Ἄνουβις
私はずっと孤独だった。
この地域にいる最後の一頭になってしまったからだ。
元々は群れで動いていて死肉をあさっていた。
でもその事を理由に排撃される覚えはない
我々はそういう生き物だしそれも必要な事だから我々は一定数は増えてそれなりのテリトリーを持ち他の生態系と共存して来たのだ。
自体が変化したのは我々の仲間が土中に沢山の死肉が埋められているのに気がつきそれを掘り起こして食い始めてからだ。
それはヒトの言う墓地というもので神聖なものらしかったが我々には何の意味ももたなかった。我々は死肉があれば、食べる事を決定づけられている生物なのだ。
結果として我々は忌み嫌われ狩られていき数えられる程まで仲間が居なくなった頃に今度は突然神として祭り上げられ残った仲間は狩られて内臓を抜かれて香油を塗り込められ祭壇に飾られた。
乾涸び硬くなりあり得ない姿形となり祭壇に飾られるのだ。
とても名誉な事とされたが有難くもなんともなかった。
私達を乾涸びさせて祭壇に飾るために以前より烈しく狩られるようになりなんとか逃げ果せたもののとうとう私だけになったようだ。
もう随分と長い間仲間の姿を見ていない。
勿論ヒトの墓場には近寄らないようにしている。
孤立すると言う事なのだろう。
自身しか居ないというのは耐えようのない時間を過ごすことだ。
これには慣れるというようなものではなかったが生き延びるためには耐えるしかなかった。
そうやって長い長い孤独を過ごし凡ゆる事が大凡どうでも良くなった頃私は不用意にヒトの墓場に足を踏み入れてしまった。
それは仲間の声と匂いを感じたからだ。
もう体は痩せ細り足も擦り減り毛もあちこちが抜け落ちていた。
もういつ動けなくなってもおかしくない状態だったのだ。
それにもう随分時間も経ったし今更人間もそんな老いぼれた自分に興味は示さないだろうと考えたのだ。
そう思うとなんだか愉快になり私は大胆にもなっていつもの慎重さも何処かに置き去りにして来たようだ。
それで墓場に向かい奥にあった手頃な窪みに蹲るとそのまま眠ってしまっていた。
何日眠っていたのかわからない。
気がつくとで逆さに吊されていてそのまま首筋を切られたが血はあまり出なくて私の下に置かれた歪んだ金属の桶の底を少し汚しただけだった。
沢山の男達の手で石造りの窓の無い部屋に逆さに吊るされ炊きしめた香の中で鐘を叩きながら啜り泣くような呪文を聞かされる。
それでも意識そのものは無くならず苦痛もなくならなかった。
私は逆さのまま吊るされ体を割かれ内臓を取り出されるとそれは甕に納められ空になった胴には香油を染ませた麻の布が折り込まれた。
体は縫い合わされ鼻から突っ込まれたカギになった金の細長い器具は私の脳を掻き回し引っ張りだした。
それで私は自分が容れ物になった事を漸く理解したのだ。
私の中には彼等が呼び込んだ神が宿るのだ。
それは私達の存在が彼等の中に呼び起こした神だ。
本来なら存在しない世界の終わりを告げるものなのだ。
だがその終わりを手元に置く事で漸くこの世界を少しだけ希望ある世界へと誘えると彼等は信じているのだ。
私は神となる。
月下に荒野を彷徨い痩せこけカビだらけになった見窄らしい犬が彼等の神となるのだ。
そう考えるとおかしくてそれでやっともう随分前に自分が死んでいて乾涸びた死骸だった事に気がついたのだ。
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