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小説(SS) 「Who is this battle for?」@毎週ショートショートnote #生き写しバトル

お題// 生き写しバトル
 

 目の前のバターナイフはなんのためにあるか。
 そう考えたとき、漠然と感じていた相手への殺意を後押しされたような気がした。自分よりきれいな女はこの世に必要ない。
 わたしは、故マリー・アントワネットの生き写しと言われてきた。この美貌は、わたしだけのもの。同じような人間は二人もいらない。気づけばそれを手に取っていた。

 目の前の女が、バターナイフを持って襲いかかってきた。この女は、どこかわたしに似ている。見た目だけではない、思考から結びつく言動、その全てがどこか予測可能であるように思えるのだ。
 わたしは、故マリー・アントワネットの生き写しと言われてきた。この美貌は、わたしだけのもの。バターナイフは、バターをフランスパンに塗るためのもの! フランスパァァァァン!!

 バターナイフで相手の目をえぐるつもりだったがフランスパンでタイミングよく防がれてしまった。この女、なぜわたしの殺意を感じとった。普通ならとっさに怖がり、及び腰になるはずだ。なのになぜこの女。待て、紅茶がくるのか!?

 湯気の立ち昇る紅茶の香りをふんだんに吸い込みわたしはカップを手にとった。無論、喉を潤すためではない。目の前の女に投げつけ、顔に火傷を負わせ、その美貌を台無しにしてやるためである。
 てやああああっ!!! このくそアマァァァ!!

 そうくるとはわかっていた。わたしは飛んできたティーカップから熱々の紅茶がバラまかれるより前にフランスパンを手にとり、空中でジャストミートするように投げつけた。ハハハ、ごめんあそばせ!
 しかしなぜ相手は驚いていない。あたかもこちらが、パンで紅茶を無効化することを知っていたかのように動じない。そんなことをしようという人物がこの世に何人いるというのだ。パンは本来、食べるものであり、紅茶は飲むもの。だが、この女は!

 喧嘩の様子を、別室のモニターから見守っていた出資者の男は、勢いよくデスクを叩きつけた。

「なぜだ!? なぜ、マリー・アントワネットの量産ができない! クローン技術は完璧なはずだ!」

「復元可能な遺伝子情報が、少なすぎるのです。顔や雰囲気は近しく再現できても、それ以外の部分の補完が不十分かと。我々研究者は、その調整こそが使命だと認識していますが――」

「言い訳などはいい! あと、どれだけの開発費を注ぎ込めば完成するのだ!」

「それは後日、見積もりを」

「くっ、抜け目のないやつだ! しかし、なにかがおかしい……。いや、最初から全てが狂っている気がする。マリー・アントワネットが、これほどまでに好戦的だったという史実はない。ましてや、バターナイフやフランスパン、紅茶を武器にしようとするだなんて、甚だおかしい話だ。誰かが、なにかしらの工作をしているとしか思えん……」

「……なにをおっしゃいますか。我々は、あなた様のご支援あってこそ研究ができるのです。そのようなことなど決して」

「うむ、ならば引き続き頼むぞ。次こそはマリー・アントワネットの量産に近づけてくれ」

「はっ、最善を尽くします」

 研究者は、そう言って出資者の帰りを見送ると、怪しげに目を光らせた。

「まったく、マリー・アントワネットの量産だなんて、誰が最初から一番狂ってるんだか」

 

〈了〉1,319字



結婚式後、一発目の投稿です!
数週間ぶりに帰ってきましたが、これでいいのかというような、なんだかアホな小説になってしまいました。
またちょくちょく書いていきます。ではでは〜。

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