6.地平線プロジェクト(4)お手数をおかけします
蔡さんの滞在拠点が決まるといよいよ作品にするための素材探しである。私は朝起きると自分の会社とは反対方向の蔡のアトリエに向かっていた。毎日やることが山のようにあった。
小名浜の神白海岸で見つけた廃船の掘り出し作業を大木土建さんにその積み込みと移動を盤陽重機さんに依頼する。
プロジェクトの内容と予算がないことを丁寧に説明する。すると会う人会う人が快く、しかも無料で引き受けてくれる。
「よしわかった。やってあげる。」
そのとき私は心を込めて「お手数かけますがよろしくお願いします」と言う。それを聞いた蔡さんが外へ出てさっきの言葉を教えてくださいと私に言った。日本語がかなり上手だった蔡さんに教えた最初の日本語だった。
その後、プロジェクトへの協力依頼を求めて数十軒に及ぶ訪問先で、最後に2人が感謝を込めて言う言葉は「お手数かけますがよろしくお願いします」であった。