片岡妙晶展【花は散らない】
令和3年6月19日(土)~7月25日(日)
会場の空気感を活かしたインスタレーション、横幅5mにも及ぶ立体作品など。「仏教の心を芸術で伝える」をテーマとした作品展『片岡妙晶展 花は散らない』が、信金ギャラリー(高松信用金庫旧坂出中央支店)にて開催された。
本展は、僧侶・布教使として活動する片岡妙晶の初めてとなる個展。会場には、本展の為に造られた新作をはじめ、学生時代に制作された作品が並び、仏教を下敷きにした妙晶の世界観が存分にあらわされた空間となった。
展覧会を通して、その独創的な世界観に浸れるだけでなく、来場者が作品に触れ一部を持ち帰るなど、工夫を凝らした試みも注目を集めた。油彩にインスタレーション、雑貨や立体作品など、約50点以上の作品が集った本展覧会の見どころを写真と共にお伝えします。
会場エントランスは『三具足』
幼少期よりものづくりに関心を持ち、継続的に制作を行ってきた妙晶。2008年には、母の知人より油画を進められ、美術の道へと進み始めた。仏門へ入ってからも美術制作は続き、「仏教者の行う法要とは、仏法を表したインスタレーション作品かも知れない」という考えを抱くようになった。
本展では、その試みとして「三具足」という仏教の教えを表した作品が展示された。
華 よろこび
花がもたらす喜びは受けるものを選ばない。
誰の目にも彩りを添える、ただ一つの存在。
本棚、トイレットペーパー、サージカルテープ、アクリルガッシュ
香 みちびき
言葉よりも前に香りを聞く。
考えるよりも前に心へ届く、ありのままの誰か。
火鉢、マッチ、線香
灯 きづき
日向を出たことのない者に、照らされるよろこびは無い。
光を知り、影を知る。
影を知り、己に気付く。
闇を思い出すべく、火を灯す。
蝋燭、アルミホイル
仏を称える場に必要な三つの要素を表す「三具足」をテーマに制作された作品群は、会場エントランスに展示することで見る者の心を整え、本展の世界観を伝えるアペタイザーの役割を担った。
過去の自分との共作
中学三年生の頃より油絵を描き始めた妙晶。こと「人物画」には強い関心を持ち、自画像を多く制作してきた。本展では、16才~22才頃に描かれた4枚の作品が展示された。なかでも、高校時代に数か月を掛けて制作された自画像は見どころのひとつ。自画像に込められた当時の心象を、植物やライティングによる空間演出で表現をサポート。本展のテーマでもある「歴史」の「過去」に焦点を当てたエリアとなっている。
過去 十六
高校3年生
キャンバス、油絵具、枝葉
過去 二十
大学を中退、仏門へ。
キャンバス、油絵具
過去 二十二
本山職員を辞職、布教使へ。
キャンバス、油絵具
「過去は引きずるものじゃない、背負うものだ」
言語表現が苦手であった妙晶にとって、自画像制作は内観の意があった。自身がどういう状態にあるのか、描くことで把握していたのだ。そんな、本人よりも本音のあらわれた作品は、正に心の歴史と呼ぶにふさわしいであろう。「思い出したくない記憶も自身の一部として、胸を張れるだけの自分でありたい」という作者の想いが込められている。
今の自分が未来を創る
会場二階には、メッセージカードを用いた作品が展示された。花びらを模したカードは一枚ずつ持ち帰ることができ、その増減によって、自らの手で生み出される「未来」を表現した。
未来 散華
花びらが全て散ったとき、「白い壁」は「花が咲いていた壁」に成る。
メッセージカード、シール
花びらは散っても花は散らない
坂出市の地域活性活動の一環として開催された本展は「まちづくりにおける芸術展」というものを問い、「此処でしかできない展示」を目標に制作された。
「歴史」というテーマは、「高松信用金庫 旧坂出中央支店」という会場での展示が決まった瞬間に定まった。地域の方と交流する中で、聞けば聞くほどに魅力を増す町の姿が妙晶にとって印象深かったからである。
先祖の無い人が居ないように、歴史を持たない土地は無い。生きとし生けるものが平等に受け取れるよろこび、それが「歴史」なのだと妙晶は考えた。
形は滅びても人は死なぬ
「昔は良かったけど」「何も無い」「新しく何かを」という言葉をまちづくりの現場では多く耳にし、その都度疑問を感じていた。どの町も魅力的だったからだ。
「既にある魅力」「先人の努力」
これらを伝えることが、妙晶の出した「まちづくり」の答えだった。
trash art
何もない空間に触れ、思い出す記憶。
無から有を生み出す妙技。
そんな人間に備わる幸福の素質を皆がいかんなく発揮できますように。
「当たり前」という、誰もが隣り合う幸福に気付くキッカケづくり。
僧侶の紡ぐ芸術には、そんな想いが込められているのかも知れない。
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日時:6月19日~7月22日
場所:高松信用金庫 旧坂出中央支店
ありがとう、だいすき。