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シンデレラ1

2013.3.14 thu.(White Dayのおはなし)

今日の葛城はずっと俺から逃げていた。
理由は分かっている。

最近は、あからさまに避けられることも減って
鉄壁のガードが崩れた気がしていたし
少しは俺に対する態度も、緩和されていたんだが。

思わぬ伏兵まで現れて…少々苦戦することになった。

加持はNERV本部であらゆる所を探した…が
彼の能力を持っても、ミサトを探し出すことは出来なかった。

仕方なく計画変更。

最終手段でミサトのマンションで、彼女を掴まえることにする。
流石に残業申請もしてないのに
エヴァのセカンド、サードチルドレンの保護者であるミサトが
自宅に帰って来ない訳がない。

部屋に入ってしまえば、問題なくミサトに会えるとは思ったが
出来れば二人になりたかったので、外で待つことにする。

全く情けなく、大人気ない行動だとは思うが
だいたい、シンジが手作りで用意していると思われるお菓子を
嬉しそうに受け取るミサトなど、加持は見たくなんてなかったし
今日は残り僅かとなった最後の時間まで、ミサトを独り占めしたかった。

だから、その前に攫ってしまえばいい。

本当は、今日は以前から目を付けていた
洒落てはいるが気取らないBarに誘うつもりだった。
だが朝ミサトを見かけたと思ったら、日向に先を越される。

…すっかりヤツの事を忘れていた。
自分も相当早く出勤してたが、なんであの男もこんなに早いんだ。

全く不覚だった。

今日は絶対に一番最初にアイツに会って
今夜の約束を取り付けるはずだったのに。


少し顔を赤くして、日向と話しているミサトを横目に
おそらくは先月の女子職員一同からもらった
バレンタインデーギフトの、お返しだと想像はついたが
加持は心穏やかではなかった。

バレンタインデーの夜以来、ふたりで飲む事はなかったが
少しずつミサトが彼を受け入れてくれているのは確かだった。

それでも難攻不落のお姫様に、性急過ぎるアプローチは禁物だと
再会してすぐ思い知らされた加持は、自身のマメさを発揮して
時間をかけてミサトの心を溶かしていこうと、試行錯誤の日々。

(…いやアイツは実際モテると思うよ)

でも誰にも渡す気もない。

そんなことを考えているうちに
聞きなれた車のエンジン音が、響いて来たと思うやいなや
あっという間に、ミサトの愛車アルピーノルノーA310は
マンションの駐車場に滑り込んだ。

待ちわびた車の主が。とても警戒して車を降りようとする姿が見える。
加持はやはり見えない場所に隠れていて良かった、と思いつつ
慎重に車を降りようとする、ミサトとの距離を縮めていった。

今日は一日本当に疲れる日だった。

朝一番に、日向から綺麗に包まれた箱を差し出されて
わたしは最初何の事か分からなかったけれど
今日が、バレンタインデーの対になる日だと気が付いた。

…先月のある夜を思い出す。

あれからまた。馴れ馴れしくなった加持と共に。
なんとなく、照れているような日向に礼を言いながら
今日はとにかく逃げなくては、と心に決めた。
そしてとことん逃げまくった…のだけれど。

(…考えすぎだったかな)

ミサトは車から降りる前に周りを確認するが、人の気配はなかった。
足だけ外に出し、運転席に座ったままため息をつく。

今日は絶対に加持に絡まれると思った。
だから今日はいろいろ理由をつけて、いつもとは違う場所にいるようにした。
エレベーターも階段も、人気が無い所は全て避けて
ダクトまで使ったりして。

自分でも馬鹿だなぁ…とは思っているけれど
今日はとりあえず加持から逃げることで、心の平静を保ちたかった。

(…意識しすぎたのはわたしの方ね)

ミサトは自虐的に笑う。

先月のバレンタインデー。
ミサトは結局加持に押し切られて、一緒に飲みに行った。

バレンタインデーの夜は、居酒屋といえどカップルが多く
お通しの具材が、ハート型に切られていたり
お店のサービスでろうそくが灯された
ちいさなハートのチョコケーキまで出てきた。

いつも気持ちよく飲ませてくれる、行きつけのお店が
そんなバレンタインデーに染まった、甘い雰囲気で
なんだかくすぐったい様な、照れくさい様な
結局、飲み過ぎて加持に迷惑をかけた…はずだ。

(…結局またしちゃったし)

途中から、何が何だか分からなくなったけれど
加持とキスした事だけは覚えていた。

『…見せつけてやればいいだろ』

そう言って、のれんがかかっている簡単な個室にはいたが
周りに人がいるにも関らず、いつ店員が入って来るか分からないのに
唇を重ねてきた加持。

その口づけがとても気持ち良くて、気が付けば周りを忘れた。
そして何度も何度もキスした気がする。

後からシンジくんの話を聞くと
加持は酔いつぶれたわたしを、マンションまで送ってくれたらしい。
昔となんら変わらず迷惑をかけながらも
加持と飲んだあの日が、本当に楽しかった思う。

次々とあの夜の事が過る
一瞬にして赤くなる顔

「…もうわたしって最低」

ミサトは車のシートのもたれ掛かり
ふとあの日の夜の事を、頭に浮かべてつぶやくのだった。

運転席から、綺麗な脚は出ているものの
さっぱり降りて来ない、ミサトの様子を見て
加持はそこまで警戒されているか、と思ったのだが
どうも様子が違う。
彼女はかなりの時間が経っても、フリーズした様に動かなかった。

加持は少しだけ考えて…自分の推測を信じ
思い切ってミサトの前に歩み出た。

想像通り、ミサトはどこかに意識を飛ばしていたようで
はっと顔を上げて、驚くミサトに構わず
加持はミサトを運転席から、そっと手を引いて降ろし
そのまま抱き上げて、今度は助手席に乗せる。

ミサトは放心状態という様子、ではあるけれど
顔は終始真っ赤なままで、しかも加持のされるがまま。

加持はそんなミサトに、優しく微笑み
持っていた紙袋を、後部席に放り込んで
キーが刺さったままのルノーのエンジンをかけて、走り出した。

to be next part.

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