小説(SS) 「伝説のセンセーショナル」@毎週ショートショートnote #伝説の安心感
お題// 伝説の安心感
さっぱりしたうどんを食べたい気もするが、この東京の臨海エリア周辺には、普段よく目にする全国チェーン店のそれしか見当たらない。
国彦は、ランチを決めかねていた。初めての東京出張である。せっかく遠くまできて、いつもと同じようなものを食べるのはもったいない。どうせなら少し高くてもいいものを出す店に入りたいと思っていた。
だが、うどんを食べたいという素直なお腹の意思に逆らえるほどのご馳走に、果たしてありつけるのだろうか。この辺は見たところ、駅からはなれれば倉庫とビジネスビルばかりだ。
と思ったら、心躍る看板が歩道脇に出ていた。
伝説の黄金親子丼。
その文字だけで、一目惚れしてしまっていた。
写真はない。だが、伝説の地鶏と伝説のたまご、伝説の米を使っているとチョークで書かれていた。
いっさい迷うことなく、店に入っていた。伝説の安心感たるや、他に勝るものなどありはしない。
鶏の種類もたまごも米も聞いたことのない名前の銘柄だったが、それがより伝説という言葉を際立たせる魅力にもなっていた。
気づくと、食べ終わっていた。
国彦は、伝説の三拍子に心を奪われ、酔いしれ、至福のときを過ごしたあとに店を出た。
どんな味かは、覚えていなかった。もはや味などはどうでもよかった。伝説のものを食べた、その事実だけで、お腹も心も満たされていた。だが、鶏の食感と味にセンセーショナルを感じたのは、間違いなかった。同じ鶏なのに、どこかが違う。それが、伝説の食材たらしめるものなのだろう、と思った。
だが翌日、衝撃のニュースが駆けめぐった。
その店で使われていた食材は、すべて産地偽装がなされていたというのである。残念ながら、中国産の謎のたまごと米が提供され続けていた。そして、使われていた肉は鶏ですらなく、カエルだった。
国彦は、東京のランチに恐怖した。
〈了〉767字
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最近、こんな話ばっかり書いてる気がします。。
たまにはご飯ものの話を書こうかなと思いましたが食べてる描写を入れると長くなりそうだったので、ばっさりいきました。
そういえば昨年応募した、ジャンプ小説新人賞の「ひとりごはん」テーマの部、3月に発表があったんですね。残念ながら、落選でした。
まあ、ひどいギャグを書いたので、文学的にどうかと考えると、、、納得の結果ではございます。
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