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Triangler

※随分前に書いたシナリオ『不器用なふたり』(misato part 、kaji part)の続編、今年の冬に出す加持ミサ本のブラッシュアップする前のシナリオです。今朝から書き出して、下手なりにプロットが意外と纏まっているのであげてみます。リツコのラボの前と、半ば辺りにもう少しエピソードがあり、R18な内容なので、ここではカットしてあります。
そゆことの事後でもあるので、ご注意ください。


先刻からミサトのケータイにコールしてるのに、全く繋がらない。
時間空けて五回トライしたが、全て留守番電話に繋がった。

「リョウちゃんね…」

一瞬加持にコールしようかと思ったが、二人の邪魔ね…とその細い指先を止める。

重要事項は伝えてあるし、必要な返事も貰ってある。書類のことで確認もしたかったのだが、即断即決で物事を決めることが出来る、彼女の信頼するあの作戦課長のことだ、明日には解決出来るだろうと容易に想像出来た。

(かけすぎたかしら…)

こんな時だけ苛々として、五回もコールしたことを少し後悔した。折り返しの電話が今現在もかかってこないと言うことは、彼女の直感は当たっているのだろう。

灰皿には無数のタバコが押しつけられている。
掃除担当の契約業者は、極秘事項で溢れているリツコのラボには入ることが出来ない。

そろそろ限界かしら、と吸い殻が溢れ出そうな灰皿の中身を捨てようとして手を止める。明朝、マヤが定時連絡に来た時に、いつものように片付けてくれるだろう。きっと、清潔感溢れる彼女は、自分が片付けるより綺麗にしてくれるはずだ。
だから結局灰皿はそのままで、新しいタバコに火をつけた。

「それにしても、リョウちゃん帰ってきたのはいいけれど」
「ミサト、誘いづらくなったわね…」

NERVでの仕事は充実していた。それが変化したのはミサトが帰国した数ヶ月前。互いの立場から、仕事中衝突もあったが、一緒にいる時間が圧倒的に多かった。
グチを言い合ったり、仕事帰りに食事したり、飲んだりして、就職して以来初めてリツコが愛する男の気まぐれをのぞいては、仕事しかしていなかったリツコのプライベートに、変化が出てきたところで。

しかし、加持がいるとなると話は別だ。
別れたはずの二人ではあったが、どう見ても加持はミサトのことを諦めていないし、ミサトは加持のアプローチに振り回されっぱなしで、ヨリが戻るのは時間の問題だった。
そうなると、必然と自分とミサトとの時間は減ってしまう。

まるであの時みたいね…リツコは二人が付き合い始めた頃を思い出す。
それまで向けられてた自分への笑顔が、半分…もしかしたら、それ以上に加持に奪われた気して、心の奥がチクリと痛んだあの感覚を思い出す。

もう子どもじゃないんだから、と若干自虐的にリツコは笑う。

ミサトと加持に思いを巡らせているうちに、あっという間にタバコは燃え尽きた。感傷に時間を取られたことに気づくと、彼女は灰皿に再びタバコを乱暴気味に押しつけた。それから、机の隅に放ってあったケータイで素早くメッセージを打ち込んだ後、デスクに向かい、いつもの凛と美しい、仕事の顔になった。

*****

「…どうしよ」

先程までの情事の余韻が残る、まだ艶が残った彼女の気怠い声。
やっとのことで、彼の腕の中から抜け出し、体を起こしてケータイに手を伸ばした彼女は、その表示画面を見て、気不味そうな顔を浮かべた後、はーっと息を吐き、ベットに顔を埋めた。

「どした」

加持はミサトの頭にの上にポンと手を置いた。

「…リツコから着信、五回も入ってた」

彼には言わなかったが、ケータイにはメッセージも入っていた。

『明日は早いから程々にね』
『リョウちゃんによろしく』

いつもケータイは着信音最大にしていたのに…とミサトは怪訝な顔をしたが、すぐに思い付いた。このホテルに来る前に飲んでいたあの居酒屋で、派手にケータイ音が鳴ってしまい、お店に迷惑だから、音量を落としてそのままにしていたのを戻していなかった。

その大音量の呼び出しもリツコからで、催促されていた事柄は伝えたし、今夜はもうかかって来ないと思ってたのが、大誤算だったらしい。元々非常時にいつでも通話出来るようにしておくべき立場でもあるので、その部分を含めてミサトは首を垂れた。

「加持くんと一緒にいるのバレバレ…」

ミサトが加持との逢瀬(いわゆる只の手繋ぎデートじゃない感じ)を、リツコにあまり知られたくない気持ちは、昔から変わらない。

増してや今夜は加持が帰国して、初めてミサトと一緒に過ごした夜だった。
どうしていいのか分からない若いカップルような初々しさと、会えなかった時間を埋めるような激しさが入り交じった、情事の熱が残る部屋に、彼女のため息まじりの声が発せられ消えていく。

学生時代ミサトと加持は、一週間近く一つ屋根の下で過ごし、その大半を体を重ねる時間に使った。
ひとつになって、ただ快楽を求めるその酔いも醒めぬままに、二人は大学へ久し振りに顔を出したのだが…加持は思いがけず、自分の彼女の美しい親友を初めて紹介された。

その美人は、彼に眉を寄せながら一瞥する。明らかに加持に対して、嫌悪感を隠す気がない表情だった。
それからミサトに視線を移した顔も、彼に対して程ではないけれど、険しくて。

『心配したのよ』

静かに、しかし、しっかりとした口調でその心の内を伝えた。
そう、リツコの顔はいつものポーカーフェイスの中に寂しさと怒りが滲んでいた。

ミサトも加持も、そのリツコの顔がずっと忘れられなかった。

そんな、出会いは決して良いものではなかったが、加持とリツコはすぐに親しくなった。二人の共通の話題は世界情勢に、学業と就職、加えてミサトの数々の武勇伝…家事はからきしダメ、味音痴、やたら体力だけあるとか、車の運転が荒いとか、病気はしないとか…そんな話まで。要は二人でミサトのとんでもない外れた所や面白いエピソードを語ることが多かった。
二人とも愛情のカタチは違うとはいえ、ミサトを愛していたから、気がつけば意気投合していたのだ。

ミサト自身も、自分の愛する二人の最初の気まずい出会いが、嘘のように親しくなっていく様子に、嬉しさを隠せない様子だった。
そんな良好な関係を築いた三人は、大学内外で一緒にいる時間が増えていった。

紆余曲折あり、二人が別れた後も、再び寄り添うようになっても、同じようにミサトと加持のことを見守っているリツコ。
こんな密会が彼女にバレても、今はさらっと受け流してくれるのだろうだと確信する。そんなリツコを思うと、やっぱり頭が上がらないなぁと、加持は苦い笑みを口元に浮かべた。

ふっとミサトを見ると、まだベッドに顔を押し付けたまま、恐らく落ち込んでいて動きがない。頭に乗せた手をその細い腕に移動し、そっと優しく引き寄せると、彼女は素直に加持の腕の中に収まる。

「ヘコんでる?」
「…うん」

ミサトは心底、気持ちが萎んでしまったようで、静かだった。
加持は独り言のように呟いた。

「リっちゃんにバレたからって」
「…俺とこうしてるのイヤか?」

彼女がそんなことは思っていないと自覚しながらも、つい口に出してしまう。
こんなことでしか彼女の気持ちを量れない自分を、子ども染みているなと思いながら。

案の定、ミサトは首を小さく横に振って、両手で加持の腕をぎゅっと握り、大きな手のひらを自分の頬に持ってきた。彼の腕の中で動きが制限される中、その小さな動きが、いつもの大胆な動きと対比されて、彼は彼女への愛しさを再確認する。

「…気づかなかったんだよね」
「あたしがケータイの音量変えなかったから…」
「リツコ、怒ってないかなぁ…また嫌われちゃう」

しゅんとしたまま、リツコを気遣うミサトを腕に抱き留めながら、加持はほんの僅かではあるが、心にザラッとした何かが触れるような気がした。

リっちゃんは葛城に愛されてるよな…
大体こいつの友だちって他にあまり浮かばない。職場では葛城は出世頭だし、同期も気軽に付き合えない感じだもんな…
そうなると、やっぱりリっちゃんって公私共に、葛城にとってなくてはならない同僚で、いわゆる親友ってヤツで…
なんか葛城って俺なんかよりリっちゃんの方が好きじゃないかって思うよ、ホント…と、そこまで思った所で加持はザラっと心に触れた正体に気づく。

リツコを羨ましく、嫉ましく感じてるんだってことを

あくまで、こんなミサトを見る時ではあったが、彼女のリツコ依存率は尋常じゃない。何かある度に、リツコぉ〜と自然に漏れる猫撫で声で、あの金の髪を持つ美人を凋落するのだ。

勿論、リツコは加持にとって大切な存在だ。大学の時の数少ない親しい友人だし、職場でも同期で仕事では協力してきたし、帰国する前もしてからも、葛城のことを気にする俺を気遣ってくれたし、愚痴を聞いてくれた。

リっちゃんがいなければ、こうやって葛城を再び抱くことも出来なかったかもしれない…

と、そこまで思うと、加持はつい今しがた、ミサトのあの乱れた姿が脳裏に戻ってきた。自分の知っている彼女とは少しだけ違った気はしたが、ようやく結びついたことに充足感を感じていたにも関わらず、再び熱いものが湧き上がるのを感じた。

「結構ヤバかったよな」
「…何が?」

さっきの葛城…と言い終わらないうちに、加持は彼女を組し抱き、乱暴に唇を重ねる。すぐに彼女の口内を弄るように蹂躙し、舌を絡め取った。角度を変え、何度も貪るように吸い尽くされ、唾液が混ざり合い、ちゅぷ、くちゅ、と卑猥な音がしてくる。
その音がこの先交じり合うであろう、二人の情事を連想させた。

「…じく…ん…」
「かじ…く…ぁ…ぁん…」

うわ言のように、彼女の愛しい男の名前が口から溢れる。

この場所に来て何度か重ねた肌。

リツコの着信に気づくまでは、朝まで寝よっかと言っていた加持が、急にまた求めてくることにミサトは違和感を感じながら、一気に情欲という名の、大きな波へ引き戻されていく。

強引で、それでいて驚くほど蕩けるような口づけ。彼女の熱を帯びた吐息が加持の耳に届いた時、彼は最後に額に、瞼に、軽く唇を落として、一旦彼女から離れる。
間近に見る、顔を朱に染めた愛しい女を見つめながら、彼は自身が乱した彼女の髪を撫でる。息を整えようと、華奢な体に似合わないほどの豊かな胸を上下させた彼女は、その余韻に、長い睫毛を僅かに揺らし、瞳を潤ませていた。

もうすっかり取れてしまった口紅。
いつもよりしっかりめの化粧はすっかりどこかへ消え去り、赤らめた顔がその代わりになってるようだった。そんな、彼がよく知っている、一緒に住んでいた頃のあどけなさを残す彼女が、今自分の腕の中にいることに、妙な安堵感を感じる。
加持のリツコへの嫉妬のような複雑怪奇な感情から、己の色欲に濡れた唇づけをしたばかりだというのに、ミサトの瞳は、純粋に加持を求めている…少なくとも彼にはそう見えた。その視線に、彼は胸塞がる思いがする。

「リっちゃん…にさ」
「こんなイヤラシイ葛城、見せてやりたいな」

加持は、ミサトの顎を右手の人差し指で持ち上げて、彼は今しがた思った心根を吐露してしまう。

ミサトにしてみれば突拍子もないことを加持から投げかけられて、掠れ気味ではあったが、彼女自身びっくりするくらい、大きな声が出た。

「…は?」
「ばっか…じゃないの…」

「リツコ…そゆの冗談でも嫌いだから…」

ミサトは沸点が低めだ。加持の言葉を当然ながらそのまま受け取り、殆ど怒鳴っているが、彼女が怒るのも当然だなと思う。見せられるわけないじゃない、何考えてるのよ、などと強めの言葉が次々と彼の耳に入る。そのキツイながらも、何故か小悪魔のように可愛らしい声出す彼女を、彼は全身で受け止めていた。

「葛城が、リっちゃんとあんまり仲いいからさ」
「…ちょっと妬いた」

鼻を掻きごめん…と頭を撫でると、ミサトは一瞬きょとんと目を見開き、怒りは急激に収まって言ったが、その代わり彼女は口を尖らせた。

「あんた達こそ…アタシに隠れて内緒話してるじゃない」
「加持くん…いつもリツコにはベタベタしてるし…」

それは、彼女の気持ちを確かめる為に、彼女との距離を縮めるために、加持がわざとしていた行動だった。そして、多分リツコもそのことに気づいていながら協力してくれている。

いつもミサトは加持の手のひらの上で転がされ、翻弄された。
NERVの女子職員に手当たり次第に声をかけている、彼の軽薄な行動にイライラしたし、リツコにちょっかいを出す彼が本気で腹立たしかった。

その反応を見る限り、あからさまにヤキモチを焼いているミサトに、勝利の方程式を見出した加持。慎重に近づき、気がつけば彼女の隣に彼が座ることが多くなり、あちこち連れ出し、こうして一緒に過ごす時間に繋がっていった。

結果として、加持の作戦は大成功ではあったが、こうして誰よりも側にいても、彼女が擦り抜けていくような、そんな感覚に陥る時がある。八年前、急に別れを告げられた、あの日がそうだった。
だから、今回は彼女のどんな変化も見逃したくはない。

自分の究極の目的は彼女と、もう一つ…

でも今はまだ、一緒にいる時間を大切にしたい。そして、自分の命運が尽きるまで、もう二度と彼女を手放す気はなかった。

「リっちゃんとは仕事の話してるだけだよ」
「知ってるだろ」

自分が蒔いた種とはいえ、ちゃんと回収する為にミサトの耳元で優しく諭すような声が響く。
が、彼女は加持の腕の中にいながらも、ぷいと背を向けた。

「そんなの…知らないもん」

最近は可能な限りミサトとの時間を優先にしているはずだった。

しかし、彼女の気持ちはこうだった。

リツコが加持に話しかければ、リツコに
加持がリツコに話しかければ、加持に

それぞれジェラシー感じていた。

リツコを取られるのも嫌だったし、自分の知らないところで加持とリツコが会っているのも嫌だった。いつも三人でいたい、そんなわがままを心に秘めたまま、言うことはなかったが、加持の行動は思いの外、ミサトの心に突き刺さっていたのだ。

「か…じくんがわるい」
「もう…きらい…なんだから」

ミサト自身は気がついていない、実は当てつけの加持の行為を思い出しているのか、拗ねて膨れる彼女を見て、彼は不謹慎ながらも、愛くるしいと思ってしまう。
殆ど衝動的に、その膨れっ面にちゅっちゅっとキスの雨を降らせていった。

「可愛いな…その顔」
「そんな顔して、ホントに俺のこと嫌いなの?」

矢継ぎ早に優しい唇を振らせながら、合間にそんな言葉も降ってくるものだから、ミサトはそれまでの、不貞腐れた態度を手放した。心臓の音が加持に聞こえるのではないかと思うほどに、ドキドキする。十代の小娘じゃあるまいに、身動きが出来なかった。そして、すっかり赤くなった顔を更に濃い赤で塗りつぶす。

「かじ…くん」
「キス…いっぱ…いすぎる」

ミサトの顔はいつの間にか、加持の口づけを待つ、艶を秘めた女の顔に変化していた。
あたしの方が、加持と仲良くしてるリツコに嫉いてた…とは口に出さなかったが、やっぱりもう一つの苦情は言わずにいられなかった。

「…リツコに嫉くなんて…信じられない」

「それに…こんなこと…」
「加持くん以外と…出来るわけないでしょ…」

加持の口づけを受けながら、恨み節のようにミサトはつぶやく。
それは、彼の心を騒つかせる。こんなこととは、口づけのことなのか、それともその先にあることなのか、先程から気になっていたそのことを、加持はもう直接聞いてしまいたかった。

『そういや学生時代以来、殆ど吸ってないかも』

加持の世話していたスイカ畑で、何気なく彼女が言った言葉。
全くタバコを吸っていないとは言っていない…殆ど、だ。

八年前、多分別れる為の、彼女のなりの気遣いだとは思うが、あの時、好きな男が出来たって言ってたよな…そいつはホントにいたのか?
彼女がタバコを吸うのはこういう行為の後だと知っていたから、もし、誰かが彼女に触れたかと思うと、自分は散々適当に遊んでいた癖に、心臓がぎゅっと縮む。そして、今更ながらミサトの相手をしたかもしれない、誰とも分からない相手に憎悪の気持ちが湧いてくる。

でも。

今日、久しぶりに体を重ねた彼女が、彼を求める腕も、口づけも、彼によって紡ぎ出される啼き声も、堪らなく愛おしかった。ただ、加持も緊張したが、大学生時代、あんなに積極的に彼を求めたミサトとはどこか違っていた。

まさかな…と思いつつ、そういう行為に不慣れに見えるぎこちなさに、ずっと自分の願望とも言える、ある予感に心が波打つ。

そんな加持の思いなど知らない彼女から、決定的な言葉は、思ったより早く発せられた。

「だいたい…他の人としたことないし…」

ずっと脳裏に引っかかっていた、彼女と知らない男の存在が、すーっと消滅する。
ただ、安堵したのもつかの間、加持にはもう一つだけ聞きたいことがあった。
しかし、言葉にしようとすると、物凄いプレッシャーが身体中から湧いてくる。

「葛城…」

「え?」

俺のこと好きな…のか?と言いかけて、加持は結局言えなかった。ここで否定されてしまっては、もうきっと立ち直れなくなる。今、二人とも生まれたままの姿で、やることはしっかりやっている。誰よりも互いに近い所にいて、きっと好きでいてくれると思うのに、何故か全く自信がなかった。

じゃあ、何を言うべきか頭の中でありったけの言葉を総動員する。

「…俺以外と出来ないって…こゆこと?」
「そうよ」

あっさり答えるミサトに、加持は目尻を下げる。
上機嫌になったといっても過言ではなかった。

「俺って葛城に愛されてるんだなぁ」
「お互い、頭のてっぺんから爪の先まで全部知ってるもんなぁ〜」

調子の良くなった声の後、それまでのキスの雨が唇にだけに、情熱的に注がれ始める。
すぐにその口づけが、深くなることは彼女にも容易に予想できた。

「…あ」
「違うの!そゆ意味じゃなくて」

まるで、加持しか愛せないと間接的に伝えているようで、ミサトは慌てて否定するがもう後の祭りだった。

彼の顔が近づき、ホントに?違う意味なの?と、唇を落ち着いた低く良く響く声で彼女の耳元に寄せながら、聞いてくる。

耳朶に加持の唇が触れ、ミサトの心臓が跳ねる。
それ以上に、心も揺れていた。

仕方ない、加持くんが好きなのは事実。それどころか、きっと愛している…はず。でも、もうしばらく直接伝えるのはやめよう。なんかわたし達の間ではそゆ言葉、違う気がするし。
目の前の加持は悪戯っぽく笑っている。ミサトはおずおずと彼の首に腕を回して目を閉じた。その彼女の期待に答えるように、少し長く慈しむような口づけされた後、再び、念を押すように言われた。

「そういう意味ってことで」

彼女はそれには返事をしなかった。
ただ、舌がもつれそうな、甘ったるい蜜を含んだ彼女の言葉が彼の為に響く。

「加持くん…あのね」
「さっきので…コツが掴めてきた気がするの」

加持の首元に回した右手を、きちんと剃られていない髭に手を伸ばし、感触を楽しむように触れた後、ミサトはとろんとした視線を彼に向け、殆ど無音に近い声で囁いた。

「ね…もいっかいしよ」

夜はまだ明けない。
再び二人の体温が、熱く甘く溶けていった。

Fin.

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