![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70523984/rectangle_large_type_2_e6e46292296fa4d57bd239854c43caa6.jpeg?width=1200)
新型コロナウイルス変異株オミクロンによる新規感染者数の推移シミュレーション
2022年の年明け早々、我が国では新型コロナウイルス変異株オミクロンによる感染者数が激増している。私は専門家でも何でもないが、1月14日に簡単なSIRモデルを用いてオミクロン株による新規感染者数のシミュレーションを始めた。
1.パラメータの設定
SIRモデルのパラメータは実効再生産数Reと回復率γである。1月10日ごろ、イギリスの研究者によってオミクロン株の世代時間(感染性時間)は2.1日と報告された。したがって、回復率は感染性時間の逆数によって近似できるので、γ = 0.472となる。
イギリスでは日本より約1ヶ月早く、2021年11月後半ごろからデルタ株の流行に重畳する形でオミクロン株による感染が進行した。その感染拡大初期のデータ解析から、増殖率λ = (Re - 1)γは0.417となる。これより実効再生産数Re = 1.88が得られる。実効再生産数Reは基本再生産数Roと以下のように関連付けられる。
Re = Ro(1 - ε)(1 - υ) (1)
ここにεはコロナ前を基準としたヒト間接触削減率、υはワクチンの有効接種率である。イギリスにおいては11月の下旬から12月の中旬ごろ、接触削減率εは30%程度と仮定した。一方、ワクチンの有効接種率については以下のように概算した。イギリスにおいては問題の時期、第2回目のワクチン接種が80%、第3回目のワクチン接種が30~40%程度進んでいた。オミクロン株に対する接種の有効性については、2回のワクチン接種で10%程度、3回目のブースター接種で60%と報告されている。そこでオミクロン株に対する有効接種率は25%と仮定した。その結果、オミクロン株の基本再生産数をRo = 3.59と設定した。
2.シミュレーション
2022年1月1日以降の日本全体、東京、大阪、福岡、および鹿児島の新規感染者数の推移について簡単なSIR式に基づくシミュレーションを行った。
ワクチンの有効接種率, ε:我が国における第3回目のブースター接種率は1月14日で0.7%、1月22日現在で1.5%とまだ低い。2月以降一般接種が0.5%/dayの速度で進行すると期待されるが、オミクロン株に対するその有効性は60%程度と考えられる。そこでまず2回ワクチン接種済みの人80%の20%、約15%がオミクロンに対しても有効と仮定し、2月1日以降、これに第3回目接種による有効接種率が0.3%/dayの速度で増加していくものと仮定した。
接触削減率, υ:正月三が日の接触削減率を40%と仮定し、1月14日まで57%まで上昇すると仮定した。1月15日以降の削減率の上昇について、その変化の程度が異なる5種類のシナリオを設定した。最も弱い削減は2月2日に62.5%まで上昇するシナリオ、最も強い削減は1月27日に70%削減に至るシナリオである。
![](https://assets.st-note.com/img/1642905124454-Vt1ThB1CYp.jpg?width=1200)
前節で記載のパラメータ2個Roおよびγ、ならびに上記のように設定した5種の削減率εおよび有効接種率υの経日変化を想定して、次式で表されるSIRの積分式より新規感染者数の推移を1日刻みの繰り返し計算により求めた。なおReは式(1)より決定し、新規感染者数の初期値は実際の数値を用い、計算はエクセル上で行った。
(ΔR)i = (ΔR)i-1 exp{(Re - 1)γ} (2)
以下に日本全体、東京、大阪、福岡、鹿児島の感染拡大状況に関する計算結果を示す。赤のプロットは1月22日までの実際の新規感染者数の報告地である。
![](https://assets.st-note.com/img/1642905335747-VKTdiTZCDM.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1642905394668-zArxsUkEAY.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1642905511591-pD6I1bxMrI.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1642905542777-ls3DgiMKZ9.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1642905577311-4BOFDnK04J.jpg?width=1200)
以上5件の計算結果はすべて同じパラメータを用いて得られている。日本全体及び4都府県では感染拡大状況が互いに異なるので、新規感染者数の計算結果と報告データとのずれの性質も幾分異なる。しかし、今回の簡単なモデルは実際の新規感染者数の増加を概ね再現している。今後の予測は難しいが、シナリオ2とシナリオ3の間を通るのではないかと考えられる。そうすると新規感染者数のピークは2月5日ごろになるのものと推察される。
3.イギリスの場合との比較および考察
日本より一足先にオミクロン株による感染が拡大したイギリスでは、2022年の新年以降次第に新規感染者数が減少し感染収束方向に向かった。その結果、イギリスでは感染防止のためのこれまでの各種規制が大幅に緩和されることになった。そこでイギリスのこれまでの感染状況について大雑把なシミュレーションを行なった。結果を以下に示す。
![](https://assets.st-note.com/img/1642906747625-jHsNB7IBNg.png?width=1200)
前半部ではデルタ株による新規感染者数が大部を占めるが、後半部では実質的にすべてがオミクロン株による新規感染者数と考えられる。
イギリスでは2021年11月27日にオミクロン変異株による新規感染者が確認された。それ以来、当時主流であったデルタ株を凌駕する形でオミクロン株による感染が拡大していった。しかし、感染拡大の初期にはブースター接種がすでに30%
進行していた。加えて昨年末の規制強化とワクチン接種率の一層の向上によって、2022年の年頭には接触削減率55%ーワクチンの有効接種率40%程度が達成されてRe = 1となり、それ以降感染収束方向(Re < 1)に向かった。この関係を以下のチャート上に示す。
![](https://assets.st-note.com/img/1642915498718-eD4nLBljdM.jpg?width=1200)
日本においては、1月22日現在の実際のブースター接種率は1.5%と遅れている。2回のワクチン接種でオミクロン感染に耐性を持つ人が15%いるとしても有効接種率は16%程度と考えられる。一方接触削減率は現在60%程度と考えられる。基本再生産数が2.5の従来株であればワクチン接種なしでもRe = 1となるが、オミクロン株に対しては67%以上の接触削減率(ワクチン接種がなければ72%)が達成されなければ、新規感染者数の推移はピークから減少方向に転じることはない。
1月25日以降、まん延防止等重点措置が30都道府県に適用されることになった。これを機に接触削減率の上昇が達成されてRe = 1の閾値ラインを超え、早期に感染収束域に入ることが期待される。これは新規感染者数推移のグラフ上ではピークの位置に相当し、前述のように、その日付は日本全体、各都道府県によって異なるが2月5日前後になると考えられる。