24.A Gift From IWAKi いわきからの贈り物(1)
■ニースまでの道のり
2010.05.31~06.01
夜9:55発のエアーフランス便に乗り成田空港を出発、パリドゴール空港に6月1日朝4時過ぎに到着予定。時差は7時間というが、機上に12時間以上の滞在。かなりの長時間狭い椅子で体を動かせないのが苦痛だ。映像記録社の名和君は、トイレのまわりの少し空いた空間で運動のために足踏みを続けている。はたから見ると、ちょうどトイレを我慢できないでいる人そのものに見える。トイレに来た人が「どうぞ」と、足踏みしている名和君に先にトイレを促す。違うとわかるとホッとした喜びを隠しきれないで、トイレに入って行く。見ていてなんとなくおかしい。足踏み運動はトイレのそばではやらないほうがいいと思う。飛行機の窓から見える外は、明るくなりかけの夜明け前が何時間も続くような感じでちょっと不思議。
パリドゴール空港に到着後3時間の待ち合わせ時間がある。国内線に移動しニース行きの搭乗口を探す。言葉が解らない時の乗換は、緊張する。搭乗口の前まで来て、ようやく周りを眺めるゆとりがうまれる。ドゴール空港の国内線登場口のある待合室はすごくセンスがいい。一段低くになったところにカフェやトイレがあって、スッキリしたデザインに感心する。
1時間強のフライトで目的地のニース空港に到着。機内から眺めるニース空港の真ん中には、真っ赤な建物があり、それが何なのかとちょっと気になる。建物の近くに飛行機が近づいてみると、それは消防車の車庫であることがわかった。屋上には数名の人が訓練か見張りをしている。飛行機が大好きな私には、手すりの無い屋上から見る空港の景色は最高だろうと思ってしまう。
ホテルに向かう道路は、サルコジ大統領がニースへ他国の30名以上の大統領や要人を招いての会議があるとかで、大渋滞。ようやく朝10時前にホテルに到着した。すると、ゆっくり休む暇もなく、荷物を置きすぐに美術館へ。いわきチームの誰もが作業をするとは思わないので、荷物は持たずに身ひとつで出掛ける。これが大きな間違い。夕方まで、初日の作業が続いた。そして作業が始まってからようやくこれが今までの蔡さんの仕事のパターンだったと気がつく。いわきチームのメンバーはいつも呑気だ。
いつもの笑顔で迎えてくれる蔡さん
■世界のいわきへ
美術館はホテルから歩いて10分。美術館へ通う街並は古い建物ばかりで、すごくいい感じである。我々が滞在するホテルもかなり古くて、エレベーターは鉄格子で囲まれていて自分で二重の扉を閉める。古い映画に出てくるあのエレベーターである。面白くて用もないのに上がったり降りたりしてしまう。
美術館の名前は、ニース市立美術館。蔡さんは既に美術館に到着していて、いつもの穏やかな笑顔で我々を迎えてくれる。そしてすぐに展示場を案内してくれる。4つの展示場があり、いわきの船は一番ボリュームがあるようで、「今回の個展ではメインの作品」だと蔡さんから説明を受ける。
今回の蔡さんの個展を開くために、今年の予算の半分を使っても足りなかったため、来年の予算の半分も使わなければならず、そのために会期は来年の1月9日までになったという話を聞く。今回の個展にかける美術館の意気込みが感じられ、いわきの廃船の作品「いわきからの贈り物」もいい作品に仕上げなければいけないと感じた。
蔡さんは、私達と一緒に歩きながら「こうしているとすぐいわきの時代にま戻りますね」と言う。私も同感だ。蔡さんとはしばらく離れていても会って何分も経たないうちに一緒にやるという連帯感が生まれ、そしてすべてが楽しくなってくる。
午後12時半、蔡さんがいわきチームのメンバーを昼食に招待してくれ、一同は美術館隣りのレストランへ。ラム肉のステーキを食べながら蔡さんと話す。今度、蔡スタジオのスタッフを全員連れていわきへ行きたいと話しだす。「いわきで何をしますか」と聞くと、蔡さんは「自分の本拠地であるいわきの以前作品を作ったいろいろな場所を巡って歩くのはどうですか」と言う。やはり蔡さんにとっていわきは原点なのかと思いを深める。蔡さんの奥さん呉さんが16年前のいわきでの地平線プロジェクトの時の事を話し出す。雨と風が強くなってようやく見つけた砂に埋もれた廃船が流されないかと蔡さんが心配しだし、夜中に蔡さんと私で廃船にロープをかけに出かけた話を同席した館長に説明し始める。結局その砂に埋まった廃船は重くて1日では掘り出せず、2日かかったという話だったが、呉さんにとってもいわきは懐かしい場所。そして思い出多い場所との気持ちが伝わってきた。
2014年、地平線プロジェクト20周年記念とし、「世界のいわきをテーマに何かやりましょう」との提案が蔡さんから出てくる。蔡さんに縁のある本拠地めぐりをしたり、今までに「いわきからの贈り物」を展示した美術館の館長などを招待したりと、話しているうちに蔡さんからいろいろな構想がどんどんでてくる。私たちいわきチームのメンバーにも「4年後、なんか楽しくなりそうだな」という気持ちが湧き上がってきて、話をしながら美味しい昼食もあっという間に平らげてしまった。
作成した工程表にサインをする蔡さん
蔡さんの招待で昼食をご馳走になる
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