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じゃあ寺嶋さん嘘つきってことだね。

看護師ならいくつか絶対に忘れられないエピソードがありますよね。まだまだ経験は浅いですがそんな私にも絶対に忘れられない思い出というか反省がいくつかあります。その中の1つを今回お話ししますね。

看護師2年目くらいでした、それはもうがむしゃらに夜勤業務をやっていました。なぜかわからないんですが、私が1年目の頃は幸いなことに亡くなられる患者様がいなく、看取りの対応をしたことがなかったんです。で、そんなこんなで経験も判断力もないまま突然その日の夜勤で看取りの対応をすることになったんです。

その方は高齢で呼吸器を使用していました。医療者として、出来ることはなんでもやったけどもやはり尽きるものは尽きる。私たちとしても納得の出来る過程での最期でした。

しかし、家族の理解がいまいちだったんですね。

あー…。って感じですよね。看護師さんなら。
すっごく熱心な妻が毎日お見舞いに来てくれてました。天然で可愛いんです。純粋に旦那さんのことを愛していて、寝たきりの旦那さんから見える位置に自分で作った俳句を貼りつけて帰るんですよ。かわいい。
でも旦那さんの死が近いことはなかなか理解できない。なんども説明するんですが

「やっぱり本当にそんな状態ですか?」

ってなっちゃうんですね。旦那さんのこと大好きだから。

状態がかなり悪化してして高齢であったこともあり心臓マッサージはしない方針で納得してもらいました。呼吸器をつけてなんとか命を繋いでる。体も浮腫んでむくむく。そんな状態で心臓マッサージまでやったらどんだけ苦痛が伴うか…。心が苦しすぎてそれは医師と一緒に説明し、なんとか心臓マッサージはしないということで説得できました。でも、

「やっぱりいなくなるなんて信じられない。血圧上げるお薬も使って下さい。」

昇圧剤が有効な状態ではありませんでしたが、妻の強い希望で昇圧剤は使う方針となりました。


実際は。
昇圧剤も使う間も無く静かに亡くなられました。


ここからが問題で…。
そのあと先生の指示で昇圧剤の投与を開始しました。ご遺体に投与してるって感じですね。そして、妻には昇圧剤を使ったけれども亡くなられましたと説明がされるんです。これに、なんの疑問も抱かなかったんです。その頃の私は。アホすぎますよね。


で、
後々先輩に看取りの過程を事細かく聞かれるんですよ。
その時血圧いくつだったの?
先生にはどの時点で連絡したの?
コール基準は?
その時HRはどうだった?


「昇圧剤は使ったの?」
「使いました。間に合わなかったんですが。先生に繋いでって言われて。」


「じゃあ、寺嶋さんは嘘つきってことだね。」



もう、ぶん殴られたような衝撃でした。ものすごい悪事に手を染めてしまったような…。自分のことが大っ嫌いになるような。先輩の言う通り私は妻に対して嘘をついたわけです…。

今冷静に考えると行われた医療に間違いはなくて、最善を尽くした結果亡くなってしまいました。同様に妻に対しての伝え方もこれが最善だったのかもしれませんよね。妻が夫の死を受け入れられるための最善の嘘というか配慮というか演出だったのかも…。


でももう絶対嘘はつきたくない。

嘘なんかつかなくてももっと伝え方があったはず。

なんで昇圧剤つなぐ前に
先生!ちょっとまったー!
って言えなかったんだろ。

色々と考えます。これがあったから未だに病院で最期を迎えるということに対してなんか怖さとかこだわりがあるんです。


「じゃあ、寺嶋さん嘘つきってことだね。」
すごいワードセンスですよね。当時はちょー怖かった。この言葉をいってくれた先輩には本当に感謝です。あの時、この言葉でぶん殴ってハッとさせてくれて、本当にありがとう。

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