
コンテンツ観光に寄与する高岡銅器
間野山研究学会において重要な位置を占める研究が『コンテンツツーリズム』にあることは疑いようのないことであろう。
映画やドラマの視聴者は撮影された場所に観光として訪れ、名所巡りを兼ねた撮影場所を巡り、作品に思いを馳せ、何なら作中での行為を模倣してコンテンツを追体験する。現世を舞台とする作品ではかねてから行われていただろう。(ローマでベスパに二人乗りしたり、真実の口に手を突っ込んだりするあの行為に憧れて、実際にやってみた人も多かろう)
日本の漫画ではトキワ荘が嚆矢であろうか。『まんが道』(1970、1977)などで紹介され、はとバスでツアーまで組まれたという漫画の聖地。1985年以降は『CITY HUNTER』に影響されて新宿駅の掲示板にXYZを書いた人、先生怒らないから後で職員室に来なさい。
アニメで「聖地巡礼」と名称で呼ばれるコンテンツに根差した観光が散見しだしたのは、やはり舞台が分かる現世が描写されてからだろう(※1)。『美少女戦士セーラームーン』(1992)においては麻布十番のパチンコ屋クラウンの球を土産に持ち帰り、『天地無用!魎皇鬼』(1992)が岡山を舞台にしていると聞いては足を運ぶ。そこには、目指す『目的地』があった。(その後のコンテンツ観光はネットの隆盛と並行して『おねがいティーチャー』(2002)『らき☆すた』(2004)に繋がっていくのだが、長くなるのでここでは割愛する)
名所巡りの『目的地』としての『何か』は、長らく風景や建築物といった「背景美術」であった。それはまた当然で、フィクションの登場人物はフィルム中やコマ中にしか存在しないのだから、目に見えるものを『目的地』とするのは自然な行為である。しかし人間は本能で偶像を求める生物。そこに「舞台」が在るのなら、そこに「登場人物」の像を据え置こう───。作品への没入感を高めて顧客満足度を上げ、ついでに観光名所化して観光客ドバドバ、という算盤を弾くかは人によりますが、こうしてフィクションの登場人物が風景を彩る現象が起きる。この流れで、『目的地』に「人物像」が加わることとなった。(舞台に関連した登場人物の像を置いた例に『金色夜叉』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が挙げられる。郷土の偉人像も考え方は同じ)

(リア充爆発しろ!)→画像出典

近年では「登場人物」の像を置くことでその土地を『目的地』化することが増えている。熊本県では熊本地震(2016)の復興プロジェクトとして、2018年11月のONE PIECEの登場人物「ルフィ像」の設置を皮切りに、県内合計10箇所に「麦わらの一味」のブロンズ像が設置された。大分県日田市には地域振興のために進撃の巨人の登場人物のブロンズ像が設置された。2020年11月には大山ダムに主人公3人(エレン、ミカサ、アルミン)の像が、2021年3月には日田駅前にリヴァイ兵士長の像が設置されている。いずれの土地も作品の舞台ではなく、作者の出身地である以外の繋がりはない。逆に、それゆえにブロンズ像の設置が実施され、『目的地』化したのである。(※2)


ブロンズ製の像はこうした『目的地』化ととても相性がよい。丈夫で耐候性があり、緑青が酸化被膜となり錆びて崩壊することもない。昭和40年代以降にFRP製の像が安価に普及したが、耐候性の問題から、屋外に長く置かれる像についてはいまだに銅像の需要がある。富山県高岡市の伝統工芸として経済産業省に認定されている「高岡銅器」は、現在では全国90%のシェアを持つので近年のブロンズ像、特にコンテンツに根差したブロンズ像は高岡銅器製が多い。前述のコンテンツ系のブロンズ像は全て高岡銅器製であり、二次元キャラを三次元で表現するノウハウも蓄積し続けており、地域の『目的地』化に貢献している。(※3)
私が専務理事をしている高岡銅器の業界団体(伝統工芸高岡銅器振興協同組合)では「高岡銅像マッププロジェクト」と銘打ち、全国に散らばる高岡銅器製のブロンズ像を一望にする取り組みを実施している。情報のデータベースとして利用できることを初めとして、知的好奇心を刺激し、地図アプリと連携して聖地巡礼の一助になれるように、編纂に努めたい。




書いた人:ドウグシロウ
株式会社道具 代表取締役。産まれた時から何かのオタク。業界三団体(伝統工芸高岡銅器振興協同組合、高岡銅合金協同組合、高岡銅器アルミ協同組合)の専務理事を兼任していて、もう何が何だか。