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ジェームズ・ガン監督作『スーパー!(2010)』が好きだ!

MCUの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(以下、GOTG)』シリーズやDCEU『ザ・スーサイド・スクワッド"極”悪党、集結』を手掛け、今やハリウッド有数のヒットメイカーの一人となったジェームズ・ガン監督。実はGOTG以前に2本の長編ヒーロー映画を手掛けていたことはご存知でしょうか?
ひとつは2000年の『MIS2(メン・イン・スパイダー2)』、もうひとつは2010年の『スーパー!』という、どちらも低予算の映画です。
今回ご紹介するのは2010年の『スーパー!』です。

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▲日本版DVDパッケージ。ハチャメチャ感。

これが、めちゃくちゃくだらなくてクレイジーで、なのにどこか人情味溢れる良い映画なんで、もっと多くの人にみて欲しい!刺さる人はいっぱい居るはずだから!という思いで書いていきます!

まずは簡単な本編の紹介から。

主人公は、人生でベストな瞬間が2つしかない地味で少し残念なおっさん:フランク(レイン・ウィルソン)。

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▲レイン・ウィルソン演じる主人公、フランク。

そのフランクのベストな瞬間とは

その①妻と結婚出来たこと
その②逃走中の泥棒を見かけたときに「おまわりさん、あっちです!」と教えたら感謝して貰えたこと(おまわりさんの役に立てたこと、社会に貢献できたこと)


この2つ。あんまりにも誇らしくて絵を描いて壁に飾っちゃうぐらい。ちょっと変わったおっさんです。

そんなフランクに2つの悲劇が襲います。

悲劇その① 妻がドラッグを売り捌いてるチンピラのボス(ケヴィン・ベーコン)のもとへ行ってしまった。要するに逃げられてしまったこと。

悲劇その② おまわりさんにこのことを相談してもまともに取り合って貰えなかったこと(ダメな亭主だったんでしょ?w みたいな感じで)。

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▲良いおっさんが部屋に1人、情けなく泣いてます。

大切な瞬間2つをピンポイントに奪うような悲劇に襲われたフランクはどんどん追い詰められ、遂にイカれてしまい、ほとんど宗教体験のようなヴィジョン(幻覚)を見ます。
そのヴィジョンとは
「巨大な触手がフランクの頭を斬ってパカリと開け、神(馬鹿馬鹿しい教育番組のキリスト教徒スーパーマンみたいなの)の指が彼の脳みそに触れる」というもの。(監督本人もこの教育番組のヴィラン役の悪魔として一瞬だけ出演してます。)
完全にイっちゃってますね。しかし、フランクにとってはこれがある種の宗教体験となります。

「俺は神に選ばれたんだ、神に選ばれたんだから、正義を執行しないければならないッ!」ここまで来たら、もう止まらない!せっせとスーツを自作して、スーパーヒーロー:クリムゾン・ボルトが爆誕!いざ悪党退治へ!

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▲正義の味方、クリムゾン・ボルト参上!

”自分はヒーローだ”という妄想、勘違いに取り憑かれた男は、チンピラの元から無事に妻を連れ戻すことが出来るのか!?

『スーパー!』はそんな”中年の危機”によって狂ってしまった男の視点から、正義と暴力について皮肉を交えながらコメディタッチで描いた映画になります。公開時期が近かったことやプロットが少し似ている点などから『キック・アス』と比較されることも多い作品ですが、観てみると全然違うテイストの映画です。


とまぁ、映画の真面目な紹介はここまでにして、ここから先は僕がこの映画がいかに好きかというのを好き勝手に書いていきます!

ヒーローの誕生が大好き。


まず、僕、ヒーローのオリジン、主人公がヒーローになるまでの一連のシーンが大好きなんです。一般的には主人公の活躍を早く観たい観客の方が多いはずなので”退屈な箇所”と思われがちなんですけどね。何なら、例えばスパイダーマンの映画で一番ワクワクするシーンはピーターがお手製のスパイダーマンのスーツを作ったり、それを改良していったり、能力を試したりするところ。我々一般人のような平凡な人間から、人間を超越した存在、ヒーローが誕生する瞬間、その一線を越える瞬間を目撃するのが最高にワクワクするんですよ。単純にヒーローが作られる過程は見ていて楽しいですしね。『スパイダーバース』が好きなのはまさにその理由。あの映画、1時間半くらいかけてマイルス・モラレスがスパイダーマンになるまでを描くし、スパイダーマンになる瞬間が一番ブチ上がるでしょ?

ヒーローが何故その行動をとる選択を取ったのか?その背中を押した出来事とはなんだったのか?ヒーローのオリジンって、実は数あるヒーロー中でそのキャラクターの芯となる部分のオリジナリティを出す、一番重要かつ難しいところだと思うんです(X-MENシリーズはヒーローのオリジンのネタが切れて”先天性のミュータント”っていう設定を思いついたところから始まったシリーズらしいですし)。

お手製ヒーロー

で、そのオリジンっていうのが、『キックアス』とか、いわゆる”お手製ヒーロー”だと一気に味が変わってきます。アイアンマンやバットマンのスーツはお金や特殊な技術がなきゃ作れそうに無いし、魔法のマントや伝説の鎧は一般人には縁遠いものですけど、”お手製ヒーロー”のスーツはそのへんで売ってる普通の生地とか、Amazonでウン千円で買えそうなものだったりするんですよ。頑張れば僕でも作れちまいそうなものだし、実際主人公やその周辺人物の手作りだったりする。だから”お手製ヒーロー”。

本作『スーパー!』のフランクもそのへんで売ってる生地を買ってきて、慣れないミシンを使ってせっせとコスチュームを作るんですけど、はっきり言って裁縫がヘタクソなんですよ。縫い目が顔の正面に出てて、マスクを被っても不器用さが顔に滲み出てる。そういえば『バットマン リターンズ』のキャットウーマンのレザーコスチュームも縫い目の継ぎ接ぎがたくさんありましたね。やっぱこれは“やばい人が取り憑かれたように衣装を作った”感じの説得力があって狂気を感じますね。おまけに目がギラギラです。ヤバいね。

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フランク「シャラープ、クラーイムッ!!」(←決め台詞)

で、そのクリムゾン・ボルトの装備。武器は魔法のハンマーとか特殊なシールドなんかじゃなくて、配管用のレンチです。殴ったら痛そうなのを容易に想像できるものを武器として選びます。多分、フランクにはムジョルニアに見えてるんでしょうね...渋谷のハロウィン以下のバカらしいデザインのコスチュームを着たヒーローがレンチを振り回してチンケな悪党を殴る。殴ると血がブシャーって噴き出る、みたいなことをやっちゃう。悪趣味なコメディ映画だと思ってたら、唐突に本格的なバイオレンス描写が入る悪趣味さのミックステープ。人は殴れば血が出るんだよっていうのを思い出させてくれる映画。それが『スーパー!』。

狂人観察映画、『スーパー!』

本作は『フォーリング・ダウン』なんかと似た「狂った男の生態を見るタイプの映画」です。フィクションの世界の狂人なら、我々が住む現実の世界ではやっちゃいけないようなことを代わりにやってくれるんですよ。列に割り込んでくるバカなカップルとか、ひったくり魔だとか、現実の世界でよく見かけるちっちゃな悪党を、スーパーマンなら「ダメだぞ☆」で済ませそうな悪党を、クリムゾン・ボルトはレンチでぶん殴ってくれるんですよ。で、最初はアハハって笑えるんだけど、どう見てもやりすぎで。え...ちょっとやりすぎじゃないすかフランクさん...?って、ドン引きさせてくる。そいつが正義のヒーローを名乗ってる。その純粋に笑って良いのか分からないブラック・ユーモア。

狂人のおかわり

しかも、それだけで終わらないのが本作の凄いところ。ヤベェやつがもう一人出てくるんですよ。何なら、フランクよりもっとヤバそうな女の子。ヤベェやつのおかわりが来るんです。

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▲クリムゾン・ボルトの頼れる相棒()、ボルティ!

エリオット・ペイジ(当時は改名前なのでエレン・ペイジの名前でクレジット)演じるコミックショップの店員:リビーというキャラクター登場します。クリムゾン・ボルトと出会って「すっげー!」「私もやりたい!」「私をサイドキックにして!」ってなっちゃうワケです。ある種観客の願望を体現してくれるキャラクターなのかと思いきや、どう見てもフランクより行きすぎちゃってる。フランクはヒーローになるべく、急いでヒーローの勉強をしたオッさんで、おそらく彼はホーリー・アベンジャー(最初に見たガンギマリヴィジョンの神様ヒーロー)以外のヒーローはよく知らないんでしょうが、リビーはコミックショップで働いちゃうぐらいのヒーローギーク。空前のMCUブームとなった今はどうだかわからないですが、監督の青春時代のアメリカの高校なんて、ヒーローオタクなんて学校で散々バカにされてる存在なんだったんでしょう。それこそ、『キックアス』の主人公みたいな。フランクと同じぐらい、いや、ひょっとするとそれ以上のフラストレーションが溜まってるかもしれないし、フランク以上にヒーローへの思い入れは強いでしょう。フランクは悪いやつを見つけてもレンチで殴るぐらい、いや、これでも相当やりすぎなんですけど、リビーはというと、車で跳ねます。『インセプション』の優等生エリオット・ペイジの面影は一ミリもありません。
この頭のおかしい女の子の登場によって、フランクが一旦冷静に、賢者モードに入る様子もバカらしくて最高。悪趣味なヒーローコメディで終わらせず、途中からクリムゾン・ボルトというヒーローを更に狂ったキャラクターを登場させるという力技で脱構築をし始めるのが面白いです。


ここから先、本編(特にエンディング)のネタバレを若干含みます。

まぁネタバレされても支障はない程度にとどめますが、ここまで読んでくださった方で、『スーパー!』気になる!と思ってくれた方、ネタバレ絶対いや!と言う方はぜひ、本編をご鑑賞なさってから読んでください。

こんな悪趣味おバカムービーを撮っていた時代もありましたが、ジェームズ・ガンは今や大作映画を量産し、名前だけで客を呼べるヒットメイカーです。元々トロマのエログロB級映画や、一見バカらしい低予算ばかり手掛けてきた男が、なぜMCUに大抜擢されるに至ったのか、(そりゃ、MCU以前にもドーン・オブ・ザ・デッドの脚本やってたりしたけど)何故B級映画職人の域で終わらなかったのか、それはジェームズ・ガンという作家が、人情ドラマを丁寧に描けるからなんだと思います。

本作の脚本は第1稿からほとんど書き直してないらしいです。GOTGやスーサイド・スクワッド、MIS2のような負け犬チームものではないにせよ、ジェームズ・ガン節全開、ジェームズガン濃度が限りなく100%に近い一本となっております。
ここで皆さん一回、GOTG、それにスーサイド・スクワッドを思い出してみて下さい。ジェームズ・ガンの映画って、ザック・スナイダーやルッソ兄弟みたいな「カッコいいヒーロー!」って感じ、強くはなく無いですか?そりゃもちろんかっこいいですけど、”カッコいい”よりももっと適切な形容詞の方がありそうな感じ。僕はね、これ、『ルパン三世 カリオストロの城』のラストシーンのあの感じだと思うんです。ルパンたち3人がフィアット500で去っていって、その後銭形警部が追いかけてきて、あの名台詞「あなたの心です!」って言って、追いかけていく。それを眺めるおじいさんがこう言うじゃ無いですか。「なんて気持ちの良い連中なんだ。」って。で、「炎の宝物」が流れてエンドロール。「なんて気持ちの良い連中なんだ。」これなんですよ。GOTGも、スースクも、形容し難いエモさというか、愛おしさ。そう、

ジェームズ・ガンの映画って、”カッコいい”より”愛おしい”よね。

GOTGの1作目のエンディングなんて、泣いちゃうでしょあんなの。一緒にミラノ号に乗って宇宙を冒険したくなっちゃうじゃ無いですか。『スーパー!』はまず、オープニングのアニメーションからもう愛おしい!Calling All Destroyersっていう曲が流れる結構長いオープニングタイトルなんですけど、めちゃくちゃハンドメイド感のあるコミカルなアニメーション映像でタイトルがバーンと出るんです。変なおっさんだしやっていることはどう考えても正しくないんだけど、なんだか憎めないし、嫌なおっさんじゃない。だんだん応援したくねっていって、映画が終わるころには、キャラクターたちみんなが好きになってしまうし、愛おしく感じる。

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▲タイトルがバーンと出るジェームズ・ガン節は本作でも炸裂!

そして何より、エンディング。『スーパー!』のエンディングの愛おしさ、美しさはジェームズ・ガンのフィルモグラフィティで一番だと思います。楽しかった時間がやがて終わっていくような、少し青春映画のような切なさを含んだ幕引き。人生に2つしか良いことがなかったダメな男が、彼が起こした行動によってそれがどう変化したのか、彼の人生がどう変わったのか、若干『幸福の黄色いハンカチ』を彷彿とさせる、視覚に訴えてくる圧巻のエンディングです。タイラー・ベイツのサントラが本当によくて、泣かせてくる......

映画、特に日本の映画の宣伝とかってよく「感動する」っていう言葉を使いますよね。でも、この感動のメカニズムって何だと思いますか?感動の正体とは。誰かが死んじゃった、永遠に戻ってこない。それだけじゃ、感動はしないです。これ、『子連れ狼』などを手がけた小池一夫氏によると、感動の仕組みって「喪失と獲得」なんだそうです。財布がずっとポケットに入ってても何も感じないけど、一度落とした財布が帰ってきたら安心するし、拾ってくれた人への感謝を感じるかもしれない。それと似ていて、何かを失ったり、何かが足りてなかった主人公が劇中のさまざまなドラマを乗り越えて、その「喪失」を取り戻したり、代わりになるような大きな何かと出会う。だから観客の感情を揺さぶるんだ、と。
本作のエンディングはまさに、その「喪失と獲得」を究極なまでにシンプルに、かつ大胆に、「2枚だけだったの絵(人生で大切な瞬間)が、最終的には増えて壁いっぱいに広がっている」と表現してみせるんですよね。
”俺はヒーローじゃないんだ”、”自分は選ばれた存在じゃない、コミックブックの表紙を飾るような特別な人間じゃなかった。きっとそういう人は自分以外の他に居るんだ”。勘違いヒーローを始めた男は、やっとそれに気付くことが出来た。でも、”それでも良いんだ”。何故かって、

人生にはこんなにも、素晴らしい瞬間で溢れているんだから。

という、圧倒的なまでの人生賛美を視覚で誰でもわかる画で伝える。(監督は”コミックのコマとコマの間にこそ大切な瞬間があるんだ”、と語っていました)ジェームズ・ガンの優しさが画面いっぱいに広がる美しいカットで幕を閉じる映画、それが『スーパー!』になります。ヒーローが活躍しているシーン以外の価値を、美しい時間をしっかりと理解しているからこそ、何ならそれを全面に出すような物語を語ったクリエイターだからこそ、このスーパーヒーロー映画の黄金時代である今、ジェームズ・ガンはMCUやDCEUに引っ張りだこになってるワケなんですね。無批判に応援できるクリエイターというワケではありませんが、これからの活躍にも期待!、まずはDCドラマ『ピースメイカー』、そしてGOTGvol.3が楽しみ!!

最後に、オープニングシーン、日本版予告編、僕がレビューした動画(ゴミボ)を貼っておきます。

▲本編オープニング・クリップ。
▲日本版予告編
▲筆者によるレビュー動画

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