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鬼も喰えない
2013.02.03 sun. (節分のおはなし)
「いいから少し黙れよ…ちゃんと言う事聞けって」
「ほら口開けて」
「こっち向かなきゃ駄目だって」
「ほら慌てちゃダメだってゆっくりでいいから」
**********
「…だって一遍にこんなの食べきるの大変なのよ」
ミサトは手渡された、烏龍茶を流し込んだ。
そして少し膨れた顔をする。
加持はテーブルに肘をついて、彼女のそんな膨れた顔も可愛いなと思いながら、見つめている。
「でもちゃんと食べたな」
空になったコップをミサトから受け取り
彼は満足そうな顔を浮かべた。
加持が器用に作った恵方巻を、ルール通りの方角を向いてミサトは食べた。
何処で揃えたのかきちっと7種類の具が入っていて、豪華で美味しそうではあるが、少しずつでも、全部休みなしで食べるのは大変だった。
けれどニコニコしてミサトを見ている加持を見ると、ミサトはなんだかくすぐったい気持ちになる。
(こんなことしたの子どもの頃以来だもんな…)
母や父と一緒にいた時間は僅かだったけれど、幼い頃に豆まきをしたり、恵方巻きを食べたなと、家族がいた時のしあわせな想い出が脳裏をよぎり、懐かしい気持ちになる。
けれど、あまりに無防備な笑顔をミサトに向ける加持を見ていると、いつも通りなんだか、加持のペースに巻き込まれているようで、心の中に宿った、あたたかい気持ちを必死に隠して、ミサトは憎まれ口を聞いた。
「だって途中でやめたら願い事叶わないって加持くんが言ったんじゃない」
「食べるの本当に大変だったんだから」
ミサトは怒ってもいないのに唇を尖らせる。
「ごめんごめん…もう少し小さく作れば良かったな」
「来年の参考にしとく」
「でもちゃんと最後まで食べてくれて嬉しいよ」
相変わらず加持は笑顔だった。
来年…またこうして加持と恵方巻なんて食べてるんだろうか、ミサトはふと寂しくなる。
このしあわせに溺れていたいと思う。
なのにどうしてか分からないけれど、このままずっと加持と一緒にいられるとは思えなかった。
だから感情のままに言葉がこぼれた。
「だって途中で食べるのやめたら…縁も切れちゃうんでしょ」
「それは嫌だなって…思ったの」
ミサトはそのまま思った事を口にしてしまい、真っ赤になる。
その顔を見られるのが嫌で、慌てて加持から顔を背けた。
一瞬加持の顔が真顔になった。
…が、すぐに満面の笑みになる。
「可愛い事言うと襲うぞ」
加持はミサトを背中から抱きしめた。
そして出来るだけ優しく頭を撫でる。
この意地っ張りな、愛おしい彼女が素直になる方法を、彼は良く分かっているのだ。
思った通り、彼女は加持にもたれ掛かる。
「ま、豆まき…まだしてないよ…加持くん」
ミサトはそう言葉だけ、最後の抵抗を試みるが
あっさり却下された。
「それは後でな」
ふわっと包み込まれる様な加持のぬくもりに、ミサトは今度は素直に身を委ねた。
おしまい。
なんとなくエロなミサ加持が書きたかったのにゆるゆるな感じに。
ま。いいの大学生時代のラブラブな時代だから。