26.A Gift From IWAKI いわきからの贈り物(3)
■藤田君腕を挟む
2010. 06.04
廃船の組立て作業も4日目となり、終盤である。朝のミーティングでは、藤田君にお願いして、全員けがをしないよう注意して作業するように伝えてもらう。
今回は、我々の意思を伝える為に、藤田君に日本語を英語に訳してもらい、英語のわかるフランス人スタッフに英語で伝え、他のフランス人スタッフにフランス語で伝えてもらう、間に二人を介してのまだるっこさに嫌な予感がする。十分に話が伝わらないもどかしさも感じる。ニューヨークで廃船組み立て時に通訳してくれた麻生君、台湾で通訳してくれたセンさん達二人の通訳ぶりは本当に優秀だったことがあらためて感じた。間に通訳が二人も入り、面倒だとどうしても説明不足になりがちになる。これが事故に繋がるのでは、と心配になる。
廃船の船首で我々がAブロックと呼んでいる部分は、特に組み立てが難しく、作業に携わる人全員のコミュニュケーションが重要である。前日の組立てた部分に蟹クレーンでA3の部材上部を吊り上げ、斜めにしてA4部財にのせるのだが、二つの部材をピタッと合わせる必要があり3名が下から部材を持ち上げ、残りがそれを後ろから押していた。何処かが引っかかっていて10cm位の隙間がどうしても縮まらない。力一杯後ろから押した瞬間、“ガツン”と部材は合わさったが下で押し上げていた藤田君がちょっとした叫び声をあげた。
隣に居た私が「大丈夫か」と聞くと「大丈夫?」と言うが、表情はかなり痛そう。「腕は挟まったが、指は動くし骨は折れていないので心配ない」と皆を安心させる。作業の後で隙間に挟んだ腕を見せてもらったが、表面は擦り傷だったものの、内出血して黒くなっていて、それはかなりの怪我だった。
やはり、気になることはその都度声にだして注意を喚起しながら作業を進めないと怪我につながることを身をもって体験してしまう。作業リーダーの武美君も「一緒に力を出す時は、お互いにやる作業を再認識して声を掛けなければ重大な事故になる」と皆に説明する。
藤田君の怪我がこのくらいで済んだのは「不幸中の幸い」と誰もが思う。今後もいわきチームが知らない国の人々と一緒に廃船の組立てに携わっていくには通訳は大変重要で、その事を深く印象づける忘れられない出来事になってしまった。
事故はあったが、蟹クレーンの操作をするオペレーターが彼の都合で午後4時までしかいられないこともあり、その後の組立てもスピードアップし、夕方5時前に船の背骨であるキールを取り付ける以外はほとんど廃船の組み立てを終わってしまう。
■ニースのビーチ
我々は一旦ホテルに戻り、その後ニースの海岸で夕食を摂ることにする。飲み物やハンバーガーを買って午後6時を過ぎたころ、いわきチーム全員でビーチに向かう。ニースの夕方は遅くまで明るく、午後9時半まで日が出ていて午後10時にようやく暗くなる。そのため夕方6時からとはいえ、外でも十分に遊べるのだった。
ホテルからビーチまでは、真っ直ぐのコース、歩いて20分くらいである。ビーチは砂ではなく小石。海の水は町のすぐそばなのに信じられないほど綺麗で、水温も丁度いい。還暦をすぎた藤田君、真木さん、私の3人がコートダジュールの海岸で水泳を楽しむ。ビーチにはのんびりした時間をすごす人々がたくさんいる。
海を見ると岬の陰から豪華な客船や帆船が出入りし、空にはひっきりなしに旅客機が離着陸する。ニースの空港は海岸にあり、着陸する飛行機は左の方からビーチに向かってきて目の前で旋回して着陸体勢をとる。大きさも種類も違う飛行機が2~3分おきに自分の方に向かって降下してくるのを見ている時間は、飛行機好きの私にはなんとも言えない喜びだ。
海岸でまったりしながら、20代のころに初めてフランスを訪れた冒険家の友人・大場さんの話を思い出す。フランスに初めて来ていろいろ見て体験した大場さんは、山形最上の自分のふるさとに戻り、お袋さんにこう言った。「母ちゃん、フランスにはバカンスというのがあって1ヶ月も2ヶ月も皆生活を楽しんでいるんだ。人間、働くだけではだめだ。楽しい時間を過ごさないと!!」
お袋さんの答えは「満郎、ばかなこと言ってないで早く出稼ぎに行って金稼いで嫁もらえ」だったそうだ。
こんな話を思い出すほどビーチには、楽しそうに海辺での時間を満喫している人々があふれていた。
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