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小説(SS) 「筋肉推理」@毎週ショートショートnote #名探偵ボディビルディング
お題// 名探偵ボディビルディング
「わかりました。これは、類まれなる筋肉の持ち主による犯行です」
もはや迷宮入りと思われた密室の殺人現場に現れたのは、筋肉でいまにも弾き飛びそうなタキシードをまとった謎の紳士だった。
男は、自らを名探偵ボディビルディングと名乗ると、立ちすくむ刑事たちの前に歩み出た。おもむろに中腰になり、両腕で円を描くように構えて全身に力を込める。
服が爆ぜてしまった。男はニヤリと微笑んだ。
「いまから私が、この部屋が密室でないことを証明してみましょう」
男は、部屋の隅にある金庫に近づき、スクワットの姿勢をとった。ひょいと金庫を持ち上げる。それは刑事や鑑識たち五人がかりでも、ぴくりとも動かない代物だった。しかし男は、軽々しく扱うどころか、ダンベルのように金庫を上下させていた。
「ご覧ください、この筋肉!」
しかし刑事たちの目は、先ほどまで金庫のあった場所に向いていた。隠し通路があったのである。
「謎は、筋肉で解けた! ここは密室ではない! 緻密なトリックも、存在しないのだ!」
刑事たちは、衝撃の事実を目の当たりにしながらも、すぐに我に返った。
「おい、マッスル! なぜこの隠し通路がわかった!? まさかお前が――」
「筋肉チャネリングだ」男はその歯を光らせた。
「刑事さん方は、私が先ほど無意味にタキシードを破ったと思っているでしょう。しかし違います。私はあのポージングにより、超常的な筋肉ネットワークにアクセスし、この場所に動いていた筋肉の軌跡をこと細かく辿っていたのです」
「そんなバカな!?」
「まずは、己の鍛錬から始めることですな。筋肉はすべてを物語ってくれるのですから」
男はそう言うと、高笑いを上げながら、満足気に去っていった。
その場に残された刑事たちは、目を合わせた。
「だめだ、謎が増えてしまった」
あの男は何者だったのか。あれほどの筋肉の持ち主がどこにいるというのか。容疑者リストの中に、筋肉の発達した者はいなかった。
結局この事件は、類まれなる筋肉の持ち主による犯行であることまでしかわからず、ついに迷宮入りを果たしたのだった。
〈了〉863字
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みんな大好き、筋肉のお題でございました。
筋肉はたいていの物事を解決してしまうため、
今回は「解決しない」方向で考えてみました。
ではではまた〜。
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