4.5day After LoveAffair by 9 1/2days
C101のペーパーに載せた9 1/2daysの4日目と5日目の間のショートストーリーです(沢山カットしたお話の一つ)
ただ食事しているだけのお話ですけれど、よろしければどうぞ
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「痛ってえ…」
葛城の腕が、オレを直撃した。
本当に彼女は寝相が悪い。いや、悪いというより、大の字で寝たいんだな、そんな感じなのかな。それにしても酷過ぎて笑ってしまう。そんな彼女だが、後ろから自分の腕の中に納めると、大人しくなる。可愛い。
俺はセックスの後、そのまま寝落ちしてた。
無防備な姿を晒すのは、葛城だけでいいのに油断していた。だが、俺は彼女があの後、眠る姿を見たはずだったと思うから、きっと見られていることはないよな…とそこまで思って、葛城には見られても構わないかと思った。自分を抑えながら体を重ねることは容易ではないが、それでも彼女相手なら一つひとつの反応を見るだけでも楽しめたし、何より彼女と想いを交わすことが出来ることは、今までの経験を忘れるほどに、満たされた。
つい今程も、葛城に触れると、彼女がその体に刻んだ傷跡と共に、俺の全てを飲み込んでいくような感覚に陥った。
溺れていく、きっと。
後先考えない関係を続けるのは、危険だし回避したい。
気がつけば、当時まだ子どもだった俺が、同じような年代の奴らに頼られ、守っていく為に色々なことをした。そして、その存在が無くなってからは、周りの大人に合わせて背伸びしてきた。犯罪ギリギリの所で、いや軍の倉庫に忍び込んで窃盗をしまくってたた時点で、犯罪を犯していたな…全ては、生きる為に。
恋という厄介な病にかかってしまった俺は、俺自身の中から、湧き上がる制御不能な感情に戸惑いながらも、もしかしたらこれが俺自身ではないのか、と思う。それは、仲間を失ったあの時、死にたいと思いながら死ねなかった俺が、どこまでも生きることに執着した結果、他人の前では本来の俺ではない、『カジリョウジ』という、俺自身も知らない別の人格を作り上げていったのかもしれない。
その知らない男として生きることが、自分の処世術となった。
でも今は、別の俺はどこにもいない。
何かに怯える事がないというか
自分の思うままに感情を表出しているというか
そうか、こんな言い方したら可笑しいかもしれないが、歳相応に生きてる、そんな気がする。
後ろから葛城を抱きしめると、彼女は体をくるりの俺の方へ向けてきた。起きているのかなと思ったが、寝返りを打っただけで、スースー寝息を立てている。どうやら、向かい合って寝てもあまり暴れないみたいだな。新しい発見に、ニヤつく。そしてその温もりを味わう。うっかり寝てしまったから、シャワーを浴びに行こうと思っていたのに、もう少しだけこのままでいたいと思った。
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目の前には、ニコニコと肉の塊を頬張る葛城の顔。
時々、発泡酒を口につけるが、いつものように流し込むのではなく、ちびちびと飲みながら、つまみの方に手が伸びていた。
スーパーの特売で買った豚バラを、角煮にしてみた。あり合わせだったから、調味料も最低限しかないこの家では、シンプルな味付けではあったが、よく出来た方だと自画自賛する。
「何これ、めっちゃ美味しいし、やわらか〜い」
よくテレビで芸能人が食レポする様な、そんな感想だったが、彼女の顔を見たら、その言葉に間違いはなかった。皿に盛られた角煮は、細い体にどんどん吸い込まれていく。何を作っても嬉しそうに食べる彼女だが、こんなに気持ちよく食べてくれると、作りがいがあるなと思う。ただこの料理中に、何故か成り行きで彼女を抱いてしまったことで、ゆで卵の茹で具合が、固過ぎた気もするな、今度は茹で時間を少し変えてみようか、などと頭の中にメモをする。
料理は趣味とまでいかないが、材料を選び、作る工程を一つずつこなし、最終的に形になることが楽しくて、自炊することは苦ではない。それに加えて、食べてくれる人がいるというそれだけで、喜びを感じる。それは、かつて俺の家族が誰一人欠けることなくいた日々の、母親が作る料理の手伝いをした時の記憶にも刻まれていたし、また仲間と一緒に暮らしていた時に、知ったことだった。
もう、それが叶わない今、またこうして誰かのために料理することを嬉しく感じる日が来るとは。
「これさ、百グラム百円切っててさ、めっちゃ安かったんだ」
「百円切ってるって安いんだ…何グラム買ったの?」
「千グラムかな」
「せん…って一キロ?」
「そうともいうな」
驚いたのか、目を丸くする葛城の顔を見ながら、ついつい張り切って買ってしまった、スーパーでの買い物を思い出す。人造肉ではあったが、元々煮込めば旨くなるし、それなりの大きさになるし、肉屋のおばちゃんは学生には優しいようで、『若いからこれくらい、すぐ食べるわよね〜』と、実は更に百グラムおまけしてもらったんだけどな。
「そんなに食べれるの?」
「食べられるよ、もうここに六百はあるし、半分近く葛城が食べてくれたから」
「え〜そうなの、ごっめ〜ん一人でパクパクと…だって美味しいんだもん」
ごめんと言いながら、食べる手は止まらない。きっと好きなメニューだったんだろうな、今度作る時はもっと多く作ろう。
「残りのお肉はどうするの」
「まだ決めてないけれど、使いやすいように小分けにして、冷凍庫に入れといたよ、また料理しやすいだろ」
すると、葛城は様子を伺うように、口を若干尖らせ上目遣いでこっちをみる。
「…あたし、全然料理できないけれど」
「俺で良ければいくらでも…もちろん、葛城が食べてくれるなら」
「やった〜食べる食べる」
「な、野菜も食べろよ、酒と角煮だけじゃ体に悪いぞ」
「うん、そうする」
もう満面の笑み。
コロコロ変わる表情も葛城の魅力の一つだよな。
寝て、食べて、セックスして欲望を満たす…そんな生活も四日目が過ぎたが、俺はまだまだ、二人だけのこの空間から抜け出す気持ちにはなれなかった。
+ + + 4.5thday After Love Affair end
to be 5th day We haven't even met yet,
but it's a love bizarre Love Triangle. by 『9 1/2days』 + + +
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