表現の自由 キューバのいま

 キューバでは表現の自由を巡って、市民と治安当局との緊張が高まっている。BBCやCNNは反体制派アーティストの一人、ルイス・マヌエル・オテロ・アルカンタラ(33)が、自宅でハンストを行っていたところ、治安当局によって連行され、病院に移送されたと報じた。

報道によれば、5月1日未明に警察が彼の自宅にやって来て、アルカンタラを連行した。のちにハバナ市内にある大学病院の救急センターに移送された。ハバナの保健当局はフェイスブックで「アルカンタラの状態は安定していて、意識もあり、歩くこともできる」と発表した。その数時間後、政府は国営メディアでアルカンタラとされる人物が、救急車を降りて病院内に入る様子を報じた。


 オテロ・アルカンタラは去年12月以来自宅軟禁状態にあり、自宅周辺は当局が監視していたようだ。今年4月25日から抗議のハンストを始めていたオテロ・アルカンタラ氏に面会しようとした支援者達と警察官がもみ合いになり、周辺住民が出て来て、支援者を逮捕しようとする警察を阻止する様子が、ネットで流れていた。

 現場はLa Habana Vieja(ハバナ旧市街)の中心部で、大勢の近隣住民や通りがかりの人が警察当局に向かって、Abusadores(権力の濫用だ)、Patria y Vida(後述)と叫んで抵抗しようとしている。さらに驚きはこの場面を多くの市民がスマホで撮影していることだ。この映像がいくつかSNSで拡散され、マイアミで社会主義体制の転覆を目指すキューバ系のメディアが、オテロ・アルカンタラ周辺の動きをこうした映像を交えて連日報道し、欧米主要メディアも反応している。

サンイシドロ運動

 オテロ・アルカンタラは、パフォーマンス・アーティストとして、路上や美術展で共産党政権への異議を唱えていて、当然のように当局に何度も逮捕されていた。
 彼は「サンイシドロ運動」Movimiento San Isidroという芸術家集団のメンバーの一人だ。キューバでは2018年11月に法改正が施行され、アーテイストの活動には(公共の場でも私的な場でも)文化省の許可が必要とされた。これに反発する詩人やラッパーなどが集まり、表現の自由、ネットへの自由なアクセスを求めて抗議活動やハンストを始めた。メンバー達は当局に逮捕収監され、釈放されては再び抗議活動を行うのを繰り返していた。
 2020年11月、ハバナ警察が運動の創設者の一人でラッパーのデニス・ソリスを逮捕した。ソリスは「政府への不服従」罪で起訴され、懲役8ヶ月の実刑判決を受けた。ソリスを支援するオテロ・アルカンタラら6人がハンストを始めると、革命警察は支援者を含む14人を排除した。

「祖国と命」

 同じ頃、アメリカに拠点を置いて活動するミュージシャンのDecember Buenoがキューバ在住のラッパーらとともに、Patria y Vidaを発表すると
サンイシドロ運動はさらに世界の注目を集めた。
 この曲のタイトル「祖国と命」は、キューバ革命のスローガンである「祖国か死か」をもじったもの。ラップは「革命よりも人の命の方が大事。理想を言っても食べ物がない。革命から60年経って、今は手詰まりだ。サンイシドロ運動は続く」と歌い、生活を改善できない現状と言論の自由、表現の自由を抑圧するキューバ政府を批判する内容。

そして3月から4月にかけてネットで次々と公開された、警察と市民の小競り合いの様子を撮影した動画で、人々が口にするのがPatria y Vidaだ。

Patria y Vidaのラッパーの一人、マイク・オソルボが、4月に警察に逮捕されそうになる場面の動画がネットで流された。

マイクがいるのはオテロ・アルカンタラの家で、ここは監視カメラや公安が常に監視している。マイクを連行しようとやって来た警察官に対し、近隣住民がPatria y Vidaを叫び警察官を妨害。さらに、マイクを守って逃走させている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?