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小説(SS) 「ビール傘を手に入れろ」@毎週ショートショートnote

//お題 ビール傘

 ビール傘を手に入れろ



 ぼくは今、試されている。
 運動会で借り物競争中なんだけど、ぼくが引いたお題は「ビール傘」だった。きっと、ビニール傘の書き間違いだと思う。

 けど、今日はあいにくの晴れ模様。こんな日にお題のビニール傘を持ってる人なんて、いるはずがない。いたとしたら、その人はまあまあ変態だ。

 もしかすると、校舎の入口付近の傘立てには、誰かが忘れていったビニール傘が残っているかもしれない。でも、ぼくと傘との間には、知らない親たちの分厚い群れ。レジャーシートを敷いて、日傘を差したり、弁当やお酒を口にしながらぼくらを見守る親は、どいてくれるはずがない。物理的な距離もある。自慢じゃないけど、ぼくは足が遅い。まず間に合わないだろう。だけど、一番になりたいというプライドはある。

 そこでぼくはひらめいた。伊達に勉強はしていなかった。ビール傘なら、その場で作ってしまえばいいのだ。

 右方向。両親。座ってこちらを見ている。母は日傘を差し、父は瓶ビールを呷っている。駆けた。足は遅いけど、蹴り出しは早い。両親に向かって叫ぶ。

「お母さん! 日傘を、お父さんのビール瓶に刺すんだ!」

 物わかりのいい母だった。きっと意味はわかっていないだろうけど、すぐさま日傘をたたみ、横にいる父に手渡した。だが父は鈍感だ。走ってるぼくとビール瓶へ交互に目をやり、混乱している様子だった。

「刺すんだよ、お父さん! 日傘の先っぽを、瓶ビールに早く刺すんだ!」

 意を察した父は、瞬く間に日傘を瓶ビールに刺した。

 そして、息を荒げながらもぼくは両親のもとに着き、ビール傘を受け取った。
 やった。手に入れたのだ、ビール傘を!

 振り返る。ゴールテープは切られていない。他の走者もそれぞれのお題に苦戦しているようだ。ぼくは勝利を確信した。


 だが直後、ぼくは落としてしまった!

 汗で、手が滑っちゃったのだ。瓶ビール、粉砕!


 その後、辺りは騒然となり、駆けつけた先生たちによる清掃が始まった。ぼくは気持ち程度に手伝いを終え、瓶の欠片を拾い上げて再び走ったが、学校中の注目を集めながらの最下位だった。
 判定員は、ビール傘を認めてすらくれなかった。


〈了〉896文字




規定量の2倍になってしまいました。
ショートショートには、慣れが必要のようです。
これ以上削ると、意味の分からない話になってしまうため、えいやーっ!と投稿させていただきました。

読んでくださり、ありがとうございます。
また次のお題でお会いしましょう。


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