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緊急対談:紙屋高雪×荻野幸太郎 共産党は表現の自由と表現規制についてどう考えているのか? コミュニストで漫画評論家の紙屋高雪とうぐいすリボン理事の荻野幸太郎がとことん対話した

対談日:2021年11月11日
初出:マンガ論争24 2021年12月30日発行


議論を呼んだ共産党の政策集

 2021年10月11日、日本共産党は総選挙に向けての政策集を発表。分野別政策の「7、女性とジェンダー」における次の項目が大きな反発を引き起こした。

「現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。」

2021総選挙 分野別政策一覧 7、女性とジェンダー

 マンガ表現などの規制に反対する層からの反対意見が相次いだことを受け、共産党は10月18日に「「共産党は表現規制の容認に舵を切ったのですか」とのご質問に答えて」と題した説明を追加するなどの対応を行い、同じ政策集の「60、文化」の項を引用して、「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きには反対であることを繰り返し強調した。だが、法規制以外の方法によって創作や鑑賞の機会が実質的に奪われるのではないかという懸念が高まるなど、依然として共産党の姿勢を疑問視する声は収まっていない。
 こうした中、コミュニストでマンガ評論家の紙屋高雪が、「共産党はマンガ・アニメの規制にカジを切ったのか」と題したブログ記事を投稿。党が表現の法規制には変わらず反対姿勢であることを一般に向けて説明して擁護する一方、政策の叙述が乱暴すぎるとの批判を展開したことが注目された。紙屋は、

「この政策の書きぶりには想像や空想が人間を解放する側面、想像や空想が文化に果たす役割については一切記述はない。そこに思いを馳せた形跡もない。空想で人を殺したり、想像で暴力や戦争を起こしたりする物語を紡いだり、それを読んだり、そういうグラフィックを描き・見ることが、誰かを救うかもしれないことを考えてほしい。また、ヘテロセクシュアルのエロマンガやボーイズラブのようなマンガが、文化の壮大な揺籃の役割を果たしていることをこの政策の書き手は知らないのか。」

 と、創作文化への熱い思いを語ると同時に、

「ぼくは、ポルノにそういう影響(この記述ほどはひどくはないが、女性や若い人=子どもをすぐ性的な対象としてとらえたりモノ化したりしがちであること)があることは否定しない。人ごとではなく、ぼく自身の中に侵入している観念である。だからこの政策を起草した人はそう書いたのだろう。」

 と、自分自身の葛藤についても吐露した。
 そんな紙屋と、うぐいすリボン理事の荻野幸太郎が、共産党と性表現との微妙な関係性をめぐって対談した。

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