を、自分の唇に押し付けられた

涼N:甘酸っぱい香りと甘い、甘い、エキゾチックな香りが混ざり合う

涼:「はぁ…はぁ…はぁ…っ」

涼N:パタンと扉の閉まる音がし、はっと結ばれたネクタイをほどく
そこはオレンジ色に染まった部屋と、チューベローズの香りだけが残されていた

カナN:「夕方、チューベローズの畑には近づいてはいけない」

涼N:「はぁ…はぁ…はぁ…っカナ…カナ…」

涼N:カナのSNSは消され、連絡も取れなくなった
今まで簡単に取れていた連絡がなくなり、カナの事が頭から離れない

【少しの間】

涼N:カナとあった翌日。帰宅した俺はむさぼるように…埋めるように妻を夢中で抱
いた
カナの香りと指先を思い出しながら。
妻とカナを重ねた…
カナならどんな反応をするのだろうか。
カナならどう鳴くのだろうか…カナなら…

【チャイムが鳴る】

涼:「…はい」

カナ:「こんばんは。隣の。702号室に越してきました「カナミヤ」と申します。」

涼N:チューベローズの香りが…嗅ぎなれた玄関の匂いを消していく

カナ:「…女の一人暮らしですので…少し不安ですが…よろしくお願いいたします」

涼:「…は…い…」

涼N:絶望からの高揚感…ごくりと唾を飲み込む

カナ:「…私を想像して奥様を抱いたの?」

涼N:チューベローズの花言葉は「危険な楽しみ」
【了】

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