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間野山研究学会が地方・企業との取り組みで生み出せる価値とは?<1/3>

3回にわたり、間野山研究学会の会長を務める山村先生へのロングインタビューをお届けします。聞き手は副会長の佐竹さんと学会誌編集委員長のまつもとが務めました。山村先生が所属されている北海道大学観光学高等研究センターとスポーツアパレルメーカー「ゴールドウイン」との間で結ばれた包括連携協定にはじまり、間野山研究学会が観光分野の産学連携を推進していく可能性についてあれこれとディスカッションすることにもなりました。(インタビュー実施日:2023年11月1日)

日本版DMOと産学連携

まつもと:山村先生、佐竹さん、お忙しい中ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

佐竹 :よろしくお願いします。山村先生、早速ですが、この度の包括連携協定に関してなんですけど、産業側から見ると大学は教育の場であるのと研究の場であるとの両輪だと思っています。このようにセンターを作られてるということは研究が強いだろうなと。企業として大学と連携することというのは、その企業だけではできない専門性や先進性を、その外部にお願いしたいというところもあるし、いろんな人材がいるという中で、優秀な人材がいたら採用の可能性も考えたいという思いもあったりします。まずはその人材育成教育の面から、今回のこの連携協定がどのようににプラスになっていくのか? 連携協定を結ぶことによってどういうプログラムが提供できるようになるか?についてお聞きしたいです。

山村 :ありがとうございます。画面を共有させていただきますね。こちらが大学院の組織図となります。これを前提としてお話をさせていただきたいと思うんですけども、我々が私が所属するのがこの左下にある教員研究組織というところなんですね。

出典:学院組織図 | 北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 より

佐竹 :はい。

山村 :こちらに観光学高等研究センターがありまして、その他3つの教員研究組織が共同して、この学生教育組織であるところの大学院国際広報メディア・観光学院というところに、各研究組織に所属する先生たちが「教えに行っている」という位置づけなんですね。おそらく北大の特色的なところだとは思うんですけど、教員所属の組織は研究組織として存在していて、そこに学生は所属しないんです。学生の所属は学部や大学院といった教育組織になります。したがって、国際広報メディア・観光学院という一つの大学院であっても、複数の教員所属組織から教員が教えに行くという形になってます。その中で我々の観光学学高等研究センターというところはどちらかというとやはり、地域と研究の繋ぎ役というか、単なるアカデミアだけではなくて、地域の皆さんの声を拾い上げつつ、地域課題解決のために、いわゆる観光研究・観光学がどう役に立つかということを実践的に研究していきたいという立ち位置なんです。

そういう意味で大学院の中のこの上の段にあるのが、修士課程・博士課程なんですけれども、佐竹さんもすぐおわかりになると思うんですが、修士論文を書かせたり博士論文を書かせたりというところで、例えば、学生さんのフィールドワーク先のご協力を、ゴールドウインさんのような包括連携先にお願いをするという可能性もあるということになります。

もう一つが、実はここが今回の包括連携の中核的なポイントだったんですが、学院で行なっている教育プログラムのひとつに「履修証明プログラム」というものがあるんです。これは社会人の皆さんのリカレント教育、要は社会に出られた方が、学び直しで1年間、我々のところで必要な科目を履修されて、試験に合格したら、「ディスティネーション・マネージャー」という称号を大学から付与しますという仕組みなんですね。まさにこの履修証明プログラムというところに、企業さんのノウハウというか、実践的な面でのレクチャーも入れながら、理論と実践のバランスが取れた、社会人の皆さんのための実務的なプログラムを実施しています。つまり今回の我々の目的のかなり大きなところは、ゴールドウインさんからそういった面でお力添えを頂き、履修証明プログラムをより強化できればという点にあるんです。

こちらのリリース(https://www.cats.hokudai.ac.jp/topic/view.php?id=20230929170435&page=2 )にあるように、我々の側は、観光による地域創生、観光産業の転換、ライフスタイルイノベーション、観光分野の国際協力……といったことを研究しています。一方のゴールドウインさんは、ご存知の通りアパレルメーカーさんですが、最近は南砺市でのプレイアースパークの企画にも大きな力を入れられていて、いわゆるスポーツを通じて、豊かで健やかな暮らしの実現、子供たちの可能性を引き出し、美しい未来を形づくるための機会の提供、などに注力されていらっしゃいます。そういった点で、先ほど冒頭で申し上げました、我々センターとゴールドウインさんとの間で、ツーリズムとスポーツを通して、地域課題、地域の皆さんが抱えてる課題を解決したい、という目的が一致したんですよね。そこでのお互いのノウハウを、「学」の側、「企業」の側双方で共有し、相乗効果を出したいと考えています。

佐竹 :お話を伺っていると、社会人が学びなおす「リスキリング」なのかなという感じもしました。

山村:そうですね。

佐竹 :社会人が働いていく上で専門知識をちゃんと身に付けていますということを証明するためこの課程を履修して、ここまで習得できましたと証明してもらうということですよね。熊本だと熊本大学が工学系MBA的なMOTやインストラクショナルデザイン(ID)という研修設計で履修制度に力を入れています。熊本大学はIDに力を入れていてこのジャンルでは青山学院大学と双璧だそうです。そのため、全国から履修生が集まっています。

山村: はい。やはりその辺は、熊本もそうだと思いますし我々北海道もそうだと思うんですけど、学生数、18歳人口の減少というのはすごくあるんですよね。そんな中で2つの方策を恐らく色々な大学は考えてると思うんです。一つは留学生を確保するというところと、もう一つがまさに佐竹さんおっしゃったようにリスキリング、リカレントといった、社会人の学びの機会提供だと思うんですね。

そんな中で、自治体さんでからも、観光についてどう取り組んで良いかわからない、学びの機会が欲しい、といった、大学への声も聞かれるようになりました。そんな中で、この履修証明プログラムができたのが2017年になります。定員は毎年5名とすごく少ないんですが、企業勤務の方もいらっしゃれば、もう会社を辞めて、起業したいので、学び直しに来るという方もいらっしゃいますね。この間も卒業生の懇親会をやったのですが、いま30名以上の修了生がいて、こうした修了生のネットワークを活用した意見交換も活発化していまして、色々と面白い動きが出始めています。

佐竹 :2017年から始めたということは、日本版DMO・DMCあたりとのリンクがあるのでしょうか?

山村 :まさに佐竹さんのおっしゃる通りで、日本版DMOをどうすればいいのかという研究を我々のセンターのスタッフや兼務教員がしてます。そういう教員が中心になって、日本版DMO人材の育成に大学が関わるにはどうすればよいかという議論を重ね、2017年にこの履修証明プログラムができたという経緯があります。

佐竹 :日本版DMO・DMCは、理想は高いけども現場では問題があると思っています。これまでの既存の観光協会などが法人成りして日本版DMO・DMCになっていくときに、これまでと同じでいいのか、マネジメントまでちゃんと学べてるのか? 既存の組織は経営や企画が足りないこともあるし、現場を知ってる人は理論などが足りないところもあるのではないかと。また異業種の方から参入してきてDMO・DMCを作ったときにも分からなさがあると思います。例えば熊本の場合は、半官半民でDMCを作った例がありますが、親会社から人事異動の結果そこに配属された人が地域域資源と観光について専門ではないこともあります。観光に携わる行政の方と一緒で、民間のDMC・DMOでも元から観光をやるつもりじゃなかった人が来た場合に、そういう人材を育てていくために、こういうプログラムがあるというのはすごくいいことだと思います。

山村 :ありがとうございます。実はこの履修証明を作ったときのキーパーソンが、以前、間野山研究学会の総会にも参加していただいた木村宏先生だったんです。その木村先生が実はこの10月1日から、ゴールドウインさんの子会社「PLAY EARTH PARK」の社長として、北大を辞められて就任されました。そういった人の異動もあって、木村先生がここで辞められて北大との縁がなくなるのも勿体ないし、せっかく民間企業に転出されたのであれば連携協定なども結ぶ良いきっかけになるでしょうし、うまく学生さんなど履修生のプラスになるような形に、とのことで、この包括連携の話が立ち上がったという事情もあります。

佐竹 :やはり、そういう繋がりがないとなかなか(産と学の)連携って難しいのもまた事実ですよね。僕も関わってはいたのですけど、まず言葉が違う。

山村 :そうですよね。

佐竹 :スケジュール感覚も違うし、いろいろなギャップがある中、それを両方知ってる方が向こうのサイドに行ってカウンターパートを務めてくれるってことは相当大きいと思うんですよ。

山村 :そうなんですよね。やはり我々もただ、協定結ぶだけではどう動いていいかわからない、形だけになってしまうのも良くないので、木村先生が北大をお辞めになるのと同時に、こちらのセンターの客員教授のポジションも大学の方から認めていただいて、授業にも来ていただくことになっています。あと非常に大きなのが、ゴールドウインさんから今後、寄付金をいただけることになったんですね。それをゴールドウインさんと我々のセンターとの研究ラボという形で、研究プラットフォームを作って、そこでの活動に充てるという形を取る予定でいます。

佐竹 :産学連携をするときに、産業側が求めるのは自分たちにない先進的な知識や研究で、大学側としては資金ですよね。お互いにリソースも出さずに連携って言われると上手くいきませんね。

山村 :おっしゃる通りです。

<第2回:求められる「観光学」のリブート に続きます>

インタビュイー:山村高淑(やまむら・たかよし)

間野山研究学会会長/北海道大学観光学高等研究センター教授/同センター長。専門は観光開発論、社会開発論、コンテンツツーリズム論。近年は、ツーリズムが生み出すコンフリクトと対話について、国内外の比較研究を進めている。


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