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プレミアリーグ第7節[延期分] マンチェスター・ユナイテッドVS.クリスタル・パレス レビュー
まずは両チームのスタメン。
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Ⅰ.順位の差を如実に表したような前半
1⃣パレスの曖昧なボール非保持プラン
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パレスのボール非保持(守備)時のプランはいたってシンプル。ユナイテッドの4-3-3気味の配置に対して、4-4-1-1気味の配置を取り、各々のマーカー(守備の基準点)をはっきりさせる手法だ。ただ、マンツーマンというわけではなく、マーカーの受け渡しは比較的多めで、黄色で示した4-4のブロックを崩さないことを優先させていた。1トップのマテタとOHのエドゥアールも同様に、状況に応じて2トップ気味に並んで守備をすることも多かった。
守備の基準点を明確にする守備をとったパレス。しかし、そのプランは少し曖昧なようにも見えた。曖昧に見えたのは、プレッシング開始ライン、つまり、ボールの奪う高さ・ブロックを敷く高さをどのエリアに設定したのかということだ。基本的にはミドルサードにブロックを敷くミドルブロックを想定していたのだろうが、11:20~,14:20~,21:40~の場面のように前線の選手が我慢できずに相手陣内深いエリアでのプレッシングを行うシーンがいくつかある。この前線のアドリブ的なプレッシングにチーム全体が連動すれば問題はないが、そういうこともないので、ユナイテッドに間延びした中盤を使われてしまっていた。
また、「人」と「ゾーン」の両方を意識した守備のため、選手個々人の判断ミスやエラーも起こりやすく、サイドと中央のどちらに追い込むのか、相手のポジションチェンジにどう対応するのか、という局面での判断の迷いが見られた。33:17~のブルーノのミドルシュートを生んだシーンも、右WGザハと右SBクラインの間でのマークの受け渡しミスが一因となっている。
2⃣効いていたエリクセンの動き出し(サイドへの関わり)
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曖昧なプラン設定したパレスに対して、エラーを生むことができていたユナイテッド。その中心になっていたのが、エリクセン。③や④のようにCBの脇に下りる動きによってサイドでの3対2の創出する。ちなみに、この動き出しは毎試合行われていることではある。
ただし、「人」と「ゾーン」の基準の設定が不明瞭なパレスは、列を下りるエリクセンに対して右WGのザハが少し遅れ気味にプレッシャーを掛けていた。ザハのパスコースの切り方も意図が見えず、エリクセンの動き出しにチームとして対応できているとは言い難かった。結果として、③・④では右SBのクラインがルーク・ショーとラッシュフォードの1対2の状況をつくられて対応が遅れてしまい、CFヴェフホルストへのチャンスメイクを許している。例えば、右SBクラインが右WGザハのエリクセンへのプレッシャーに素早く連動して、ルーク・ショーに縦スライドし、クラインの担当だったラッシュフォードには右CHのドゥクレがマーク、というように連動性を持っていればよかったが、パレスの対応は後手に回っていた。
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因果応報ともいうべきか、前半終了間際にユナイテッドが得点する。若干トランジション気味であったが、⑤のようにまたしてもエリクセン&ブルーノ&ラッシュフォード対クライン&ドゥクレという3対2の状況を作り出したユナイテッド。クラインのラッシュフォードへのプレッシャーが弱く、ドゥクレのエリクセンへのマークも遅れていたところを、ユナイテッドは得点に繋げた。
➃・⑤のシーンでは同じようにクラインが縦へのコースを切っている。縦へのコースを切るということは相手を中央に追い込むということになるが、中央へのマークも疎かで、WGのプレスバックによる挟み込みもない。やはり、サイドに追い込むのか、中央に追い込むのかという点が不明確である。パレスの守備の問題点を見逃さなかったユナイテッドであった。
Ⅱ.This is football的な試合
1⃣パレスのプレッシングの修正
エンドが変わった後半。ビハインドとなったパレスは守備プランの修正を行う。
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②で示した基本的な守備の基準点の設定は変わらない。しかし、チーム全体として重心を上げてボールにプレッシャーを掛けることで、後方で相手をマークする選手に前方方向へのアプローチ(インターセプト)を行わせる。この際、マークの受け渡しは前半よりも制限し、「人」をマークすることを徹底していたように見えた。また、「相手を誘導するエリア」に関しても、まず1トップ+OHでサイドに誘導したうえで、相手CBやSBがハーフスペースでボールを持った際に、WGの外切りや縦切りのプレッシングでパスコースを制限してボール奪取を狙うようにしていた。
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その結果、51:11~,52:35~,56:54~,57:20~,60:32~,64:10~,78:05~,79:36~のシーンでプレッシングからボールを奪うこと(ミドルサードを含む)に成功している。⑦のようにパレスのボール保持率は前半から上昇しているのに対して、ユナイテッドのパス成功率は下降しており、スタッツとしてもパレスのプレッシングが(前半に比べて)機能していたことがわかる。
ただ、後半の両チームのxG(ゴール期待値)はどちらも1未満で、ユナイテッドが限りなく1に近い数字となっており、パレスの守備の修正が試合の大局に影響を及ぼしたとはいえない。それでも、オリーセのロスタイムの土壇場弾を生んだFKは、ユナイテッドGKデヘアがプレッシングを交わすために蹴ったロングボールをパレスが回収したところが起点となっている。
ボール保持局面では、後半も相も変わらずロングボールを蹴りまくっていたパレス。プレッシングが機能し始めたことで、ユナイテッド側のロングボールも必然的に増えることとなる。つまり、トランジション局面が多く生まれる「トランジションゲーム」となる。きしくも、マンチェスターダービーでビハインドを背負ったユナイテッドと同様に、トランジションゲームで少ない確率をものにして一瞬の局面を制し、得点を奪ったパレスであった。
2⃣どこか焦っているように見えたユナイテッド
このブログでは、「焦っている」のような感覚的な表現は使わないようにしている。なので、これはあくまで個人的な主観という話になるが、この試合のユナイテッドは試合を通じて「縦に速い攻撃」が多かった。
パレスのプレッシングが強まった後半はその傾向が顕著となり、62:10~のカゼミロのプレーのように、「相手が守備をセットする前に攻める」という意識がみられた。攻撃の最優先事項はゴールを狙うことであり、縦への攻撃の意識は極めて重要だが、それは「ボールを繋いで崩す」という術を持ち始めたユナイテッドにとって、いつも最善手になるとは限らない気がする。
実際、(相手の違いはあれど、)3-0で勝利したボーンマス戦は保持率58.5%でパス成功率85%、3-1で勝利したエヴァートン戦は保持率57.8%でパス成功率は87%となっている。この試合の後半は保持率はほぼ同じでも、パス成功率は78%。もしかすると、過密日程の疲れによって調子のいい時には通っていた縦への強引なパスが通らなかったということも考えられる。原因が焦りにしろ、疲れにしろ、後半のユナイテッドは明らかにベストパフォーマンスではなかったといえる。
そんなこんなで連勝が止まったユナイテッド。ただ、xGをみてもわかるように、勝つべくして引き分けてしまった試合だった。チームの完成度を上げればあげるほど、今回のようなThis is football的な試合は増える。けれど、そんな試合があっても、安定して勝利を収めて4位以内キープ、優勝をするチームが真に強いチームであると思うので、自信をもって今の戦い方を続けてほしいところです。では。
タイトル画像の出典
https://www.sofascore.com/crystal-palace-manchester-united/hK