【開催レポート】トマト農家さんに学ぶSNSを活用したバランス経営|とどけるラボbyまんまる高知
こんにちは、まんまる高知の坂上北斗です。
2020年10月25日(日)、とどけるラボ by まんまる高知のトークイベント「トマト農家さんに学ぶ SNS を活用したバランス経営」を開催しました!
話し手は、「とまっくまのフルーツトマト」で知られるファーム輝(かがやき)代表の麻岡哲也さん。
対談形式で、ファーム輝が実践しているバランス経営と、Facebookの活用法についてお話を伺いました。
会場は、先日高知新聞にも取り上げられていた、いの町にあるお寺・金蓮寺さんの「寺子屋きんいろ」。
まんまる高知としては、初のオフライン会場と Zoom を使ったオンライン型式の同時開催イベントでもありました。
では、当日の様子をどうぞ。
セッション1: ファーム輝のフシギ
最初のセッションは「ファーム輝のフシギ」と題して、僕たちがイメージする一般的な「農家さん」のイメージと異なるファーム輝の特徴について、質問をぶつけました。
ファーム輝は「トマト専業農家」。
その名の通り、育てている作物はトマトだけとのこと。しかも、基本的には農協を通さずに、直接お客様にトマトを販売されているとか。
もともと農業を営んでいたお父さんの代では、系統出荷といって販売先は 100% 農協さんだったそうです。農協さんが出荷や供給の計画を立て、その計画に基づいて作物を育てていた状態から一転、現在では農協さんを通さない直売スタイルに。
・ファーム輝は、なぜトマト一本で勝負しているのか?
・なぜ、お客様に直接トマトを販売するスタイルに変更したのか?
この素朴な疑問に答えていただくところからセッションは始まりました。
麻岡さんによると、お父さんの手伝いをしながら農業を始めた最初の 3 年は、トマト栽培をしながらも、系統出荷する農協さん向けのししとうも扱っていたとか。
しかし、系統出荷では農協さんを通じて業務用のお店に卸されるケースが多く、自分が作った野菜を食べてくれる人の顔が見えません。
「自分で作った野菜を食べてくれる人の 喜ぶ姿が見たい」
そう考えていた麻岡さんが出会ったのが「高糖度トマト」でした。
現在では、高知県はフルーツトマト発祥の地※として全国に知られていますが、当時はちょうど高糖度トマトの認知が広がり、一般流通がされ始めた頃でした。
※台風の通り道になることが多い高知県は、当時から暴風雨の影響で国分川が頻繁に氾濫。海水と淡水が混じる汽水域の水が畑に流れ出し、塩分を含む土壌で「規格外」のトマトが生まれました。小ぶりながらも味や香りが濃縮されたような高糖度トマトは、その美味しさが徐々に広まり、現在は「徳谷トマト」を中心に多くのファンを集めています。
このトマトを一口食べた麻岡さんは確信します。「このトマトなら、食べた人を笑顔にすることができる」と。そうして、トマト栽培の実験と研究を繰り返しながら、少しずつトマトの収量を増やしていきました。
程なくして、麻岡さんのつくる「ファーム輝」のトマトは美味しいと評判を呼び、口コミで広がっていきました。
トマトのみを栽培する専業農家であるファーム輝ですが、取り扱っているトマトの品種は 40〜50 種類に及ぶとか!通常は、ご夫婦とスタッフ 4〜5 名で経営されていると伺っていたので、多品種栽培は効率が悪くなってしまうのでは!?と、多品種を扱う理由を伺いました。
もともと取り扱っていたのは数種類のトマトだったと麻岡さん。
あるとき、ファーム輝のトマトづくりの技術を高く評価してくださった百貨店のバイヤーさんが、「その技術を使って、ミニトマトを作ってくれないか」と依頼をされたそうです。
当時、麻岡さんにミニトマトの栽培経験はありません。
しかし、麻岡さんは「頼まれごとは、試されごと※」と二つ返事で承諾し、ミニトマトの栽培に取り組みました。
工夫を重ねる中で、甘くて美味しいミニトマトが収穫でき、ミニトマトの面白さに目覚めた麻岡さん。ピッコラカナリアと呼ばれるオレンジ色のミニトマトの栽培にも取り組みます。
最初は、カラフルなトマトは「見た目が派手なだけで味はいまいちなのでは?」と考えていたそうですが、ピッコラカナリアを少量作ってみたところ、今までにない味で美味しい。
以来、少しずつ新しい品種にチャレンジをしていき、お客様から求められるなかで、どんどん品種が増えて、現在の40品目以上の状態になっていったとか。
※「頼まれごとは、試されごと」
麻岡さんが人生でとても影響を受けたという中村文昭さんの言葉。
誰かに、お願いごと・依頼をされたときは、自分が試されているのだと捉えて、前向きに取り組もうという教え。
ファーム輝にはマスコットキャラクター「とまっくま」がいます。トマトの頭にクマの体…の不思議なキャラクターは、麻岡さんの奥さんであり、高知初の野菜ソムリエでもある麻岡真理さん。
その誕生は、2011 年から始めた Facebook のオフ会だったとか!
当時、まだ日本に Facebook が上陸したばかりで、利用者は今ほどではなかった(国内 760万人程度、当時人気の SNS であった mixi の約 1/2)そうですが、熱量の高いユーザーが多く、オフ会を呼びかけると土佐市に 30 人が集まったそうです。
オフ会を盛り上げようと、クマ好きの真理さんが人気のゆるキャラ「りらっくま」の着ぐるみをしてもてなしたところ、参加者に大ウケ。初のオフ会は大盛況のうちに終わりました。
オフ会の盛り上がりの記憶もまだ新しいある日、文旦農園を営む先輩経営者が、文旦の被り物をして PR をしている姿を発見した麻岡さん。これは面白いと、すぐさま先輩に教わったメーカーに問い合わせて、トマトの被り物をつくってもらったとか。
こうして、身体はリラックマ、頭はトマトという不思議なキャラクター「とまっくま」が誕生したのでした!
「良いと思ったら、すぐにパクる」という言葉に、会場からは笑いとともに納得の頷きが生まれていました。
日本においてまだ実名 SNS が一般的でなかった頃から、高知の片田舎で積極的に Facebook に取り組んだ麻岡さん夫妻。現在では、ご夫婦で 8,000人を超える友だちがおり、日々コミュニケーションを楽しんでいます。
利用者が少なかった 2011 年から、「実名登録」というサービスの特徴から「ビジネスに活かせる」と感じて取り組んだと麻岡さん。実名だからこそ、発言や交流の仕方に責任が生まれます。また当時は「友だちをつくろう」というグループも多く存在し、積極的に情報発信や交流を行うユーザーも多かったとのこと。
真理さんが高知で初めて「野菜ソムリエ」の資格に取り組んだことで、全国の資格者とのつながりもできたと教えていただきました。
セッション2: ファーム輝の戦略と考え方
トマトに特化しつつ多品種栽培、早期から SNS に取り組んできたファーム輝の活動を教えていただき、セッション2では、その活動の背景にある考え方や戦略について伺いました。
まず、世界中の人が影響を受けたと言っても過言ではない、新型コロナウイルスによる経営面での状況と、対策について話を聞きました。
緊急事態宣言が発令された 4 月、ファーム輝でも飲食店さんからの注文はゼロ。さらに百貨店さんからの注文もゼロになってしまったとか。
トマトをはじめ野菜などの生鮮は、長期の在庫を持てません。多くの農家さんが予定していた売り先を失ってしまったのではないでしょうか。
麻岡さんによると、取り扱っている作物によって明暗が分かれてしまったとか。冠婚葬祭など人が集まるイベントで使われる花や、贈答品のメロン、あるいは飲食店がメインの売り先となるししとうなどは打撃が大きく、いっぽうで巣ごもり生活の影響を受けて、家庭で使われるきゅうりやピーマン、トマトなどは需要が伸びる傾向も。
ファーム輝は、飲食店・百貨店などの BtoB のお客様だけでなく、個人やスーパーなどのお客様があったことで、うまく影響を分散できたと話してくださいました。
実は、大学時代は法学部に進み、法律家を目指していた麻岡さん。トマト農家の経営と、法律には共通点があるとおっしゃいます。
それは、「バランスが大事」だという点。
「争いごとは、2 つの異なる価値観がぶつかったときに起こる」
「裁判では、どちらか片方の言い分に偏らずに、2 つの価値観・見方のバランスを見る。そのために法律がある」
法律を学び、トマト農家になった麻岡さんならではの言葉です。
実際、就農当初から販売先を分散させることを強く意識していたという麻岡さん。現在のファーム輝のお客様=トマトの販売先を分類すると、大きく 4 つに分けられます。
高知県外の量販店が4割、高知県内の量販店が3割、飲食店が2割、個人客が2割。近年では個人客が増えてきており、コロナ禍で改めて力を入れていきたいとのこと。
40 種類以上のトマトを育ててお客様に届けるのも、お客様を大口に集中させずに分散させるのも、積算温度(トマトが収穫できるようになるまでに必要な気温の総合計)が異なる大きなトマトとミニトマトの両方の収穫時期をうまく調整するのも、人のマネジメントや商品開発、営業活動など、たくさんある仕事を回していくのも、すべて「バランス」が大事。
質問を投げかける僕も、参加者さんといっしょに頷きました。
ほぼ毎日のように、トマト栽培の様子を Facebook に投稿している麻岡さん。
トマトが色づいていく様子や、収穫の喜び、美味しいトマトを育てるための工夫や苦労などが伝わる投稿には、毎回多くの人の「いいね」や「コメント」が付きます。
SNS の発信で、多くの人がぶつかる悩み「何を発信するべきか」「続けていく工夫やコツ」について伺いました。
前提として「相手がどんなことを知りたいのか」と考えながら投稿すること、反応を見ながら、少しずつ改良していくことを教えていただきました。
「農家にとっては、ごく普通のことであっても、知らない人にとっては興味深い・面白いと思ってくれる内容もある」
いっぽうで、宣伝になるような内容の投稿は連投しないようにしているとか。ビジネスにおける SNS の活用も、バランスが大事ってことですね。
SNS を続けていくコツは、「やらなくてはいけない」と思わないこと。「毎日投稿しないといけない」などと 100% を目指さず、忙しくて 2,3日空いてしまっても、また始めればよいとのこと。これには、投稿を続けることに力が入りすぎて悩む聴講者の方も、なるほど…と声が上がっていました。
また、「共感する力は女性の方が高い。SNS は女性の方が向いているのでは」というお話は、会場の男女問わず、納得の反応も…。男性は、女性から学ばないとですね(笑)。
セッション3: これからの農業経営と情報発信
どんな商品(トマト)をつくるか、価値をどのように発信するか、ニーズを把握しながら販売先を如何にバランスを取って分散するか…。ここまで、ファーム輝の取り組みについて教えていただき、最後のセッションでは、Withコロナ / Afterコロナをどう生き抜くかというお話を伺いました。
これまでと変わらず大切にしたいこと、コロナ禍を受けて変えようと思っていることについて伺いました。
創業来、大切にしてきた「食べてくれるお客様の顔が見える仕事」に引き続き力を入れていきたい。飲食店さんとの取り引きは、お客様が喜んでくださったという話が聞けたり、トマトを使った新メニューの話を伺えたり、とても楽しいと話してくださいました。
いっぽうで、コロナの第 2 波、第 3 波が来る可能性も否定できません。
「この状況を、消費者の方に直接トマトを届けられるチャンスと捉えて、取り組んでいきたい」と力強く話されたことが印象的でした。
ユーザーが少なかった頃から、Facebook に取り組んできた麻岡さん。オンライン化が進む現在の状況をどう捉えているのか…。
「いま、YouTube もやってみようと考えて、知り合いに頼んで準備しているんです」
「モノではなく、コトを売る。よく言われますが、価値をどう生み出すかを考える事が大事」
YouTubeやInstagramなどを使ったオンラインの情報発信や販売にもチャレンジする一方で、逆にオフライン、リアルの価値が上がる。
”スーパーオフライン” も面白いんじゃないかと、考えられているアイデアを話してくれました。
「ファーム輝の農園で、マルシェを企画して、直接トマトの話を聞きながら料理を食べたり、トマトを変えたりする場を企画したり、とまっくまがトマトを自宅にお届けするのも面白いんじゃないかと考えている。」
新しいことにチャレンジすることに抵抗なく、「とりあえずやってみる」「自分がワクワクしてやる」「無理せず続ける」といった、どんな仕事でも役立つお話を具体例を上げて話していただき、皆さん大いに参考になったんじゃないかと思います。
まとめ
質疑応答の時間も切れ目なく質問が寄せられ、フルーツトマトの味のように濃い時間でした。
学生チームで農業経営に取り組む参加者の方から、「メンバーのモチベーションにばらつきがあるが、モチベーションを高めたり維持する方法は」といった組織運営の質問が出たり、仕事や人生に対する姿勢や考え方について、相談があがったりと非常に有意義な時間だったと思います。
僕は、前回のイベントに続いて 2 回目の聞き手役を担当させてもらいましたが、麻岡さんに質問を投げかけさせていただきながら、会場の反応も見ることができ、多くの学びを得られました。
対談形式とセミナー形式を比べると、登壇者の方がスライド資料を準備する時間を短縮することができるため、忙しい旬の方にお声がけするには、良い方法かなと感じました。
また、機会があれば、いろんな方と対談してみたいと思います。
最後に、トマトの収穫真っ盛りのなか、お時間をいただき場を盛り上げていただいた麻岡哲也さん、ご参加いただいた皆さん、会場をお借りするだけでなくイベント告知や集客にも尽力いただいた寺子屋きんいろさん、ありがとうございました!
運営にもたついていた僕を全方位でフォローしてくださった、まんまる高知メンバーにも感謝!
まんまる高知は、引き続き “強くてあたたかい高知” を目指して、さまざまな模索を続けていきます。今後とも、まんまる高知をよろしくお願いします!!
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