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14.地平線プロジェクト(12)無理をすると怪我をする
いわき市立美術館で開催された蔡國強展「環太平洋よりー地平線プロジェクト」の開幕初日のことだった。実行会の私は蔡さんに腹を立てていた。
ボランティアスタッフたち全員が毎晩徹夜に近い状態で作品制作に力を注ぎ、予定されていた作品のほとんどを展示会場に設置することができた。そして協力してくれた人たちが美術館の階下にぞくぞくと集まってきていた。ところが最後のたったひとつの作品、ダンボールで作る「子どもの為の作品」が間に合わず、その制作に蔡さんは没頭していたのだった。
私は切り出した。
「もうそろそろやめたらどうですか。今は協力してくれた人たちにきちんと応対するのが大事です。作品を作るよりそちらを優先したほうがいいですよ」
彼は私の不満を感じつつ「わかりました」と答えながらも、なお作業を進めていた。
すると段ボールを切っていたカッターナイフをすべらし指を切ってしまった。プロジェクトに費やした3ヶ月以上の期間中、誰一人として怪我をすることなく過ぎてきて、この小さなアクシデントは初めてのことだった。その時、これまで作業をしている間、口癖のように私が言っていた言葉が蔡の口から出てきた。
「無理をすると怪我をする」
二人は顔を見合わせて笑った。