小説(SS) 「みんなの手紙」@毎週ショートショートnote #伝書鳩パーティー
お題// 伝書鳩パーティー
人間から手紙を託された伝書鳩たちは、旅の途中なにをしているのでしょうか。まったく休まずに、目的地に向かっている? 夜くらいは寝ている?
いえいえ、とんでもございません。
呑んだくれているのです。
ここは、多くの伝書鳩たちが集まる道の駅。
今日はその様子を覗いてみましょう。
「やっべえ! 手紙なくしちまったよ!」
「わたしもよ! 大統領から同盟国に送るとっても大事なものだったのに!」
「そいつは致命的だ! どうすんのさ!」
「過ぎたことは忘れるに限るわ! そうよ、お酒をたくさん呑むの!」
伝書鳩たちは、同じような理由でぞろぞろぞろぞろと集まってきました。みんな、手紙のことなんてすっかり忘れて、瓶ビールをかけ合っています。
「どうしてみんな、ビールを浴びているんだい?」
パーティーで賑わう高台の空き小屋を見つけて、一羽の伝書鳩が尋ねてきました。
「わたしたちは、大事なものを失くしてしまったの。だからこうしてハイになりたいのよ」
「実は、ぼくもなんです」
「なにを忘れたの?」
「道です。迷子になってしまいました」
「それはかわいそうに」
「生まれつき、方向音痴なんです! そんなぼくを無理矢理訓練させて遣わせるからこうなるんだ! 南極ってどこにあるんですか! ペンギンが目印って、渡り鳥に言われましたが、ペンギンってなんですか!」
「難しいことを並べないでちょうだい。わたしたちはお酒をいっぱい呑んでいるの。いまはあなたの姿も三羽に見える。影分身しているわ!」
「ああ、もうだめだ! ぼくはいったいどうしたらいいんだ!」
その鳩は両羽で頭を抱えると、細い脚から崩れ落ちました。するとどうでしょう。彼を囲むように、伝書鳩が集まってくるではありませんか。
「さあ踊りましょう! 朝まで踊り明かすのよ!」
「でも手紙があるんです、年頃の女の子が書いた、大事な恋文なんですよ!」
「そのしごとは、とても大事ね。わたしも、決して落としてはならないものを落としてしまった。だからあなたの気持ちもよくわかる。でも、ここにいるみんなは誰もペンギンを知らないわ。あなたの手紙は燃やしましょう」
「そんな! 少女の恋心が!」
「方向音痴のあなたに任せた少女が悪いわ。これもその子の学びと思って、潔く燃えカスにするの」
「ああ! なんだか、真面目に考えてたぼくがバカみたいです! そうですね、ぼく、踊りたくなってきました!」
「その意気よ! 手紙をたくさん燃やせば、とても楽しいキャンプファイヤーができるわ!」
「最高です! すぐにでも手紙を焚べましょう!」
「わたしたちは伝書鳩。だけど心は自由なのよ!」
残念ながら、伝書鳩に託したほとんどの手紙は、葬り去られていました。そこに込められていた想いも届くことはないのです。うっかり落としてしまうこともあるでしょう。焚き火の燃料になることもあるでしょう。しかし受け入れましょう。わたしたちもまた、そんなときがあるのですから。
〈了〉1,209文字
*
なんだか筆が進んで、長くなってしまいました。
でもそんなことなど気にせず、週末くらいはお酒を楽しみましょうか! あ〜身体が熱いです。
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