05_金太郎だらけの浮世絵マン
【シール解説】
歳を取れば取るほど時間が早く過ぎますね。コンビニ行って帰ったくらいかと思えば既にまた一ヶ月。
先日ありがたいことに、売り切れ中のシールセット『金太郎だらけの浮世絵マン』の再販の有無についてお問い合わせいただきました。
このセットは、数名の浮世絵師が「金太郎」を題材に描いた浮世絵作品だけを選んでシール化したものでしたが、シール素材をエグいくらいギラついた金色にしたいが為にいつもと異なる制作工程にしたところ、なんと最終的に半分以上がB品になるという私的な事情における大問題作でした。
そんな有様なので同じ仕様での再販は金輪際ありません。
ですが、気にかけてくださる方がいるならば、せめて裏書き解説だけでも広く残しておきたい…!
ということで、ちょうど前回「坂田怪童丸」を解説した流れでもありますし、今回は『金太郎だらけの浮世絵マン』の裏書き解説をすることにしました。
シール9枚分の解説なのでいつも以上に長くなる事が予想されます。あらかじめお覚悟召されてくださいませ。
【鳥居清長の金太郎】
裏書き解説の前にまず、今回のセットで鳥居清長の金太郎だけ2種類の絵柄があったことについて。
これは歴史上もっとも金太郎を浮世絵に描いたと言われる浮世絵界の「金グ・オブ・金太郎」鳥居清長に対する敬意の表れです。
この2枚はセットで、「本を読んでる金太郎」の姿と、その金太郎が本を読んで「思い浮かべた金太郎」の姿が上下に並ぶメタ的な構造になっています。
つまり上部にあたる「熊に跨がる金太郎」だけ『金太郎だらけの浮世絵マン』セットの他のシールと状況が異なり、「作中作品に登場する金太郎」ということになるのです。そのため背景の金色部分(フキダシの中の世界)は、シール素材そのものの金の上に黄色をのせることでベットリとした金屏風の風合いに寄せました。
また他のシールと差別化するために、この一枚だけ裏面の配色も反転させて地の色をベージュにしてあります。
(ついでに書くと、今回のシールはそれぞれ裏面の色の濃淡がビミョーに変えてあって、もとの浮世絵が古いほど色が擦れて薄くなっています。もちろん完全なる自己満足です)
【絵本を見る快童丸(仮)】
下に来るシールのもとになった清長の浮世絵『絵本を見る快童丸(仮)』(1811-13作)でフキダシの中に描かれているのは、絵本『きんときおさなだち』のワンシーンです。
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『きんときおさなだち』は、後の金太郎イメージの骨子を作ったと言っても過言ではないエポックメイキングな作品で、それまでのアダルト向け金太郎(当時はまだ「快童丸」名義)の作品にはなかった「山の動物たちと仲良し」という設定がたっぷり盛り込まれ、初めて「相撲」というイベントも登場するのです!
多くの浮世絵に描かれる金太郎イメージのルーツもこの『きんときおさなだち』にあります。
『絵本を見る快童丸(仮)』を書いた時、清長は既に晩年を迎えていました。
つまり既にさんざん描いてきた清長タッチの金太郎が、50年ほど前に書かれた自分のルーツにあたる『きんときおさなだち』を振り返る構造なのです、晩年に。これは熱い…!
【熊に跨がる金太郎(仮)】
浮世絵マンシールでも最初は単純に『絵本を見る快童丸(仮)』を上下二分割して、上のシールにはもとの浮世絵と同じように『きんときおさなだち』からの抜粋部分を描くつもりでした。
ところがこの熊を持ち上げている相撲の場面を正方形シールに収めるためには全体をかなり小さくするか激しく歪めてデフォルメしなくてはならず、それだと浮世絵マンのコンセプトから外れてしまうので別の方法を…ということで、同じ清長の『熊に跨がる金太郎(仮)』を選びました。
清長が金太郎を書くようになったのは天明(1781-1789)の頃からと言われますから『熊に跨がる金太郎(仮)』(1790頃作)は清長の金太郎画業としては初期の作品で、さらにそれまで一般的な認識として「金太郎といえば猪」に乗るイメージだったのが、この作品を境に「金太郎といえば熊」となるほどの意識改革を日本中に巻き起こして金太郎史上に多大な影響を及ぼした作品です。清長自身の思い入れも強かったことでしょう。
(現に清長の描く金太郎の横には幇間のような熊がよく登場していて、毎回かなりいい味を出しています)
晩年に描かれた金太郎が→初期に描かれた出世作を振り返る。シール化した二図から読み取れる関係性のエモさは自分の中で変わりません。
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というわけで、いやー今回も前置きが長い!
次からようやく本題です。
と思ったのですが、キリが良いので裏書き解説は次回にまわすことにします。裏書き解説noteなのに!?
またこんど!!