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小説(SS) 「楽園」@毎週ショートショートnote #ほんの一部スイカ

お題// ほんの一部スイカ

 

 もしかすると、あの池に落ちてたスイカを食ったせいかもしれない。でも、美味かったんだ。食欲を抑えきれなかったんだ。きっとヤバいものが入っていたんだろう。そうでなければ、こんなことが起こるはずがない。
 お尻の一部が、スイカになっていた。
 あるいは単純に、これまでに多くの盗みを働いてきた天罰なのかもしれない。しかしだとするならば中途半端すぎる仕打ちではないか。全部をスイカにするとか、そういうやり方もあったはずだ。こんな話は、おれたちハクビシンの界隈では聞いたことがない。タヌキの野郎どもなら知ってるかもしれないが、そんなのあるはずねえだろ、と馬鹿にされたらたまったもんじゃないし、うっかり手が出てしまう恐れもある。とはいえ、仲間にも相談しにくいし、迷った末におれは山を降りて、人間どもが暮らしている都市部まで逃げてきた。

 あれから数ヶ月が経つが、ここは天国だ。食べるものはいくらでもある。仲間にも伝えてやりたいがこの生活を中断するなんて考えられない。人間どもは、おれの尻を見ると棒で叩きたくなる習性があるようで、ときどき小さい人間どもに追われることもしばしばだが、それでも離れる理由にはならない。

 こないだ目を覚ましたときには、人間どもが顔にタオルを巻いて目隠しした状態で、おれに近づいてきたこともあった。ここでの生活を続けるにつれ、尻だけだったスイカ成分が全身に広がりつつある。だんだんと動きも鈍くなってきた。もしかしたら、そのうち棒を避けられなくなる日がくるかもしれない。でも、もう里には戻れない。こんな楽園から、誰が抜け出すことができるというのか。

 翌朝、強い衝撃が全身を走り抜けたのを感じて、おれは目を閉じた。うすれゆく意識の中で、無邪気な人間の声がいつまでも響いていた。
 
 

〈了〉743字



なんだか、書いているうちに救いのないオチに
なってしまいました。

当初は、公園でスイカ割りを楽しんでいる子どもに追いかけられ、ベンチで寝ているおじさんのハゲ頭にクリーンヒット! みたいなオチにしようと
思っていたのですが……。そういう話にはなりませんでしたね。

ではではまた〜。

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