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WROTL決勝レポート

 2024年11月10日。WORLD RIICHI Online Team League(以下WROTL)の準決勝・決勝が行われた。7月から4ヶ月に渡り繰り広げられていたオンライン麻雀の熾烈なチーム戦も、この1日で全てが決定する。準決勝では唯一残っていた海外チーム(Phoenix Warriors 鳳凰勇士@HK)と一般ユーザーチーム(出荷業者組合龍龍支部)が惜しくも敗退となり、麻雀プロ4チームによる決勝戦となった。(以下、選手敬称略)

1回戦

東家:魚谷侑未(勇往邁進)
南家:夏月美勇(なにわのカブトムシ)
西家:日野太貴(1859)
北家:松本幸大(北海道マーベリックス)

 全4回戦ではあるが、各選手が打てるのは半荘1回。初戦から激しくぶつかる。東1局1本場。先制は松本。ピンフドラ1のリーチ。

 親の魚谷が3巡後に追いつく。7mが先行リーチの現物であるが、迷わず追いかけリーチで勝負にいく。

 松本のアタリ牌2pを重ねた日野もテンパイ。ワンチャンスで通りそうとはいえ、2人に無筋の9mをイーシャンテンから切りアガリを諦めないところに闘志を感じる。3-6sの4枚見えと三色手変わりを見てヤミテン。

 さらに夏月もチーテンを入れて全員テンパイ。待ちは魚谷と同じ47m。同巡3pを引いた日野は、6pを勝負して高目三色のリーチと出た!

 リーチ棒3本出ているので、5200の両面テンパイをしているようなものと考えれば、夏月もそう簡単に引き下がれないだろう。

 この勝負、2-5pはすでに純カラ。3-6sは1枚で47mは4枚。枚数で勝っている上に、座順で頭ハネできる魚谷が有利である。しかしそんな事実を抜きにしても観戦する者は予感する。なんだか魚谷が勝ちそうだと。

 やはりこの人の決勝戦での勝負強さは半端ではない。裏ドラも乗せて、大きな4100オールをモノにした。

 東2局の4本場。親の夏月がペンチャンドラ待ちで即リーチ。このドラが山に3枚。

 松本が一発消しの鳴きを入れると、魚谷は絶好の3pを引いて満貫テンパイが入り東を勝負。

 次巡待ちを69pから14pのノベタンに変え、以降も無筋を切り飛ばす。選択が迫られたのは14巡目の魚谷。

 安全に258pに受けるとフリテン。現物の2p切りだと単騎待ち。できれば8pを打ちたいところだ。しかし、リーチに通っていない残り筋は1-4m・4-7p・5-8p・5-8sの4本しかなく、58pはこのうち最も打ちにくい筋だ。自分はトップ目、打つ牌はドラまたぎ、相手は親リーチ、巡目がやや深い・・・と考えれば打ちたくない理由が色々浮かんでくる。

 8pがアタリでないことを知っていれば当然の押しに見えるが、かなり切りづらい牌なのは確かだ。さすがに逡巡があったが、結論は8p勝負だった。

 夏月のペン7pもリーチ時から変わらず3枚山のままだった。しかし直後に4pをつかみ決着がついた。2着目から満貫直撃、値千金のアガリ。

 南1局にもダメ押しのアガリを決める。親番で中のポンテンとなるが、テンパイは取らず8m切りで貪欲にホンイツを目指す。

 7sはすでに山になく、アガリは厳しいと思われた。しかし8s・8sと引いて高目の東を打ち取ることに成功。チーム名の通り、魚谷が勇猛果敢に攻め切り大きなトップを獲得した。

2回戦

東家:白鳥翔(勇往邁進)
南家:伊藤亨祐(北海道マーベリックス)
西家:城戸大生(なにわのカブトムシ)
北家:日吉辰哉(1859)

 東1局、伊藤はソーズのホンイツに向かってこの形。

 下家から六索が出てポンテンなのだが、1sが2枚切れ、2sが1枚切れで待ち取りが難しい。伊藤は4s単騎に受ける。

 山にはなかったが、日吉がこの形からリーチ宣言牌で捕まった。シャンポン待ちへの放銃は覚悟していたと思うが、開かれた手牌が中膨れ単騎ではなんとも悔しい。

 東2局の白鳥5巡目の手牌。

 北は自風で1枚切れ。567のタンピン三色も狙える手だ。白鳥の選択はストレートな6s切り。そして2sを引いてリーチ、1mでアガリ切る。

 マスターズは決勝進出4回・優勝2回、麻雀日本シリーズは決勝進出5回とWRCルールで圧倒的な成績を残している白鳥翔。まるで「WRCルールはこう打つんだよ」と言いたげな、淀みないアガリだった。白鳥はさらに東4局に5200を加点する。

 1回戦大きなラスを喫した1859チームは早くも正念場である。勇往邁進チームに連勝されての2ラスは優勝争いから脱落してしまう。南1局、日吉の手は驚異の伸びを見せる。

 こんな面子手の配牌が、12巡目にはドラ3のツモり四暗刻になってしまうのだから麻雀は恐ろしい。

 5pは山になく、アガリ牌は1枚切れの4mのみ。ただこの4mはマンズが安いだけに期待ができる。特にピンズのホンイツをテンパイしている白鳥は止まらないだろう。「引け!日吉!!男を見せろ!!!」と自宅でセルフ絶叫している姿が目に浮かぶ。しかし結果は流局。残念ながら残り1枚の4mは王牌にしっかりガードされていた。

 勝負手の空振りは悔しいが、落胆している場合ではない。次局の日吉は確定一通を即リーチ。メンホンのイーシャンテンで勝負した城戸から満貫を打ち取る。

 南3局、日吉にまたも勝負手が入る。わずか2巡目にして七対子ドラ2をテンパイ。次巡、東単騎に待ち変えしてリーチ。東は絶好の全山で跳満をツモればトップに立つ。

 しかし誰も東をつかまないまま、伊藤にテンパイが入り追いかけリーチ。めくり合いに引き勝ったのは伊藤だった。

 しかも日吉が渇望した東は、裏ドラ表示牌に顔を見せた。日吉にはダブ南だったので切りきれなかった南が重なって、しかも裏ドラモロ乗りになるのだから伊藤は満面の笑みだろう。ハネ満ツモで伊藤がトップ目になった。

 オーラス1本場、日吉にとって痛恨だったのがこの1局だ。

 ラス親で一通ドラ1のチャンス手。上家から出た3mをチーしてチンイツへ向かう。供託が2本あるので2000点ツモ直でトップになる白鳥も6sを仕掛け返す。

 日吉は7巡目に引いた5pを手に留めた。手牌には全く不要な牌だ。理由としては、白鳥への絞りだろう。確かにここで勇往邁進チームに連勝されると1859チームの優勝は相当厳しくなる。4p6pには動きが入ってないだけに、5pは白鳥に鳴かれそうに思えてくる。Mリーグの熱血実況とのギャップがあるが、実は日吉の雀風は繊細な守備型なのだ。

 だが時として繊細さが仇となることもあるのが麻雀の難しさ。ツモ切り続きで終盤に差し掛かると、テンパイできるかどうか不安になってくる。そこに引いてきたのが4pだ。日吉の心はテンパイ連荘へ傾き、9m切りとする。するとあろうことか、次巡引いてきたのは、つい先刻まで待ち焦がれていた7mだった。

痛恨の清一色五面張テンパイ逃し

「何をやっているんだ日吉!!」
 自分に喝を入れても、9mは帰ってこない。今さらピンズを切ることもできず、8m切りとすると、白鳥がチー。ずっと絞っていたはずなのに、逆に鳴かせてしまうという皮肉。蛇足ながら付け加えると、4pも5pも鳴かれない牌だった。

 日吉が次巡に5pを引いて4pを切ると、白鳥は察した。「日吉さんそれ染まってないよね?」と。ネット麻雀なので相手の動揺は見えないが、1牌の手出し情報で充分だった。それまでのマンズ一色を警戒した打ちまわしから一転、マンズも切り飛ばして白鳥はテンパイを取り切る。

 オーラス2本場、最後は城戸が意地を見せた。

 ツモ直かつ裏ドラが必要なリーチだったが、気合でラス牌を引いて裏ドラを1枚乗せてラスを脱出。1859チームは連ラスで本田・滝沢Wエースに託すという非常に苦しい状況になってしまった。

3回戦

東家:松本吉弘(勇往邁進)
南家:原田翔平(なにわのカブトムシ)
西家:本田朋広(1859)
北家:津島萌唯(北海道マーベリックス)

 開局で絶好の配牌を手にしたのは原田。メンタンピン形でイーペーコーや678三色も見える。

 順調に伸びてリーチと行くが、9mがテンパイしていた本田から出て、裏が乗らず1300点。

 「なんでやねん」と言いたくなるなんともさみしいアガリだが、松本にダブ東をポンされている状況ではド安目でもアガるしかないだろう。しかし原田にはこの後も手が入り続け、テンパイ料で点棒がじわじわ増えていく。

 東3局は本田との仕掛け合戦。まず本田が激しく仕掛けてあっという間にテンパイ。ただのノミ手だが迫力は凄い。捨て牌が1枚もない原田はドラドラとはいえ、まだサンシャンテンで戦えそうにないのだが・・・

 發を重ねたところで仕掛けて攻め返し、5-8mから6-9mに待ち変えした本田からロン。自分の出したリーチ棒も回収できて嬉しいアガリとなった。

 他3者にはチャンスがなく、原田が点棒をキープしたまま南3局を迎える。原田の手牌はこの局も良い。

 上家から4mが出る。トップ目なので手堅くチーテンでも良さそうだがスルーとした。5sを引いてホンイツへ。中をポンすると津島から4sが出る。

 高打点狙いがうまくいった形だが、現状の持ち点は以下の通り。

 松本:24500 原田:43000 本田:28000 津島:24500

 津島からアガると松本を単独3着に押し上げてしまう。配信でもロンの表示まで間があったが、WRCルールは順位点が5-15と小さいのでアガった方が良いと思う。オーラスは津島が連荘して持ち点を30000点台に乗せる。追いかける2チームにとって理想の並びができつつあった。

 オーラス3本場、原田が仕掛けてテンパイを入れる。

  松本から出ればトップラスを決めることができる。

 ここまで我慢を重ねていた松本も追いつく。ホンイツトイトイの満貫ならどこから出ても2着浮上だが―

 松本は両面に受けた。この手はテンパネしているのでツモ・直撃で逆転2着浮上できる。そして――

 仮に下家から出て3着終了だとしても、トータル2番手のチームを素点で14.2pt 引き離すアガリとなるのでこれもまた大きい。たった1回のチャンスを活かし、卓上のヒットマンは冷静に任務を完遂した。

4回戦

東家:滝沢和典(1859)
南家:角谷ヨウスケ(なにわのカブトムシ)
西家:坂谷内悟(北海道マーベリックス)
北家:三浦智博(勇往邁進)

 最終戦の東1局、親の滝沢がリーチドラ・裏7700のアガリ。

 南ドラ1の両面テンパイをしていた直後にアタリ牌4mを引かされた角谷は、ビタ止めしたものの3巡後に完全手詰まりとなり無念の放銃。12000の一発放銃していた打ち手も多いはず。なんとか最大失点は抑えた形だが、なにわのカブトムシチームは苦しいスタートとなってしまった。

 東1局1本場でも明暗が分かれる。先制でピンフのテンパイを入れていた坂谷内だが、直後に8pを引くと悩んだ末に4pを中抜きした。

 これには驚いた。ヤミテンにするのは分かる。6-9sは9s3枚見えで場況が悪い。自分の手にドラはないし、親番の滝沢はチームポイント的に多少強引にでも攻めてくる状況だ。ヤミテンに構えた以上、打ち手にはオリの選択肢も当然ある。しかしこの8pは打ったところで2000点の牌でテンパイからオリるような牌にはとても見えなかった。こんなに警戒心が強くてはヒグマが怖くて北海道の夜道も歩けないだろう。

 坂谷内が中抜きした4pを鳴いたのは三浦。タンヤオで捌きに行く。10巡目にドラ7pを引くと若干の迷いはあったがアガリやすさより打点優先で4-7pに受けた。角谷、滝沢も負けじとテンパイを入れて追いつく。

 この3者テンパイの勝負所を制したのは三浦であった。早々と脱落してベタオリをしていた坂谷内は、三浦にツモ切られた6sを見て何を思うか。

 東2局は坂谷内が満貫のツモあがりで挽回する。

 東3局、ピンフドラ1で先制リーチは滝沢。優勝は現実的ではない条件だが、手は抜かない。

 三浦も追いつく。ピンフのみの手。またポイント状況として、滝沢は勝負したくない相手である。

 しかしやはりと言うべきか、三浦は5sをズバっと勝負した。現物は3sだけで、通ってない筋も多い。なら自分の感覚で押せるギリギリまで押そうと。5-8mは残り1枚で6-9pは残り2枚。どちらの待ちも薄かったが、滝沢が9pをすぐにつかんで決着。

 南1局の三浦の配牌がすさまじい。ドラが1枚、白暗刻の両面×2のイーシャンテンに第一ツモが東である。

 5巡目に4mを引いてリーチ。オリなしの親番滝沢の手牌には36pが1枚ずつ浮いていた。確約されたアガリ。優勝に向かって三浦は突き進む。王の進撃を誰も止められない。

 圧巻だったのは南2局の1本場だ。ダブルバックの仕掛けで9m切り。

 1859チームが脱落し、優勝争いしている残り2チームの現物9mは残したくなるところだ。安全牌を1枚持つことで後手になったときの攻め返しもしやすい。しかし三浦は7pを残して目いっぱいに構えた。両脇の2人は、自分に対して鳴かせないように、振り込まないように打ってくるはず。それなら自分の捨て牌を利用して、筋にかかっている7pのポンを狙ってやろうという強気の発想だ。プレッシャーのかかる最終戦でこの大局観と勝負の姿勢は素晴らしいと思った。

 ピンフイーペーコードラドラのチャンス手イーシャンテンまで育て上げた親番の角谷であったが、終盤の5sをポンして泣く泣くケイテンを入れる。上家の滝沢はもう鳴ける牌を切ってくれないだろうという読みもあったように思う。その読みは正しく、鳴かなければ恐らくノーテンだった。

 いっぽうガードに徹していた坂谷内は、後1巡というところで角谷から打たれた7pにチーを入れる。いちおうイーシャンテンになる。

 テンパイしている三浦の最後のツモは中。

 西を切るか中を切るか、念には念をで現物の7pを切るか。三浦から見て役牌は全枯れなので「当たることはないだろう」と中の空切りとした。西でも良いだろうし、中のツモ切りなら何も起こらなかったのだが、この微妙な選択が坂谷内の動揺を誘った。

 ノーテンなら2pを打つつもりだったのだろうか?それが中の手出しがあったことで打てなくなってしまった。7pを切るのが良さそうだが、安全牌を見失なった坂谷内は魔が差したかのように、8pを選んでしまった。

 対局後に坂谷内はXでこうポストしている。「自分の打牌は色々と思うところはありましたが、出来る限り考えて打った結果です… 足りないところは早く精進します」と。決勝戦の緊張感は相当なものであるし、ネット麻雀で時間に追われて思わぬ牌を切ってしまうのもよくあることである。しかし、連盟チャンネルのコメランズとしてあえて厳しいことを言わせていただくと坂谷内の失着は前巡にあったのだ。

 7pを鳴くのは良い。親の海底を消せるし、安全にテンパイを取れる可能性もゼロではない。しかし鳴くならペンチャン(89p)ではなくカンチャン(68p)で鳴くべきだった。そうすれば、ノーチャンスで4枚見えている絶対当たらない9pを最後に切ることができたはずだ。麻雀は時として、微差の損得で大きく結果が変わることがある。この悔しさを胸に、次は大きな舞台で自分の納得いく麻雀を打って欲しい。

 最後の坂谷内の親番は1本場で三浦がヤミテン三面張で流し、勝負は決した。

 WROTLの初代チャンピオンに輝いたのは勇往邁進。タイトルホルダーとMリーガーで構成され、結成当初から優勝候補の筆頭であったが228チームの頂点に立つのは並大抵のことではない。

 WROTLの予選は打数無制限のロングランで、連続20戦のハイスコアで競う。この方式だと、雀力以上に打数をこなして上振れを引くことが重要になる。むしろ多忙を極める3人にとっては不利なレギュレーションだったのではないだろうか。他にもMリーガーやタイトルホルダーを含む豪華メンバーを揃えた優勝候補チームはあったが、多くは打数をこなせずスコアは伸び悩み敗退した。

 深夜に時間を作って参戦し、少ない対戦数でそれぞれ結果を出した魚谷・白鳥・松本は流石である。途中十段位の防衛戦があった三浦も毎週限界まで打ち続けてチーム内最高スコア+341.2pt を叩き出し見事予選を通過した。もしMVPを選ぶなら間違いなく三浦だろう。決勝戦では全員が百戦錬磨の経験を遺憾なく発揮し、内容的にも一番であったように思う。

 実はWROTLは優勝しても賞金はない(※)し、賞品も麻雀ファン向けで、麻雀プロにとっては正直言って欲しいものではなかったのではないかと思う。それでも各自本気で優勝を目指してこの大会に挑んだのは「このメンバーなら優勝できる!」とお互い認め合った者同士だったこと。そしてメンバー皆、優勝したときの何物にも替えがたい喜びを知っていたからだろう。「勇往邁進」は確かに最強・最高のチームだった。優勝おめでとうございます。

Congratulations!

※プロチームには優勝賞金があったようです。情報提供ありがとうございました。


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