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小説(SS) 「遭遇!! チャリンチャリン太郎」@毎週ショートショートnote
//お題 チャリンチャリン太郎
近所のママ友の間で、話題になっていることがある。
謎の自転車ボーイ、チャリンチャリン太郎だ。
その少年は、この閑静な住宅街で、金を持ってそうな家ばかりを狙い、ピンポンダッシュをしては去っていく。
彼が逃走する際、通行人をどけようと自転車のベルを鳴らしまくることから、チャリンチャリン太郎と呼ばれるようになった。
かくいう私も、その被害者の一人だ。
こないだ、夕方にインターホンが鳴ったもんだから料理の手を止めて玄関先に出てみると、すでにヤツは逃走後。遠くで騒々しいベルが鳴り続けているのを耳にし、やられたとわかった。
台所に戻った私を待ち受けていたのは、吹きこぼれたカレーだった。
私は、あの悪ガキを見過ごすわけにはいかない。
金持ちにピンポンダッシュするのはいい。だけど我が家は、激安スーパーにいつもお世話になっている大衆家族。まったくもって、手違いだ。
いったい、どんな教育をしているのか。親の顔が見てみたい。この近所で次にあの忌々しい音が鳴ったときには、私がその正体を突き止めてやる。
いつでも来てみろ、この私が追いかけて――
チャリンチャリン〜☆☆
早速来やがった。この音――
チャリンチャリン太郎だ!
キッチンにいた私はドアを思い切り開き、迷いなくオートバイに跨った。
公道に出る。一本道。道路前方に、チャリンチャリン太郎がいる。ヘルメットを被った背丈の低い少年だ。ヤツは、ママチャリに乗っている。
オートバイの力をなめるなよ!
私はそんな優越感に浸りながら、距離を詰めてゆく。しかし、思った以上にその差は縮まらない。チャリンチャリン太郎の脚力はどうなっているのか。筋肉量が化け物か。サラブレッドめ。
だがやはりこちらはオートバイ。じりじりとチャリンチャリン太郎に近づき、車一台分の距離まで追いついた。ようやくチャリンチャリン太郎の背後が、鮮明に映る。見たことのあるママチャリ。加速して横に並ぶ。ヤツは電動アシスト付き自転車か。どおりで速い。だが、私の好きなオフホワイトのカラーリングとは生意気な。
チャリンチャリン太郎が、振り切ろうと漕ぐ足を速める。不意にわたしは手を伸ばし、そのヘルメットを掴む。
サラサラの髪が、風にあおられ露わになった。
顔が見える。
ああ、お前は!!
お前は!!
私の息子!!!!
〈了〉 931字
*
今回も参加させていただきました。
またもや、規定量の2倍となってしまいましたね。
ショートショートには、まだまだ慣れが必要のようです。
本当はカーチェイス?をもっと書きたかったのですが…
それはまた別の機会にしようと思います。
読んでくださり、ありがとうございます。
また次のお題でお会いしましょう。