女子CL決勝 ヴォルフスブルクVS.リヨン~王者の貫禄と挑戦者の奮闘~
時の遅れなど関係ない!今回は女子サッカーの史上最高峰の舞台をレビューしたいと思います。日本人にとって女子サッカーといえば2011年のワールドカップが有名ですが、私は去年のワールドカップの日本対スコットランド戦を見て、女子サッカーってめちゃ面白いなと再確認しました。前々から「女子サッカーは(メッシやネイマールのような)絶対的な個がない分、チームとしての動きが見やすい」ということを聞いてはいましたが、その試合の戦術的な駆け引きはとても面白かったと記憶しております。女子サッカー界において、ヨーロッパでの市場が大きくなる一方で、日本ではまだまだマイノリティーな気がします。僕も女子サッカーの観戦歴はビギナーですが、今回は読者の方々に女子サッカーの面白さを少しでも伝えられたらなと思います。(今回も動画のリンクを貼っておきますので、宜しければご覧ください。)
(Youtubeチャンネル“SPORT1"より)
ヴォルフスブルクが用意した攻守のプラン
リヨンはCL四連覇中の絶対王者。ということで、アンダードッグとなるヴォルフスブルクは攻守において綿密にプランを組んできました。
攻撃(ボール保持)時には、この図とその記載のように右SBが一列上がることによって3バックを形成しながら、エンゲンがアンカーのようなポジション取りをすることで、3-1ビルドアップを構築。相手の2トップとトップ下のプレッシングに対して、数的優位を確保することでビルドアップを安定させることを企図していました。
一方守備時のヴォルフスブルクは、ゴールキックや相手GKがボールを持つと、それがプレッシングのスイッチとなり、1つ目の図のように相手の2CB+アンカーを抑えることで、強度の高いプレッシングを掛けていました(その分リスクも高いですが…)。しかし、どちらかというとこの試合のヴォルフスブルクは下の2つ目の図のようなゾーン2からゾーン3にかけての守備を主に行っていました。個人的には、リヨンをリスペクトしてのプランだったのかなと思います。しかし、このヴォルフスブルクのプランはビルドアップにおいては、ハルダーの列を降りる動きによって成功するシーン(7',21')はありましたが、その数は決して多くはありませんでした。守備に関しても、大やけどはしなかったですがリヨンが攻めあぐねていたというわけでもなかったです。やはり、百戦錬磨のリヨン。次のセクションではなぜヴォルフスブルクのプランにリヨンは対応できていたのかを考えていきたいです。
絶対王者リヨンの適応力(対応力)の高さ
まず、リヨンがヴォルフスブルクの守備に「苦しまなかった」要因を考えると、この図のようなグンナルスドッティルの「IH落ち」(IHがCBとSBの間に「落ちる」ことで、SBを高い位置に押し上げ、同サイドでの数的優位の確保や噛み合わせをずらすことを狙う動き)が大きいのではないかなと思います。この動きを2',5',10',17',23',31'41'と行っていて、25'の得点シーンの起点にもなりました。
このシーンではルナールから「IH落ち」したグンナルスドッティルへ。左SHのフートが勢いよくプレッシャーを掛けるが、グンナルスドッティルがいなくなって空いたスペースに入り込んだ熊谷がボールをもらい、空いたCHとSHの間に空いた「門」からカスカリーノにボールを通します。そのパスに対して、相手CBのヤンセンがインターセプトできず、ボールを持ったカスカリーノは相手SBのカーイェの寄せを受けたため、ブロンズへ落とします。ブロンズはダイレクトで相手SB裏に抜け出したマロジャンへ。その後は(図に記載はないですが)、マロジャンからサイド深い位置に抜け出したカスカリーノへとボールが渡り、そのカスカリーノがル・ソメアへのグラウンダーのクロスを渡し、ル・ソメアが一度止められたシュートのこぼれを決めています。グンナルスドッティルの「IH落ち」が相手を動かし、スペースを作り出す起点になったわけですが、リヨンの選手たちは個々のインテリジェンスが高く、このシーンの熊谷やマロジャン、カスカリーノのように空いたスペースへの走り込みが徹底されていて、「強いチーム」というのを痛感しましたね。
この図と説明のようにリヨンは、左右不均衡のポジション取りをするヴォルフスブルク相手に、左右のIHに異なるタスクを与えることで対応していました。ただ、これもリヨンの両IHとアンカーの3枚の走力が高いからこそで、これは感覚的なものにはなりますが、この試合リヨンはチーム全体として「よく走った」という印象はありますが、おそらくこの3人が最も走ったのではないかなと思います。また6'のように、マロジャンと熊谷が列を上げることで、4-2-1-3のような形で相手に対して数的同数でのプレッシングを掛けるシーンもあり、やはりリヨンの選手たち一人ひとりの技術を含めた「サッカーのうまさ」みたいなものが光っていました。
ヴォルフスブルクの反撃開始=猛烈プレスと相手IH脇の利用
1点差で終始した前半でしたが、44'に中盤でのボールの奪い合いを制したリヨンがサイドに張るカスカリーノにボールを預けると、カスカリーノの突破から最後は熊谷のスーパーミドルでリヨンの2点目。前半終了間際のトランジションの応酬でヴォルフスブルクの選手の足が一瞬止まっていたということもありますが、CL決勝という舞台で、しかも逆足であのシュートを打つのだから、熊谷選手がすばらしかったと言うしかありません。2点ビハインドで折り返したヴォルフスブルクは攻め続けるための修正が必要になったわけですが、メモ魔のヴォルフスブルクの監督はしっかりとそれを遂行しました。
もちろんリヨンの相手陣内深い位置からのプレッシングが少なくなったということもヴォルフスブルクのビルドアップを安定させた要因の一つですが、この図のような3-4-3への修正によって真ん中のゲースリンクや左のヤンセン→相手IH脇で待つハルダーというシーンが多くみられ(54',55',57',72')、そこからゾーン3へと侵入していくことができたと考えられます。実際に、58'のポップの得点はゲースリンク(中央CB)→ハルダー(左シャドー)と繋いで、そこで「時間」を得たハルダーが相手右SBを引き付けてサイドに張るロルフォにパスを出し、そのクロスによって生まれたものということもうなずけます。またリヨンがプレッシングを強めたときには、GKを使うことで、(本来の)2CBとGKで3バックを形成し、ヤンセンを相手のIH脇に配置することでビルドアップを円滑にすることに成功していました(67',69',72')。
そして、守備の面でも上述したゴールキック時のプレッシングを常に行うことを意識(48',69',74'85'など)することで、自分たちのボール保持を増やし、試合をコントロールすることで、攻勢を続けることができました。
そんな互角の試合もプレッシングによってヴォルフスブルク陣地でのスローインを得たリヨンが、そのスローインをコーナーキックにつなげた後、グンナルスドッティルがとどめの3点目を決めました。ロスタイムの交代で5-4-1にして守り切ったリヨンが栄冠を勝ち取りました。個人的には、87'に(前回ワールドカップで日本代表に勝った)オランダ代表のファン・デ・サンデンが登場したときは、なんか知り合いを見た感覚でうれしかったです。
コラム:可変フォーメーション
今回は簡潔にします。可変フォーメーションとは読んで字のごとく、攻撃時(ボール保持時)と守備時(非ボール保持時)でフォーメーションを変えることです。今回のヴォルフスブルクがまさにそれです。攻撃時には相手の守備の噛み合わせをはずし、守備時には噛み合わせを合わせたりして守りやすくするという利点がある一方で、それを切り替えるときのいわゆるトランジションのときに陣形が乱れやすく、特にネガティブトランジション(ボールを失ったときの攻から守への切り替え)の際のカウンターに脆いという欠点があるといえます。昨今、例えばリヴァプールのように両SBが高い位置を取り、WGのように振舞うチームも多く、そのようなチームが可変フォーメーションを使っているというかどうかは自分はわからないですし、全てのチームが可変フォーメーションを使っているといってもよいのかもしれません。
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