「不処罰の完璧なサイクル」で蔓延するメキシコ経由、死と隣り合わせの人身売買(2)
By ICIJ Brenda Medina April 30, 2024
(写真)トナティウ・ギジェン・ロペス2018年にメキシコの移民局長に就任したが、6ヶ月後に政府の移民政策が変更され、辞任。写真: Noticias Telemundo
「避難民は深刻な状況に置かれ、リスクを冒している」
トナティウ・ギジェン・ロペス 元メキシコ移民局長
移民問題の専門家や権利擁護団体は、メキシコを通過する人の数(米国税関・国境警備局が、南部国境で遭遇した外国人は過去2年間だけでも480万人以上)を考えれば、トラックに乗る移民の数は、取材班のデータより間違いなく多いとする。
ギジェン氏は、移民の多くは業者が説明する移動手段を誤って理解する一方、揺れる鉄のコンテナに何時間も閉じ込められる危険性を理解している人もいると言う。
「避難民は深刻な状況に置かれているから、そうしたリスクを冒す」とギジェン氏は言う。メキシコと世界中の移民にとって選択の余地がない状況を、「絶望のマグニチュード」と表現する。
「人道的」移民政策?
メキシコ経由で米国を目指す中米移民は、少なくとも1980年代から続く。内戦から逃れるため。あるいは安い労働力を求める米国企業に引き寄せられたことが理由だ。90年代後半にも移民は続き、1998年のハリケーン「ミッチ」による壊滅的被害の後、数千人が国を離れた。その後も、経済危機、気候変動、暴力、政治的混乱から、移民の波が押し寄せた。2010年頃から、米国を目指す何千人ものアジアやアフリカからの移民がアメリカ大陸を縦断し、メキシコ南部にたどり着くのが新たなトレンドになった。
この流れを食い止めるため、米国とメキシコは国境の取り締まりを強化した。米国から資金援助を受け、メキシコは強制送還を増やし、何十万の人々を送り返した。その数が、米国の強制送還の数を上回った年もある。
「メキシコは専門家が呼ぶ「垂直国境」となった」と、移民を支援するNPO、Institute for Women in Migrationのディレクター、グレッチェン・クーナーは説明する。彼女によると「垂直国境」とは、国境や空港、港など、入国ポイント以外の場所でも移民が審査されることを意味する。移民はどこであろうと、当局に制止され、検査を受ける可能性がある。10年近く前から兵士や入国管理局の係官は、公園や公共の場所で人々を制止し、バスに乗り込み、車を停め、滞在資格のない移民を捕まえるようになった。(メキシコの最高裁判所は2022年、人種差別を受けた3人の先住民の兄弟の訴えに、こうした捜査を違憲と判断したが、実際には現在も行われている)
「こうした措置のせいで、移民は隠れて移動し、手助けする犯罪組織が潤うと考えられる。犯罪組織は無作為に行われる停車や捜査から逃れる方法を提供できるからだ」とクーナーは言う。
密航業者に金を払ったり、買収された当局から合法的に移動できる書類を入手する金を払ったりできない移民は、徒歩やヒッチハイクを試みてきた。多くの人々は命の危険を冒し、メキシコ全土に広がる鉄道網で、「ビースト(野獣)」や「死の列車」と呼ばれる貨物列車の上に登る。まとまっていれば安全だと、毎年何千人もの人々が、いわゆる移民キャラバンとして何百キロもの距離を歩いて移動する。さもなければ、ドミニカの木工職人ラフェリンや、取材班がデータ化した1万9000人のように、トラックに詰め込まれてしまう。
2018年に就任した中道左派でリベラルのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は選挙の公約通り、前政権より「人道的」な移民政策を打ち出した。移民の通行に安全な許可を出し、メキシコに滞在できる就労資格を与え、何千もの人道的ビザを発給した。その間、移民キャラバンはほとんど妨げられず国内を移動できた。しかし、トランプ政権からメキシコの輸入品に対する関税引き上げの圧力を受け、大統領は直ちに方針転換した。
2019年夏、ロペス・オブラドール大統領は移民を封じ込めるため、自ら創設した治安部隊、国家警備隊の捜査官2万1000人近くをグアテマラ国境や米墨国境に配備した。そして、メキシコが移民に安全な通行証を発行することは、ほぼ皆無となった。特筆すべきは、運輸業者に対し、有効な滞在許可を提示できない移民にバスのチケット販売することを禁じたことだ。メキシコを縦断するのに安全な移動手段のない移民が、危険な方法を探るようになったのは、この政策が理由のひとつだと支援者たちは指摘する。10月には、メキシコ連邦裁判所が、入国書類の提示を求めるのは違法で差別的だと宣言した。
子ども、赤ちゃん、家族全員
輸出経済を志向するメキシコは、今や中国を抜いて米国のトップサプライヤーとなり、ビジネスを維持する上ではトラックが重要な役割を果たしている。メキシコの道路を走るトラックは、2021年に年間60万台を突破した。
取材班の一人”En un 2×3 Tamaulipas”紙の記者は、6週間以上にわたり運送会社や個人にアプローチした結果、移民を運んだことがあるトラックの運転手を見つけた。たった一人だが、報復を恐れ個人情報を明かさないことが取材の条件だった。移民を乗せたトラックを運転した男性は、必ずしもこの種の仕事を探しているわけではなく、カルテルの下で働く人物に貨物ターミナルでスカウトされ、断れば死を意味することもあると語る。
「奴らはこう言うんだ『私の代わりに旅をするお前が必要だ。すべて手配済みだ』と」
ドライバーによると、南部からメキシコ・シティにたどり着いた移民は、バスターミナルで「米墨国境に行く安全な交通手段がある」とコヨーテに声をかけられる。移民たちは首都から西に数時間のミチョアカン州へ行く方法を見つけると、金を払ってトラックに乗り込む。そこからテキサス州との国境近くのレイノサやマタモロスまで、何百マイルも走る。ドライバーは、2013年からミチョアカン州の産物を国内各地へ運んでいるが、一度に最大で100人「子ども、赤ん坊、家族全員」をトレーラーに乗せて15時間運転したこともある。途中で停車して移民の状況を確かめることは禁じられているという。
2022年、彼はある男に声をかけられ、中米移民を北部まで運べと言われた。報酬をもらえるにしても、断ることはできないと悟った。「家族の話で脅すんだ。奴らの手がどこまで伸びるのか想像もつかない。近寄ってきてバイトの話をする時、『もし断ったり裏切ったりするなら、お前の家族が住んでいるのは、この町のこの地区だと知ってるぜ』と言うんだ」
そして、移動中に指示を受けるための携帯電話を渡される。陸軍や警備隊に検問所で止められた場合、人を運んでいると説明し、携帯を渡すよう指示される。「奴らは互いに連絡を取り合い取引する。それで終わりさ。(兵士は)「通っていい 」って言うんだよ」。
メキシコ国防省に、運転手の証言についてコメントを求めたが、移民は管轄外だと拒否された。運転手は1回の移動または「荷物の配達」ごとに、4,800ドルから6,000ドル(8万から10万メキシコ・ペソ)の報酬を提示されるが、最終的に受け取る支払いは大抵半分以下で、「交渉の余地はない」と言う。(続く)
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翻訳: fujitas@mars.dti.ne.jp
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