間野山研究学会が地方・企業との取り組みで生み出せる価値とは?<2/3>
3回にわたり、間野山研究学会の会長を務める山村先生へのロングインタビューをお届けします。聞き手は副会長の佐竹さんと学会誌編集委員長のまつもとが務めました。山村先生が所属されている北海道大学観光学高等研究センターとスポーツアパレルメーカー「ゴールドウイン」との間で結ばれた包括連携協定にはじまり、間野山研究学会が観光分野の産学連携を推進していく可能性についてあれこれとディスカッションすることにもなりました。(インタビュー実施日:2023年11月1日)
<前回はこちら>
※カバー画像は北海道大学 観光学高等研究センターリリースより引用
求められる「観光学」のリブート
まつもと :ここで一つ持ち出しておきたいのが観光学のある種の限界というか、インバウンド需要を見越して観光学部を新設する大学が新潟でもあるのですが、結構定員割れしちゃってるんですよね。学問としてのニーズ、あるいは人手は足らないので就職については引き続きニーズがあるんですけど、それを大学で卒業までに500万円前後掛けて学ぶことの意味は問われるようになってきていると感じます。
山村:そうですね。
まつもと :専門学校に行って2年間で、最低限の教育と就職機会を得て巣立っていく、というのがメインストリームにはなってしまってるかなと。そういう状況ですので、山村先生から地域課題の解決というキーワードが出てきたのは結構大きなポイントではないかと感じます。観光学が次の段階に進むことを社会から求められてるんじゃないかと、そんなふうに思ったりするんですけどいかがですか?
山村 :全くまつもと先生がおっしゃる通りだと思います。大学の観光学が限界に来てるというところは私も深く賛同するところで、具体的には2つの領域で限界を迎えていると思っています。以前も関係者からヒアリングを受けたことがあるんですが、1つ目はおそらく観光学の「観光」というものをすごく狭く捉えている点ですね。これは2003年の小泉内閣の観光立国がスタート地点だというところも結構あると思うんですが、いわゆる狭義の観光産業分野に貢献する人材の育成というふうに、大学側も教育を狭めてしまっている。それによって学生の進路、卒業生の行き先というのも狭まってしまうところがすごくあると思うんですね。
もう1つは、これも1点目と関係するんですけど、日本の観光や大学の観光学が、例えばアメリカのコーネル大学みたいに、ホテルスクール的なホスピタリティマネジメントを目指すのか、職業訓練校的なところを目指すのか、あるいは本当にアカデミックなツーリズムスタディーズをしっかりと確立しようとするのか、このスタンスがどこの大学を見ても、もちろん我々も含めて、はっきりしないんですよね。はっきり言うと迷走している。教員の意識もそのあたりがすごく曖昧になっていて、しっかり考えないといけないのかなと。その解決の一つの道筋が狭い意味でのツーリズムインダストリー、と考えるのではなく、やはり地域が抱える問題を解決する上で観光や人の移動、モビリティみたいなものがどのような役割を果たすことができるのかというのを、アカデミアの面からも実務の面からも分析して解決策を提示できるようなフレームワークを、次の段階でしっかり作っていかないといけないと思っています。
まつもと :コンテンツツーリズムもツーリズムだけじゃなくてコンテンツという物語が地域とそこを訪れる人たちにどういうポジティブな影響を与えてるのか、という観点も含まれてるので、特に大学として取り組むのであればもう拡張が必須であるということはとてもよくわかりました。ありがとうございます。
山村 :とんでもないです。
生まれ変わる城端エリアと課題
まつもと :また佐竹さんに戻しつつなんですけど、南砺市での取り組みも、先月桜クリエに間野山研究学会の学生大会(別記事参照)で行ったんですけど、大規模な工事が進んでいますよね。
佐竹 :城端スマートインターチェンジができますね。
まつもと :インターチェンジができて、周りにもスポーツアクティビティのための設備が数多く設けられる計画ですね。
佐竹 :今後何ができるのかを聞きたいですし、宿泊の選択肢が少ない中で今後どのような選択肢が出てくるか、は本当に面白いと思うんですよね。
まつもと :ここまでの話を繋げると、ゴールドウインさんにフィールドワークの場を提供してもらいたいというお話もあったので、桜が池周辺がまさにフィールドワークの場にもなる、ということなんですよね。
山村 :おっしゃる通りです。まさにPLAY EARTH PARKをこれから作っていくところですね。ゴールドウインさんとしては、子供が遊びを通して健全に育っていくというところに、スポーツなどライフスタイルの変革みたいなものを絡めながら、自らのビジネスを展開していかれるのだと思います。
その南砺市でのプロジェクトの核となるポジションに木村先生が就任されたわけです。企画、プランニングから事業の立ち上げというプロセスが今後数年間の間に進んでいくと思いますが、そこに関心のある博士課程の学生や、修士課程の学生が入っていき、客観的に検証するような研究を進めて論文を執筆する動きも出てくると思います。そして、その成果をゴールドウインさんと共有していくような、教育・研究分野での協力体制を強化していきたいですね。
佐竹 :大規模な開発が進み、資本の蓄積ができてってどうなるか、について熊本の例を挙げてみます。熊本県上天草市松島町の前島地区というところは地震の後、コロナ禍中でも伸びていて、今注目されています。熊本の天草にはイルカウォッチングができる海域が元々あって、そこに向かうイルカクルーズの発着場所の一つです。それだけにとどまらず、閉鎖した国民宿舎などで1回うまくいかなかったところを、民間が買い取って資本を投下していく民間主導の再開発が好調です。その結果周辺の地区が一緒に引き上げられています。このあたりは周りの人が仲良くって、一緒に俺これやるよって言ったら、じゃあ俺は一緒にこれやるよみたいな感じでいろいろ連携していって、全体的に良い蓄積ができています。南砺市でゴールドウインさんが先に動き出したときに、地元で追随して動ける企業さん、産業側の動きってありそうでしょうか。そんな動きをどう誘発していくか、が大事ですね。
山村 :おっしゃる通りだと思いますね。南砺市は旧来からの地域社会の結びつきが非常にしっかりしている土地柄なので、佐竹さんがおっしゃる通り地域社会や地場産業との協働体制の構築というのが、とても重要なキーポイントになりますよね。
佐竹 : 地理的な条件が違ってくると同じようにはいかない部分もあります。上天草市は熊本市から天草に行く途中なんです。天草五橋で天草と熊本が繋がって行きやすくなりました。橋で繋がっても1本の細い道であるから渋滞しやすいということもあり、途中の上天草も注目されるようになりました。うまくいかなかった国民宿舎はそのままにしておけば廃墟だったところをお金を入れてアップデートしました。九州新幹線で熊本駅に着いたら在来線に乗り換えて三角(みすみ)という天草の玄関口のところまで行くことができます。三角は線路が行き止まりになっていて、あとは海という感じなんですけど、そこから上天草市までの定期航路をどうにかして維持して、行き先の前島地区に九州新幹線からの人の流れを呼び込むことができたというストーリーがあります。
南砺という場所は名古屋から富山に行く途中で、長野からちょっと抜けたところ、と捉えています。そういう1本道で行くところの途中にスマートインターチェンジができて、どれぐらいの人がそのルートを行くのか。以前、名古屋から富山に向かう高速バスの「きときとライナー」が満員で予約を取れなかったこともあったので名古屋側から北上する人は多いと思います。どれぐらいの人が南砺市に来て、来た先でどういうものがあって、地元の人がどれぐらい観光に投資ができるか、が課題になると思います。南砺市を見ていると1次産業が中心で観光業のベースがなかったから、宿泊施設が少ないというところはあると思うんですね。そういう中でどうやっていくかです。
山村:そうですよね。
佐竹 :地元の観光業者さんたちがコロナを抜けて、どれぐらいまだ余力があるのか、もしくは地元の金融機関が腹括って(おカネを)貸せるかどうかですよ。
まつもと :そこに答えを出すのは山村先生やアカデミアの役目、仕事ではないかなと思いつつ、研究対象として非常に興味深いということで、間野山研究学会でもよく参照するトライアングルモデルに当てはめてみましょうか。
コンテンツを真ん中に置いた方の図になります。地域(社会)が初めから並走するパターンばかりではないのですが、今回はコンテンツのところがスポーツアクティビティということになると思います。そこにスポーツを楽しみたいという人たちがやってきて、地域との関係が生まれていく。ただ何かやはり大きな物語が必要なんだろうなと思います。例えばそれがオリンピックみたいなものであったり、選手そのものがキャラクターとして立っていくなど、何かそういうことがきっと起こっていく必要があるのではないかと。
山村 :はい。
まつもと :ただ、いずれにしてもその場所がないと、その地を訪れようなどということにはならないから、やはりこういう場所ができるということはとても意味があることだと思います。それを、どう成功させるかというところは、まさにこれから研究していく必要もある。リサーチをまさにしていきたいところではあると思いました。
山村 :そうですね、まつもと先生がおっしゃったことで私も今ふと思い出したんですけど、ゴールドウインさんと今回連携協定を締結させて頂いたときに、ゴールドウインさんからこんなことを北大側に提供できますよ、というご提案を頂いたんですね。スポーツアパレル事業をずっとやってこられた企業さんなので、スポーツ選手とのネットワークの基盤があると。例えばそういった方々を、スポーツツーリズムの講師として北大に派遣できないだろうか、というご提案をいただいたんですね。まさにさきほどまつもと先生がおっしゃった通り、南砺市で、PLAY EARTH PARKを展開するときに、スポーツ選手というのは一つのコアというか物語を語る中心になりながら、何かを展開していくという可能性がすごくあるのかなと感じています。
それともう一つ、実は木村先生はずっと金沢のロングトレイルの整備に関わってこられたんですよね。今回そのPLAY EARTH PARK自体には、目下、トレイルは関係してはいないと思うんですが、周辺のそういった今までのいわゆるコンテンツをインテグレートしながら、桜が池周辺がコアになって何か物語が形成されていくと、私は面白いのかなという気がしています。
まつもと :トレイルについては間野山研究学会で『サクラクエスト』と『花咲くいろは』を結ぶ山越えトレイルを企画したこともありましたね。かなりハードコアなものでしたが(笑)。
山村 :そうでしたね(笑)。
まつもと :企画自体はおそらく生きている、というかこの場所ができたら、再びスポットライトを浴びることもあるのかなってちょっと期待しています。非常に難易度の高いトレイルコースとして。
山村 :そこはぜひPLAY EARTH PARKが稼働し始めたら、ご相談に伺いたいですね。間野山と金沢を繋ぐトレイルルートということで。
佐竹 :熊本の例では阿蘇ボルケーノトレイルというものがあります。こちらでは阿蘇にいくつもある草原の中にコースを設定するんですけど、このコースが複数の牧野(ぼくや)を跨いでいるんです。牧野というのは基本、地元の農業のために緑肥を採集したり、放牧地として使う場所でしたが、放牧していないところなど複数のルート上の牧野と交渉して、どう使うかというところを決めた上で真っ平らじゃないところを、ルートを作ってちゃんと人が走れるように地元の人間が整備して、年に1回5日間のトレイルの大会をやって、たくさんの人に来てもらうというのが始まったわけです。
阿蘇の草原はという担い手がどんどん減ってきてるので、これまで農業が担ってきたものを、観光の人たちも入って使い方を広げていきたい、という大きな目的があります。そのような理念、ストーリーがあるというのが、どう機能するのか。コンテンツツーリズムの視点からすると作品を伝えていくファンを増やす、ファンの思いに応えるためのトレイルでもあるよというやり方もできるけど、まだファンじゃない人に対してそれがそのどれぐらい刺さるか。それよりもという1000年守られてきた草原の担い手を増やしていきたいんだよという方がもっと刺さるしリピーターにもなる。このようなストーリーづくりが南砺市でどうできるか?
<第3回:「間野山研究学会のこれから」に続きます>
インタビュワー:間野山研究学会副会長 佐竹信彦
(PopTownProject代表 ㈱佐竹代表取締役社長)
熊本市内で不動産賃貸業を経営しつつ、ポップカルチャーで地域を活性化する活動、PopTownProjectの代表としてイベントの企画運営を行っている。
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