PL第31節マンチェスター・Uvs.シェフィールド・U 試合分析~マルシャルのハットトリックを生んだ「5-3-2の泣き所」の利用~
前回は初投稿ということもあって、(というより雑な性格が影響して、)誤字・脱字が多かったことをお詫びします。お読みいただいた方々は、できればこれからも自分の戯言に付き合っていただけたらなと思います。今回は、シェフィールドとのユナイテッド対決ですが、私はマンチェスターの方をユナイテッド、シェフィールドをそのままシェフィールドと呼んでいるので、その呼称でいきたいと思います。記録も記憶も曖昧なので、前回より質は落ちるかもしれませんが、読んでいただけたら幸いです!!(前回同様、白のマークがないので、シェフィールドは黄色です)
ユナイテッドが前半を掌握できた理由=5-3-2の泣き所とSB+ポグバの2対1
この試合、贔屓目なくユナイテッドが終始主導権を握っていた理由は、ユナイテッドの攻撃時のシステムとそこに置かれる人に対して、シェフィールドは守り方を前後半で変えたが、それでもうまく対応できなかったことにある。まず、その前半の攻防を見ていこう。
まず、シェフィールドは基本的に、アウェイということも考慮してか、序盤からプレッシングに行くことはなく、ユナイテッドはトッテナム戦同様に相手のプレッシングを剥がしてのビルドアップを行う機会は少なかった。守備をするとき(ボール非保持時)にラインを下げて、ある程度ブロックを組んで守るチームが相手の場合、攻める(ボール保持している)側はどのように後方(自陣側)にある「時間」と「スペース」を前線に供給することができるか、つまりどのように引いている相手を引っ張り出して、余裕のできた選手や空くスペースを使うことができるかがカギになってくる。
前置きが長くなったが、シェフィールドのブロックにおける後方の「時間」と「スペース」があるところは、「5-3-2の泣き所」とも呼ばれる両IHの脇と両SBの手前にあるスペースである。この「5-3-2の泣き所」を抑える(または利用を制限する)には、そこに位置どる選手がボールを持った際に、①両IHが寄せる②両SBが寄せるの2つの方法がセオリーとしてあるが、シェフィールドの選択は図のように、①であった。
一方のユナイテッドはシェフィールドの2トップに対して、3+1のビルドアップを選択した(3',15',22')ため、シェフィールドの2トップはポグバのコースを切りながら、ユナイテッドの両サイドのCBにプレッシャーを掛けるので、どうしてもマグワイア(たまにマティッチ)やリンデレフへの寄せが遅れるシーンが多く、そこから、右はAWB(ワン=ビサカ)が左はマグワイアの運ぶドリブルによって、「5-3-2」の泣き所を利用しやすくしていた。
具体的にどのような利用をしていたかが、上の図(6',22'に記録)である。この図は右サイドでAWBがボールを持っている場面となっている。(左の場合は、マティッチがボランチの位置で、ショー、ラッシュフォードもしくはブルーノと三角形をつくっていた。)図のように、AWBが「5-3-2の泣き所」でボールを持つと、上述のように左IHのフレックがプレッシャーを掛けてくる。全体はスライドしているが、フレックが瞬間的に空けたスペースにグリーンウッドが侵入、AWBがボール方向に垂直に寄ってきた(ジョルジーニョに多い動きなので、僕は勝手に「ジョルロール」と呼んでいます)ポグバに横パスすると、鋭いボールでポグバはグリーンウッドにパスをつけることによって、グリーンウッドは相手のバイタルエリアである程度の「時間」と「スペース」を得て、ボールを受けることができる。(文字面だと簡単そうに見えますが、全員の技術レベルが高く、入るタイミングなどインテリジェンスの高い動きが求められると思います。)ちなみに、なぜシェフィールドのロビンソンやジャギエルカがグリーンウッドに寄せれないかというと、この時にマルシャルやブルーノ、たまにラッシュフォードが行っている「ピン留め」(後述のコラムで説明)があるからである。
得点シーンのスローイン獲得の流れも、上の図においてマルシャルとグリーンウッドのポジションチェンジやポグバの位置がサイド寄りになるだけで、構造は上の図と同じ現象が起きていた。
つまり、以下の概念図のように、SBも利用しながらの中央での数的優位が作れていたことが前半、ユナイテッドが主導権を握ることができた要因であった。
それでも流石のシェフィールドのビルドアップと崩し
昇格組のシェフィールドがそのスカッド以上の順位にいるのは、ひとえに粘り強い守備や攻撃時の機能的な動きの多さなどのチームとしての力にある。この試合の前半の中頃(30分台前後)にペースを掴んだのも、そのチームとしての動きが生んだものであった。
まずはこの試合のユナイテッドのプレッシングの形から見ていく。
ユナイテッドは相手とのフォーメーションの噛み合わせが合うと、(対リヴァプールやチェルシー、シティ戦の3-4-1-2のように自分から合わせにいく場合でもそうだが、)基本的にその噛み合わせ通りに、マンツーマンとまではいかないが、「(ゾーンではなく)人への意識が強い守備」を各個人がするようになっている。だからこの試合も相手の中盤3枚をブルーノ、ポグバ、マティッチで抑えながら、ボールサイドのSHの相手両脇CBへのプレスが「プレッシングを始めます」というサイン(プレッシングのスイッチ)となって、ボールサイドのSBが相手のWBを見る仕組みとなっていた。
ただ、「人に強い守備」の弊害として、「マーカーにどこまで付いていくのか」という問題が付きまとう。それを利用したのがシェフィールドのビルドアップ・崩しであり、それによってシェフィールドは30分台前後、一時的に主導権を握る。その形が両SBが高い位置を取ることによって生じるスペースをIHが移動して利用する「IH落ち」の形である。上の状況は左サイドでJ.ロビンソンがボールを持っているシーンだが、この状況で、ポグバはフレックについていくのか、自分のスペースを埋めるのかという選択に迫られる。付いていけば、降りてくるマクゴールドリックにそのスペースを使われる危険性があり、付いていかなければ相手はサイドで3対2の数的優位となる。また、グリーンウッドがフレックを見ることにすると、ロビンソンがボールを持って判断する「時間」を得ることになるという仕組みだ。これを両サイドで繰り返すことによって、シェフィールドが前進に成功するシーンが増えてくる。
前進に成功すれば、その後は崩しとなるが、それも左サイドを例に見ていこう。まず、ユナイテッドは上述したように「人に対する意識が強い守備」なので、シェフィールドの大きな特徴といっても良い両脇CBの攻撃参加に対して、そのマーカーであるグリーンウッドはそれに付いていくとまではいかないが、当然、釣られてしまう。その空いたスペースに登場するのがフレックである。先ほどと同じように、ポグバが出れば、マクゴールドリックが下りてボールを貰おうとし、さらに、ユナイテッドが撤退した(ラインを下げて守備ブロックを組む)ときに、ブルーノがノーウッドを捨てて、ダブルボランチの手前のスペースをケアしたり、ダブルボランチの開けたスペースを埋めることをしているのを見るや否や、ノーウッドは積極的にボールサイドに寄り、先ほどポグバが行っているのを説明した「ジョルロール」をするシーンも目立った。つまり、フレックが「時間」を得ることによって、相手が空けるスペースを3段構えで突くようになっていて、仮に相手のブロック全体が極端なスライドをして対応しようとしても、フレックに「時間」がある場合、28',31',37'(37'は逆サイドのつくり)に起きたような、サイドチェンジからの数的優位の創出をするという意識も徹底されていた。このように、シェフィールドは、ユナイテッドが「人に対する意識が強い守備」を行っていたことによって、局面的な数的優位は作りにくかったが、人を動かすことによってできるスペース(ギャップ)を使うことで、攻め手を見出していた。
そのような流れの中、44分ユナイテッドに得点が生まれる。正直メモにも何も書いて無く、1週間以上経過したことによって確認すらできないので、どのような要因かはつかめないが、ハイライトを見て1つ感じたのは、サイドからの横パスから相手の1列目と2列目の間で、ブルーノ、ポグバがボールをもつ「時間」があったことによって、シェフィールドは中央に収縮し、それによってつくられた、その2人がボールと共につないだ「時間」がAWBがスティーブンスを相手に仕掛ける「時間」となったことによって生まれた得点ということだ。この試合の前半を見て、終始思ったことは、ユナイテッドのダブルボランチやブルーノの技術レベルが高いのも確かだが、シェフィールドの2トップのプレスバックが少なく、それによって、シェフィールドの中盤の手前のスペースで比較的自由にユナイテッドの選手がプレーできたということだった。
(すぐ見て、すぐ上げることの大切さを改めて実感しました泣)
シェフィールドの後半の「5-3-2の泣き所」への対応の変更とユナイテッドのそれに対する攻略法
気を取り直して後半の分析をしていきたい。後半の頭から、シェフィールドはムセ→マクバーニー、ノーウッド→ベルゲの2枚替え。ベルゲは一度も見たことがなかったのでどんな選手かなと(クラブレコードの移籍金らしいということもあり、)気になったが、印象としてはノーウッドと違ってアンカーとしてロドリやファビーニョのようなバイタルを掃除しながら、攻撃のリズムをも作る裏方的な選手という印象を受けた。この2枚替えを見たとき僕は前半に突かれたアンカーとIHの脇をケアし、マクバーニーを入れて、上述した1列目と2列目の間のスペースを消しにかかる狙いがあると考えた。しかし、後者は間違えだったようで、意外とマクバーニーはプレスバックに献身的ではなかった。そのような背景、前半終盤の得点などが起因して、結局後半もユナイテッドが基本的にボールを持ち、主導権を握るという展開は変わらなかった。ただここで留意したいのは、ボールを持てたから主導権を握ることができたのではなく、そこにはちゃんとした理由があるということだ。それはシェフィールドの守備の変更にユナイテッドがしっかり対応したことである。その過程を見ていこう。
まず、シェフィールドの守備の変更とは、負けていることなども鑑みた両SBの縦スライドの解禁である。(つまり、最初に説明した「5-3-2の泣き所」に対する②の守り方を実行してきたということ。)それに対し、ユナイテッドは図示したように縦スライドしてくるSBの裏のスペースを使うことである。これもシェフィールドの寄せてきたSBが裏を十分に開けた状態で、自分の間合いに入る前に飛び出したラッシュフォードやグリーンウッドにサイドラインに垂直にパスを出すという簡単ではない技術であるが、特にショーは流石というべきものがあった(61'[これは下掲の動画の3:37頃にあります],66'など)。この構図が起点となって、74分に3点目が生まれる。
(DAZN JapanさんYouTubeチャンネルより転載)
4:14から再生したのを図に表すと下のようになる。
ポグバが相手2トップの脇でボールを持ったときに、グリーンウッドとポジションチェンジしていたAWBが相手のSB(③スティーブンス)の裏へ走る。それに⑲ロビンソンが付いていくので、ブルーノがポジショニングしているところに若干ではあるがスペースが生まれる。そこにポグバが鋭いパスを打ち込むと、当然⑮ジャギエルカがスライドして対応しようとするため、マルシャルに時間とスペースが与えられる。しかし、そこに少しほど遅れて⑥ベイシャムがスライドして中央を閉め、サイドに誘導。最後はマルシャルとラッシュフォードのワンツーで崩すというシーンである。そこに至るまでにはポグバやブルーノの技術の高さもしかりだが、AWBの相手SB裏へのフリーランという戦術的要素が詰まった(個人的に)この試合で一番いいゴールだった。(スールシャールさんが1点目が一番いいといっていたのは、マルシャルが生粋のストライカーに成長したという視点での発言だと信じたいです。笑)
この得点後はスールシャールさんが伝説の5枚替えをしたことによって、ベンチの選手が大半を占めると極端にパフォーマンスレベルが下がるというユナイテッドの得意の方程式によって、ユナイテッドは攻め手を失い、一方のシェフィールドも3点目によって「息の根を止められた」という雰囲気が強くなり、そのまま試合が終了した。(どうしても僕は、前半に試合の構造や大局がわかり、その後にあまり変化がないと感じる後半だと集中が切れてしまいメモ数が減ってしまうというところは否めませんが…)
今日のまとめを一言で
5-3-2の守りは5つのレーンを全て埋めながらも、相手のパスの出し手にも、2トップがいるので圧力をかけやすいということで、最近の流行りのスタイルであるが、そこにおいて、泣き所をどのように隠すか、走りで補うのかが重要である。
コラム:ピン留(止)め
この言葉はよく、CFが相手CBに、WGが相手SBに対して「その場所にいる」ことによって、相手をその自分のいる位置に釘付けにするときに使われる言葉である。つまり、前回のコラムで書いた自分のマーカーの守備の基準点を固定させることによって、その手前のスペースを他の選手に使わせることである。その典型が4-4-1-1という1トップで相手の2CBをピン留めすることによって、トップ下の選手をバイタルエリアで自由にさせるという発明である。ただ、仮に相手のDFが自分のマークを捨てて飛び出したときに、ピン留めする選手がその空いたスペースをしっかり突けなければ、相手に恐怖心を与えられず、そのピン留めの効果は小さくなってしまう。
(追記:投稿がかなり遅れてしまいました。正直ミッドウィークが毎週あるのはきついですが、これからは自分の本業とも折り合いをつけながら、なるべく早くをモットーに投稿していきたいと思うので、どうぞよろしくお願いします。)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?