不器用なふたり1 -misato part-
2013.9.28.sat.
(ダメだなぁ…)
(どうも加持くんと一緒だと甘えちゃう)
再会して始めてふたりきりでのご飯というか、飲みというか
加持くんが連れて来てくれた、琉球ちっくな居酒屋で
わたしは相当飲んだみたいで
お店を出て、ちょっち世界が揺れているのは
きっとそのせい
学生時代から加持くんが一緒だと
飲み過ぎる傾向にあるのは分かっていたので
気をつけていたはずだったのに
(うーん、少しフラフラかも)
少しでもお酒にのまれてない振りをしたくて
わたしはクルッと回り、おどけてみせた
「ちゃんと自分で歩いてるわよん」
当たり前のことを、得意気にアピールしてごまかす
「あんま無理すんなよ」
そんな道化みたいなわたしのことを気遣う加持くんは、優しかった
**********
今日は夜も涼しく、時々吹いてくる風が心地良い
「あーリツコの電話で酔いが覚めたかも」
「おいおい相当飲んだだろ」
「だってぇー頭痛い問題突き付けられるとねぇ」
酔い過ぎたことを、ごまかす為でもあったけれど
リツコの電話は、重要事項を決定しなければいけないわたしへの催促で
少しだけ酔いが覚めた気がした
わたしはまだ本部で仕事をしているであろう、彼女を思う
「しかしリツコ殆どNERVに住んでいるようなもんよ」
「たまには付き合ってくれるんだけれど」
「すぐ仕事に戻っちゃうし」
「あれじゃストレス溜まるわよ」
最近はちょっち喧嘩もするし、でも相談したり頼りにしたり
結局大事な友人であることには変わりなく
「確かに、リッちゃんタバコの量凄いもんな」
「ま~葛城の酒みたいなもんか」
「しっつれいね~わたしは楽しく飲んでるからいいの」
「タバコも元々興味ないしね」
「そういや学生時代以来、殆ど吸ってないかも」
「…あ、え、そうなのか」
加持くんが怪訝な顔でわたしを見る
わたしがタバコ吸わないことが、そんなに変なことかな
だいたいリツコもこの男も、タバコ吸い過ぎだし
「そ~よ、あんな体にわるいもん」
「なんで吸ってたのかわからないし」
「あんたも控えなさいよ~」
本当にタバコとは縁のない生活してたし
偉そうに言ってみたけれど、加持君のタバコは胸ポケットに収まったままだ
「あら…そういや吸ってないわね」
そういえば加持君、今日は居酒屋でもタバコを吸ってなかった
「俺は最近は仕事の時だけだからな」
「って、葛城少し飲み直すか」
「いいとこ連れてってやるよ」
「変なトコじゃないでしょうね」
「多分な」
「きっと気に入ると思うよ」
「あ、酒はコンビニで調達しないとな」
わたしにしては珍しく、お酒はもう良かったけれど
加持くんは飲み足りないのかなって
コンビニ寄ってビールを調達してついていくと、NERV本部に逆戻り
文句言うわたしを宥めながら、連れてきてくれたのは
ジオフロントにある加持くんが作った、家庭菜園というには立派過ぎる畑だった
思わず息を飲む
彼が帰国してどれ位経っただろう
シンジくんから、加持くんの畑については少し聞いていたけれど
こんなに立派なものを作っているとは、知らなかった
確かに、マメな彼にとっても合ってる
着いてから加持くんは、いつも休憩していると思われる
芝生が広がるスペースに、シートを敷いてわたしを座らせた
加持くんは直接どっかり座って、タバコに火をつけ
目を細めて満足そうな顔をして煙を吐くと、少しお喋りになった
畑の中で、特にスイカが可愛いらしく
手入れの苦労とか、芽が出たとか、花が咲いたとか、収穫の喜びとか
スイカを撫でながら、嬉しそうに語っている加持くんは
タバコを持っているのになんだか少年の様で、懐かしい気持ちになり戸惑う
そういえば、昔もスイカが大好物だった加持くん
けど滅多に手に入らなくって、偶然手に入れた時に
お土産に持って帰ったら、子供みたいに喜んでいたっけ
あ、そっか
学生時代のある時期
ずっと一緒にいたひとなんだ
こうやって並んで飲んだことも、何度もあった
随分遠い昔のことなのに
なんだかこうしてることが、自然な気がしてしまう
けれど、別れてからの日々は、お互い全く違う人生があったのも確かで
「どした」
「ん、なんでもない」
「嘘つけ」
「泣きそうな顔してるぞ」
「そんなことない…」
いつもなら笑って、おちゃらけて、ごまかせるはずなのに
何故かどうしても出来なかった
それどころか、涙を堪えるのに必死だった
この人はそう
わたしの初恋の人
そんなことを思った時、
わたしの目から、一雫涙がこぼれた
あの頃…別れる少し前
加持くんがわたしから離れたいんじゃないかって、そう思うことが続いて
それが確信に変わっていったのに
でも二人いる時間はとてもしあわせで
わたしは自分の中で混乱して、随分加持くんに当たり散らしたと思う
結局、下手な嘘をついて加持くんから逃げた
あんな別れ方したのに
とても傷つけたのに
その横顔を見ていると
胸の奥にしまい込んだ、あの頃の記憶が溢れてきて
どうしようもなく辛くなる
だからわたしは気付かれないように、そっと涙を拭いた
そんなわたしを、加持くんが引き寄せる
いつもなら、思いっきり張り手を食らわすところなのに
全く抵抗する気も起きずに
わたしは素直に、加持くんの肩にもたれ掛かった
肩から伝わる加持くんのぬくもりが、ここちいい
NERVに入ってからは、仕事に没頭した
わたしなりにあの出来事を調べ
むつかしいことは、分からないけれど
自分の中で折り合いをつけてきた
使徒を倒すことは、あの場でただ1人助かった人間として
しなければならないことだと思ったからだ
それは、父の弔いになるのだと
戦自へ早いうちから訓練を受け、実践的な戦術を学んだし
気が付けば周りの先輩をどんどん追い抜いて、ここまで来たけれど
わたしの人生には、このひともいたんだよね
今思えば自分の運命を忘れるほど
何も考えられなくなる程に、しあわせだった時間だったのかもしれない
このぬくもりは、いつもわたしを安心させてくれたっけ
それに仕事漬けとはいっても、やっぱり時々思い出していた
加持くんと一緒にいた時間
ダメだなぁ…ちょっち感傷的になりすぎてるや
しっかりしなきゃと自分に言い聞かせて、ビールに口をつける
「葛城」
「ホントにあれからタバコ、吸ってないのか?」
「…うん」
またタバコの話?と思って加持くんを見ると、手元のタバコが殆ど灰になってる
「加持くん、タバコ燃えつきそうってか、危ないよ」
「うわっ」
加持くんが慌ててタバコを灰皿に突っ込んでるけれど、熱そうで見てらんない
「ふふ、加持くんのそんな慌てる所見るの久しぶりかも」
「いっつも余裕綽々だもん」
わたしはいっつも前を行く彼を、ちょっちからかっただけだったのに
気が付けば、真正面に真剣な加持くんの顔があってドキッとする
「いや」
「もう限界だわ」
加持くんの…わたしの顔に触れた手が、少しだけ震えているようだった
「え…加持くん?」
その加持くんらしくない、かすかに震える手に戸惑う
きっと今日は二人とも普通じゃないんだ
わたしはその手に自分の手を重ねた
そして
お互い唇を合わせるのは初めてじゃないのに
唇が合うまで随分時間がかかって
まるで高校生の様な、ぎこちないキスをした
お互いどこか恥じらっている
そんな気がしてわたしの胸は、甘酸っぱい気持ちで一杯になる
「加持くん酔ってるでしょ」
わたしはすっかり覚めていたけれど、酔った振りをした
「俺だって緊張するんだよ」
そう言った加持くんは、いつもみたいに笑うこともなく
真剣な眼差しで、わたしから目を離さない
ああダメだ…わたしこの人が好き
再会してから、ずっと気付かない振りをしてきた想いを
自分自身に、素直に受け入れたその時
わたし達は今度こそ、8年振りに大人のキスをした
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