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恋人の定義

先日のtrianglerの続きシナリオです。結構な分量の💧R18は抜いてあります。
居酒屋後の妄想です。本当にひどい妄想になっちゃったので、なんじゃこりゃと思われる方もいると思いますが、よかったらどうぞ。


昨晩は殆ど寝てない。
徹夜で仕事するのはいつものことだから、それは平気だった。
しかし今日は歩きづらい。

いつも朝は顔合わせることなどないのに、執務室に向かう途中の廊下で、その元凶とバッタリと会ってしまった。

「よっおはよ」
「二時間ぶりだな」

上機嫌な声。
全然寝てないクセに、なんでそんなに元気なのよ。
こっちはこんな思いしてるっていうのに。

って彼が悪いわけではないけど。

「…おはよ」
「急いでいるから」

わたしは彼と目を合わすことなくそう伝えると、そのまま足を進めた。
しかし、よろけて廊下の壁に体をぶつけそうになったわたしを、彼は咄嗟に手を伸ばして引き寄せてくれた。

「危ないなぁ」
「ホント…大丈夫か」

その腕にしがみつくと、わたしは顔を背ける。
彼が顔を覗きこんでくるのが分かるから。
今は、まともに加持くんの顔が見られない。

「…う、うん」
「あ、ありがと…じゃ行くね」

昨日は、一晩中彼に抱かれていた。

八年振りに重ねた肌。
遠い日に知った、体と心が満たされる感覚。わたしは彼と一つに溶け合う時間に酔った。

加持くんは最初こそ激しく求めてきたが、かつてのように体を開けず、戸惑うわたしのせいか、その後は最後まで驚く程に優しかった。

が、出勤する為に、一旦家に着替えを取りにかえるのも一苦労だった。

加持くんと繋がり、ひとつになっていた場所に鈍い痛みがあった。それは昔経験した、破瓜の痛みを引き摺った時と同じような感覚と似ていた。
彼以外を知らないわたしの体は、彼と離れていた時間と等しい時間、異性を受け入れる扉を閉ざしていたのだ。

更に、身体中重い感じがする。

体力だけは自信あるんだけれどな…
ホントに久方ぶりのあんなこと…に加え、緊張しすぎて体力も消耗してしまった気がする。

もう、いい歳して恥ずかしい、ホントに。

それでも昨晩…つい先程まで、その痛み以上に、体も心も蕩けていった自分を思い出すと顔が自然と火照る。

今は早くこの場を去りたかった。加持くんの顔を見たら、真っ赤染まった顔を見られてしまう。
だが、彼はわたしを抱きとめたまま、髪に触れクンと顔を埋めた。

「葛城…いい匂いだな」

そんなわたしの気持ちなんて知らないであろう彼は、まだホテルにいた時みたいに、べったりとくっついてくる。

「…加持くんだって同じの使ったじゃない」

ホテルにあった、フローラル系のやたら甘い香りがするシャンプーを思い出す。
一緒にシャワー浴びた時に使ったものだ。
汗を流すだけでは終わらず、やっぱり色々してしまって、中々出られなかったけれど…

「…そうでした」

「昨日は…さ、ホント」

彼は悪戯っぽくと笑うと、わたしの耳元で囁いた。

「…可愛いかった」

心臓が跳ねる。
予想外の言葉に、声に。

いつもどこか抗し難い、それでいて静かに響く加持くんの声にゾクゾクする。
その声が発せられた場所が、そのままわたしの頬に降りてきて口づけを落とすと、彼は背中を向け、手を振りながら通路の奥へ消えていった。

自分の制服と同じ色の顔をした、わたしをポツンと残して。

***

朝イチから顔合わせるとはな…

…ホントあれはヤバかった。
なんであんなに可愛いんだ。

もう三十歳になるんじゃないのか。

中坊の間では頼り甲斐のある、綺麗なお姉さんで通ってる彼女
仕事じゃ同期の誰よりも早く出世して、男女問わず従わせている彼女
司令達だって有無を言わさせない作戦を立てる、勝負強い彼女

俺だって、久々の君に緊張したさ。
居酒屋の個室での姿は、誰にも見せたくない位にイイ女オーラ結構振り撒いてたし、それでいてコロコロ表情が変わって、年甲斐もなくドキッとした。まぁふたりとも酒入ってたし…けど、あいつはタクシーの中だってはしゃいでた。

なのにホテルの部屋の中に入った途端、その姿は何処かに消え去っていた。

…全部受け身だった。

キスはぎこちないし
全身震えてるし
泣きそうな顔してるし

そのクセ、触れたら甘い声が漏れてくる。
俺なんかが、葛城の体に触れていいか真剣に迷ったよ…初めて君の体に触れた、あの時みたいに。

って、そのまま家に帰すなんて勿論出来なかったが。

最初から明らかに辛そうだった葛城が、無理しているのはわかっていた。
でも、ずっと『大丈夫』と言い続け、俺から離れようとしなかった。

むしろ俺を欲しがった。
俺の全てを。

アスカは、いつもの女友だちの所に泊まりに行っていたから、マンションにはシンジくんが待っていた。だから、午前0時は過ぎないように葛城を返すつもりだったのに、気がつけば朝方まで彼女を抱いていた。

初号機パイロットには監視が付いている。
もう帰らないと決めたのか、0時を回る少し前、彼女はベッドから抜け出し、部屋の隅に移動して、今日は帰宅出来ないから、後を頼むという趣旨の連絡を諜報部に入れた。
電話を切った後、彼女は俺の方を見て肩を竦める。

「…保護者失格ね」

自身の立場を思うと、様々な思いがあるのだろう。複雑そうな笑みを浮かべる彼女を見ながら、14歳の少年を相手に、何かとムキになってしまう自分に呆れる。
あの時、シンジくんより、俺を選んでくれたことに自分でも驚く程に、高揚した気持ちが湧き上がり、キツく彼女を抱きしめてしまった気がする。

ふと、今しがた廊下で、自分の腕の中にいた彼女の残り香が香る。

「ホント…甘いな」

彼女と同じ香りを纏った気怠さの残る体に、充足感を感じながら、俺は自分のデスクへ向かった。

***

「…搭乗パイロットのプラグスーツはテスト用とします」

以上報告を終わります。と、マヤの声が急に聞こえてきて、ミサトは我に還ったようだった。

私は、完全に意識飛ばしてたミサトに鋭い視線を向けてみる。その視線に気づいたのか、彼女は気まずそうに、頭を掻いた。

作戦部のブリーフィングが終わると、職員は解散し持ち場に移動したが、ミサトは残って、参号機起動実験のタイムスケジュールや、詳細データを確認すべく、目の前のパソコンを見直していた。

恐らく、集中出来なかった分を取り返していたのだろうと思う。
リツコは根は真面目な彼女を見ながらも、その顔色の悪さに声をかけた。

「ミサト、少し仮眠したら?」
「これから長いわよ」

「ん…大丈夫よ、ちょっち寝不足なだけ」
「うとうとしちゃってごめん」

ミサトは真剣にデータに目を通している。そして、幾つか確認したいこと、また自分の案をピックアップして、リツコに伝えてきた。

よく気がつくな、と感心しながら、ミサトが出した案件を、共有サーバに移し、技術部のメンバーに一斉送信し終えると、彼女の方を見た。
最近はよく髪を上げ、ひとつに括る彼女が、今日は上げてない。そういえば、先程髪を掻き上げた一瞬、首筋にうっすらとピンクの花びらのような残痕が見えた。

昨晩も電話に出なかったし、自分の予想は当たっていたようだ。

「さっき、リョウちゃんに会ったけれど…」
「凄くご機嫌だったわ」

先刻、EuroNERVの機密の件でリョウちゃんは、いつものように笑顔でわたしのラボにやってきた。
まるでシャワー浴びたての様に、珍しく彼の体から、鼻を擽るいい匂いがしたのだが、そのほのかに漂う香りは、ミサトと同じだと気づく。

「とうとう、ヨリ戻ったのかしら」

その香りに、つい、下世話なことを言葉にしてしまう。

体が結びついたからといって、昔の関係に戻ったかと聞くのは野暮そのものだ。いくら惹かれあっても、恋愛はロジックじゃ語れない。ましてや元恋人同士は色々ややこしいのだ。特にこの二人は。
でも、いつもなら即座に猛抗議するはずのミサトは、作戦要綱を纏める手を休めることなく、パソコンに向かい、肯定も否定しなかった。

これは本当に、再びの恋人関係に戻るかもしれないわね…

意地を張ってばかりのミサトと、茶化すのが得意なリョウちゃん。
それでも互いを大切に想い、愛し合える相手がいることを、羨ましく思う。

きっと私が愛するあのひとは、これまでも、この先も、私のことを一番に考えることがないのを分かっているから。

「ホント、愚かなのは私の方ね…」

私は苦々しく思いと共に、独りごちた。

***

午前の仕事をなんとかこなして、昼休憩。
まだ体は怠いけれど、朝よりは動くようになった。

加持くんも手入れに参加している、NERVの菜園へ足を伸ばす。適当な畦畔に腰掛けてシンちゃんが作ってくれたお弁当を開けた。
最近のお気に入りの場所。一人になれるし、何故だかここは安心する。

自分の手は汚さず、命令する立場で戦いに明け暮れてるわたしだけれど、ここは色々な作物を育てている。そう、命が育っているのだ。

勝つか負けるか…奪うか奪われるかの瀬戸際でせめぎ合う生活が染み付いてしまったわたしには、オアシスのような場所だ。

地上から入ってきた風が、わたしの髪を揺らす。
ジオフロントの中は、気温調整しているせいもあり、地上よりも涼しい。ふと、菜園を見ると、今は緑一色の世界だ。時折入る風に乗って、土の匂いがする。それは、いつもの加持くんの匂いと等しかった。

今日はお互い、ホテルのシャンプーの華やかな香りを纏ってしまったけれど、自分には似合わない気がする。けれど、この土の匂いならずっと包まれていたいな、そんなことを思う。

わたし達ってどういった関係なんだろう…
前に、加持くんは別れてた時間から卒業しようって言ってくれた。それからは、少しだけ素直になれた気がする。

リツコにはヨリ戻ったのって聞かれたけれど、昨日は、久しぶりに食事して話しているうちに…あんなことしてしまった気がする。
勿論、望んでしたことだから後悔はない…けれど。

そうだ、昨晩もここに加持くんと来たんだっけ。
また昨日みたいなこと、あるのかな…いや、多分呆れたよね。わたしあまりに体動かなかった。緊張しすぎちゃって情けない。

折角、加持くんに触れられたのに…

でも、久しぶりって緊張しない?だって加持くんともだけれど、そゆこと自体が八年ぶりだったし、だったら離れてた間、他の男の人と付き合えばよかったの?でもそんな人いなかったし…大体ああいったことって好きな人とするんじゃないの?

はぁ…バッカみたい。若い女の子じゃあるまいし、仕事中に何考えてんだか。

わたしは深いため息をついて、目の前に広げっぱなしのシンちゃんお手製弁当を食べた。野菜の切り方一つ取っても、丁寧に作られていることが分かる。相変わらず美味しいなと、顔が綻ぶ、至福の時間。手を合わせて感謝の「ごちそうさま」を言うと、目の前に缶コーヒーが差し出された。

「姫、食後のコーヒーをお持ちしました」

振り向かなくても、声で誰だか分かる。大体のわたしのこと『姫』呼ばわりするのは、今日、わたしの頭を埋め尽くしてる加持くんだ。

あ〜あ…もう見つかってしまった。

いつも、昼休憩の時に缶コーヒーを差し入れしてくれる、加持くん。別に隠れていたわけじゃないけれど、ここにいますって知らせるのもなんだか可笑しい気がして伝えてなかったのに。気がつけば、わたしの横に座ってニコニコしている。

「最近ラウンジで見ないと思ったら、こんなとこに来てたんだな」

わたしに差し出したのと同じ缶コーヒーのプルトップを開けながら、彼はスイカ畑の方を見ていた。

「ま〜ね、あんまり人がいないから、落ち着くのよ」
「今日は朝イチで打ち合わせだったし、起動実験も迫ってるし」

あくまで平静を装いながら、適当に返すけれど、出勤してからずっとそうだったように、やっぱり加持くんの顔をしっかり見れない。

「そうだよな、忙しくなるもんな」

「リっちゃんなんて、今週はNERV泊まり込みだって行ってたぞ」

わたしもきっとそうよ、と伝えながら、コーヒー缶を開けて口をつける。ランチの後は、砂糖が入っていない、冷たいこの感じがわたしの好み。少しホッとする。

「…昨日のさ、イヤだった?」

唐突に加持くんが聞くから、わたしは反射的に首を振った。と、同時になんてこと聞くのか、と動揺する。昨日のって…ホテルで過ごしたことだよね、嫌な訳なんて、あるはずないのに。

「なら…また誘ってもいい?」

彼の声のトーンが低くなり、ひどく、艶のある音が降りてきて、加持くんに聞こえてしまうんじゃないかと思う位に、鼓動が激しくなる。

と、同時に昨日のこと、一夜限りじゃないという、安堵感。

あの時は、多分酔いも冷めてたけれど、熱に浮かされたようにキスをして、身を任せてしまったのだけれど。

なんだか軽くなかったかな…誘いに乗った癖に、なんだか気ばかり遣わせてしまった…それを思うと、本当は加持くんの言葉に素直に頷いて、このままその腕に飛び込んでしまいたいのに、出来なかった。

このしあわせな気持ちが、怖い…

いつも、しあわせを感じると罪悪感に襲われる。
ずっと、しあわせになってはいけないと思っていた。
わたしは自分のしあわせより、父に関しての私怨の方が大切だと、自分に言い聞かせてる。
もう呪文のようにずっと…

父と加持くんを重ねることが、怖い…

加持くんは、相変らずわたしの知らない所で何かしている。
NERV本部では大した仕事をしていないくせに、出張が多いし、海洋生態系保存研究機構に二人で行った時も、ずっとEuro担当だったはずが、顔パスだし、管轄外の施設についてやたら詳しくて、影で何をしているのか不安になる。

また、重ねてしまうかもしれない。
そして、また加持くんから逃げ出してしまうかもしれない。

加持くんを失うのが、怖い…

今度手を離したら、二度と一緒にいることが出来ない気がする。

不意打ちのキスも、抱きしめられることも、肌を重ねることも、加持くんとなら、これ以上ないくらいに繋がって、もっともっとしたいと思うのに。

こわい…よ…加持くん
なにもかも。

もう離れたくない。
先は見えないけれど、いつも一緒なんて、無理な話だけれど、可能な限りは、同じ時間を過ごしたい。

それは本当の想い…だから伝えた。

「と、時々、でいいから…一緒にいてくれたら嬉しい」

やっと絞り出した声に、加持くんは間髪入れず返してくる。

「時々でいいの?」

返事をする代わりに、わたしは目を閉じて、彼の肩に寄りかかった。

触れているところから、じんわりと温もりを感じる。
忙しく働く日々の中で、こうやって一緒の時間を過ごすことが増えた。
それだけで、わたしは満たされた気持ちになる。だから、時々でいい。

それに自分の立場もある。
自ら選んだ道とはいえ、使徒殲滅戦は毎回命がけで、明日のことも全く分からないのだ。そんな先の見えない中で、恋愛にうつつを抜かしていい訳がない。

「だって…人類の存続をかけて…働いてるのよ、わたし達」
「もう若くないし…」

そうだな…ご苦労さん、とその愚痴に応えるように、彼は頭を撫でてくれる。

「そうだな…じゃ、時々一緒にいようか」

加持くんの、こんなトコが好き。
あったかくて優しくて、何より心に栄養を与えられる感じがして。

…と思ったら。

「…今晩は空いてる?」
「昨日は遅くなっちゃったから、今日中には帰してやるよ」

も〜前言撤回してやりたい…(けど出来ない)

昨日の今日は『時々』とは言えないのに、そんな定義をあっさりと飛び越える彼。呆気に取られるわたしの背中に腕を回し、自分の胸元まで引き寄せ、声を落とす。

「…たくさん啼かせたいな」

加持くんはわたしの顔をのぞきこんで、悪戯っぽく笑う。

「な…何言ってんのよ!……バカ」

多分、わたしのただでさえ紅潮している顔に加え、全身が一気に真っ赤に染まってしまった。

「イヤなの?」

少しだけ躊躇った後、イヤじゃない…という言葉を加持くんに伝えると、まだ仕事中なのに彼の唇が降りてきた。そして、彼がわたしに触れた場所から融かされていく。

最初からわかってた…
わたしの心は再会した時から、加持くんに捕らえられていたのだ。
そう気づいてしまった後は、どこまでも彼がくれる、砂糖菓子のような甘さに包まれて堕ちていくだけ…

その感覚に、わたしは心地よさと快楽の波間を漂い、ゆらゆらとその感覚に溺れていくのだ、また今夜も。

***

「だから、時々ヨリ戻すみたいな…感じかな」

ミサトはご丁寧にも、リョウちゃんと『時々』付き合うことを報告にきた。もちろん、多くの案件のについての話を終えてからではあったが、気不味そうに、ボソボソと言葉を紡いでいた。

私のように秘密主義とは正反対の彼女は、かつて、リョウちゃんとのことを明け透けに話していた。聞いていて、こっちが照れるくらいなのだが、今回は躊躇いがちに言葉を選んで話していた。

最近、再びの恋に戸惑う彼女は、一段と綺麗になったように見える。

「時々って…どういうことかしら」
「それってあの頃に戻ったってことじゃないの?」

その美しい顔は、リョウちゃんとのことを、私に伝えようと真剣な表情だった。長い睫毛が頻繁上下して、言葉を選びながら、慎重になっていることを伝えていた。

「だって、もう学生じゃないし…大人にならなきゃ」
「恋人とかっていう大袈裟なモノじゃないけれど、時々、二人の時間を共有する、みたいな」

その説明は、今までと変わりないような気がするけれど、ミサトがその気なら、リョウちゃんもこれまでの苦労が報われたことになるのかしら。あの、マメな彼でも中々の難敵だったはずのミサトの心を溶かすのは、容易ではなかっただろう。

「今度は素直になったみたいね」

「うん…」

「…リツコ、わたしのこと軽蔑する?」

相変わらずミサトは、私にリョウちゃんとのことを認めて欲しいようなそんな口ぶりだ。大学生時代ならともかく、今は応援してるつもりなのに。

「しないわよ」
「貴女もリョウちゃんも、仕事には私情持たないって分かってるし」

それでもミサトはつらつらと言い訳じみた言葉を並べてきた。
きっと、本当に私が怒ってるって勘違いしてる。

「あ、でも昨日の夜のは…あれは通知音切っちゃってて…」
「リツコの電話…無視したわけじゃないのよ」
「気がついた時は、もう遅い時間だったし…」

こうやって、必死で言い訳するミサトが私は本当に可愛いと思う。
きっと、大学生時代、彼女が一週間失踪していたあの時、私が怒ったことを、いまだに気にしてるのだ。確かにあの時は私もかなりキツく、ミサトとナンパ男にしか見えなかったリョウちゃんに当たった。あの頃を思うと、懐かしさと、自分も若かったな…としみじみ思い返してしまう。

「分かってるわよ、わたしも何度も電話して悪かったわ」
「邪魔しちゃったわね…」

嫌味に聞こえたのかもしれない。私自身、そんな気はなかったのだが、ミサトの必死さは変わらなかった。

「そゆことじゃないの!謝ってるのよ」

そう、大きな声が出た後、彼女は俯く。微かに声が溢れる。

「リツコには…嫌われたくないの」

嫌うなんて、そんなこと考えてたのか、と思うと、私はこの長い付き合いの友人が、愛おしくて仕方なかった。学生時代からずっと付かず離れず、喧嘩もするけれど、やはりミサトといると、素の自分に戻れる時間をくれる、大切な唯一無二の存在なのだ。

「ミサト」

「人の恋愛沙汰なんて興味ないけれど」
「ミサトとリョウちゃんは別よ」
「何年貴女達と付き合ってきたと思ってるの…」

「リョウちゃんとのこと、話してくれて嬉しかったわ」

私も驚くほどに、ミサトへ自分の気持ちをストレートの伝える言葉が出た。その感情が伝わったのか、ミサトはようやく安堵した顔に戻った。

「リツコ…ありがと」

***

昨晩の彼女の甘やかな声が脳裏に蘇ると、また欲しい、と思ってしまう。

ホントに久方ぶりの食事で。
彼女も少しだけ酔ってたけれど、俺も酔ってて…いや違う、ホテルについた頃には、二人とも酔いは冷めていた。
最初は食事の後、ちゃんと紳士的に彼女を家に帰すつもりだったのに。一度ついた欲情の焔は消すことが出来なかった。

SEELEや碇司令が進めている人類補完計画は、恐らく止められないだろう。
父親の復讐を心に留め置いている彼女に、辛い事実を話さなければいけない日も近い。だが、最期まで生き残る道は探していくつもりだ。例えそれが叶わなくても、どんなことをしても、葛城だけは生き残って欲しい。君を残したい。俺の命に変えても。

ホントは、ちょっかいを出して、戯れるだけで良かった。
お互い若かったあの頃のように、深い関係になってしまったら、この先起こるであろう人類未曾有の出来事に対して、君への未練が首をもたげるハズだ。そうなってしまったら、前に進むことが出来るか自信がなかった。

でも、今は自分でも驚くほどに、後悔していない。
再び、手に入れた葛城を誰にも渡すことはしない。

残り僅かな限られた君との時間だけは、たくさん話をしたい。一緒に笑い合いたい。喧嘩をするのもいい。わがままを聞いて、たくさん甘やかしたい。気持ちよくさせて、乱れさせて、全てを征服してしまいたい。

ただ毎日顔を見て、一緒に過ごす時間を僅かでも持てればと、切に思う。

それは、ヒトとしての生存本能なのか、もしくは一度は捨てたはずの己の性への情動が、それを増幅させたのか、君が堪らなく欲しい想いは、止まることを知らずに、深まるばかりだった。

葛城は別れてからも、俺以外の男を求めることをしなかった。
俺も同じく、彼女をずっと愛していた。
結局俺達は離れている間も、お互いを想っていたんだ。

彼氏、彼女、恋人…惹かれ合う者達への、呼び名は色々あるけれど、俺たちの関係がその定義に当てはまる気がしなかった。もしその条件に当てはまったとしても、必要ないものだ。何より俺のせいで、葛城を縛るような称号などいらない。

その日まで、ただただ、この先一緒にいる時間を大切にしたい。

これからの道は、とてつもなく厳しいものになるはずだ。
でも、自分の目的と共に、最期まで足掻くつもりだ。

そうさ、君をこの世界に残すことが出来るなら、なんだってするさ。
俺が、唯一愛した女なのだから。

fin.

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