小説(SS) 「戦国時代の片田舎」@毎週ショートショートnote #戦国時代の自動操縦
お題// 戦国時代の自動操縦
有力な武将たちによる合戦とは、無縁だった。
この片田舎には、のんびりと田や畑を耕している百性たちが住むだけで、大きな争いもない。
だが、小領主に仕える新右衛門は、主の居室から放出されている異臭に悩まされていた。主がずっと掃除をしないのである。普通なら女中にやらせればいい話だが、主は人を部屋に入れることをよしとせず、誰かがその一室に近づけば、必要以上の剣幕で叱責する始末だった。みなが臭いを気にしつつも、誰も止めることができなかった。
新右衛門の我慢は、もはや限界だった。
その折、悩みをひとづてに聞きつけた旅の商人が尋ねてきた。
「これは、自動操縦で掃除をする木箱です。箱の上の突起を押すだけで、部屋がきれいになります」
「にわかには信じられん。しかし、それが真であるならば、主にぜひとも献上したい。ここで試せるのか?」
商人はにこやかに笑うと、木箱の突起を押した。
まもなくして大きな木箱がもぞもぞと動き出す。動いた跡には、ごみがなくなっていた。
「すごいな。して、どのようなからくりが?」
「それは明かせません」
「まさか、人が入ってるのではあるまいな?」
商人の目が泳いだ。
「入っているのだな?」
「……入っています。中にいる者が、両手をふんだんに使って、ごみをかき集めています」
「貴様、首を斬られたいのか」
「滅相もございません。ですが、これだけは聞いてください。木箱に入っているのは、村の若者です。異臭に悩まれている新右衛門様を助けたいという、その一心で自らこの役を買って出たのです」
新右衛門は処遇に悩んだ。そこまでして思ってくれている村人をむげにすることなどできない。それに、あわよくばこの方法で、居室の掃除ができるかもしれないとも思っていた。主は老齢で、あまり眼がよくないのである。木箱が動いているなら、多少は手がはみ出てしまっていたとしても、わからないのではないか。
悩んだ末、新右衛門は商人と固く手を結んだ。
後日、掃除はまったく問題なく終わった。
主の居室から木箱が出てくる最後の一瞬まで仏に祈り続けていた新右衛門は、どこか拍子抜けしたような気分になった。それと同時に、このような主で大丈夫なのかという思いもかすめた。しかし、女中との間でいい笑い話になったので、深く考えることなく酒を飲んで寝た。
武将たちによる、戦の火の手が近づいているとの知らせを聞いたのは、その翌日だった。
〈了〉995字
*
今回はなかなか苦戦しました。
お題が難しかったです。
オチは「木箱で近づかれて暗殺→戦乱はすでに及んでいた」でもよかったんですが……
最近は暗殺とか人が死ぬオチばかり書いてたので、
趣向を少し変えてみました。
ではではまた〜
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