
弟の涙
今週のテーマは「音楽」。
わたしの当番回では、音楽にまつわる昔今未来の出来事をお話しします。
きょうは、音楽にまつわる思い出について。
わたしは保育園からピアノを習っていたり、吹奏楽部に入っていたりしたので、音楽にまつわる思い出は数多くあるのですが、一番印象深いのは、
『高校生になって、弟がはじめて吹奏楽部に入った年のコンクール』の思い出です。
中学生のとき、ソフトテニス部に入っていた弟ですが、高校に入ってからは、吹奏楽部に入りました。わたしが家で散々、吹奏楽部のはなしをしていた影響もあるかもしれません。
弟が通っていたのはわたしと同じ高校。とはいえ、わたしと弟は4歳差のため、部活動をする弟の姿を見ることはありませんでした。
吹奏楽部では、夏にコンクールが行われます。わたしたちが住んでいた富山県では、最初に県大会に出てから、最終的に全国大会で演奏することになります。わたしたちの学校は、多くの場合、県大会どまりです。
県大会後、パートの打ち上げに行った弟は、なかなか家に帰ってきませんでした。
打ち上げはとっくに終わっている時間帯です。しびれを切らしたわたしは、弟に電話をかけました。
「もしもし、あんた今どこにいるの?」
『・・・学校の近くにいる』
少し間があいた後、弟はぼそぼそと返事をしました。
そして、ずずっと鼻をすする音が聞こえました。
「あんた、もしかして泣いてるの」
『・・・こんなのはじめてだ。悔しくて悔しくて仕方がない。テニスのときは、負けてもなにも思わなかったのに』
なんと、弟は涙を流して、帰るに帰れなくなっていたのです。
弟の涙なんて、幼い頃に見ただけのわたしは、驚きました。
「そっか。とはいえ、みんな心配しているから、そろそろ帰ってきな」
『うん』
そして、電話を切りました。
動けないほど涙を流す弟のことは、心配でした。
一方で、弟が、心動かすほどに熱中できるものに出会ったことに、少しほっとした。そんな思い出です。