04_坂田怪童丸
【シール解説】
ふと気付けば前回の解説からひと月以上経っていてビックリ。せいぜい2時間くらいかと思っていました。
今回は「坂田怪童丸」の裏書き解説です。
と、その前に。
この度、岡山県倉敷市に開館した世界初の歌川国芳常設展示美術館となる『UKIYO-E KURASHIKI / 国芳館』様の館内ショップにて、定番アイテムとして浮世絵マンシールを常時販売していただくことになりました。
歌川国芳常設展示美術館と繋げて書くと地球統合軍所属超時空要塞ぐらい仰々しくなりますね。
でもこちらのオーナーさんは仰々しさとは程遠いフランクでファンキーな方で、そうでなければ馬の骨の持ち込んだオマケ風シールを浮世絵の美術館で販売するなんてことしてくれません(一年以上の営業失敗実績あり)。
今回発売する12枚のうち8枚は、そんなオーナーさんに旧作の中から選んでいただいたものをリニューアルしたシールになります。
『UKIYO-E KURASHIKI』入口の看板に使用されて来館者に瑞々しいインパクトを与える「坂田怪童丸」も選出していただいたのですが、条件として顔を修正するように言われました。
改めて見るとデフォルメにかなり勝手な解釈が入ってしまっていますね。
浮世絵マンはイラストを仕上げる際のルールが細かく変わってきています。線や形、色、素材などを浮世絵とシールどちらのフォーマットに寄せるかというバランスの変化です。
最近はできるだけ顔のデフォルメを元の浮世絵に近づけるようにしているのですが、最初期に描いた「坂田怪童丸」はまだ自分の色を出しすぎていました。
オーナーさんともお話ししたのですが、現代の日本に生きる我々は漫画やアニメーションの誇張表現が染み付いているので、何も考えずに人間を描くとパーツの位置やデフォルメの具合が江戸時代の感覚とは違うものになってしまいます。だからこそ自分でしっかりとルールを決めて取り組むことが大切だとあらためて認識しました。
そんなこんなでこちら↓が手を加えたシン・「坂田怪童丸」。
「坂田怪童丸」というのは皆さんご存知であろう坂田金時(公時)の幼名・金太郎のバージョン違いです。もともとは"快"童丸と呼ばれていたのがいつしか金太郎と呼ばれることが主流になり、並行して浮世絵作品では"怪"童丸も登場した、という流れだそうです。
歌舞伎や浮世絵は都合に合わせて名前をリミックスしていくところが面白いですね。分かりやすいところだと忠臣蔵の大石内蔵助が大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)になったりして。
これは受け取る側が、名前だけではなくて情報全体を見た上で誰のことを描いているのか読み解く力がないと成立しないので、江戸時代の人々の歴史や故事、芸術芸能分野での知識量と応用力の高さがうかがえます。もっとも、情報が少なく限られていたからこそでしょうけど。
【裏書き解説】
・屋根よ~り~高~い~鯉の~滝登り担いで
ビックリマンの裏書きといえば実験的遊び心の宝庫で、特にそれはルビに顕著です。読み方を無理矢理こじつける基本テクニックはもちろんのこと、記号や音符もあったような。それらを突飛と感じさせずスマートに読ませてしまうのがタンゴ博士の素晴らしいところ。
そういった遊び心に少しでもあやかりたい、とシールを作る人々の多くが日々頭をこねくり回しているのではないでしょうか。
ここでは手始めに「~(波ダッシュ)」をルビに使用して歌のリズムを再現してみました。そして本来は♪鯉の~ぼ~り~、と続くはずの「の~」を助詞としての「の」にすり替えることで一拍ずらしておいてから、もともと続くはずだった「のぼり」という音を「滝登り」で回収しています。
・金太郎とはオレがことダ!
好きなフレーズだから、という理由で歌舞伎の弁天小僧菊之助の名乗り台詞から拝借したのですが、後に弁天小僧のシールを作ることになりネタが被るので困りました。
勢いやノリは大切ですが、それだけで進めると後で辻褄合わせに苦労することが多々ありますよね。ね?
・母親思いの野生児は
金太郎の母親といえば山姥です。
そこで倉敷版では明確に「山姥」と描いて「ははおや」とルビを振るように直しました。
それにしても母親が山姥という設定は謎が多いですね。父親は雷様だったり夢に出てきた赤い龍だったりと諸説ありますが、母親は常に山姥。
ちなみに山姥を美人の姿として描いた走りは喜多川歌麿だそうで、それまではもっと人間離れした鬼女のような存在だったとか。それを艶めかしい美人に変換して表現するとは、いかにも歌麿らしいなあ…と(呆)
・やがて鯉が龍に成るが如く
これは鯉のぼりの由来、中国の黄河にある龍門という急流を登った鯉は龍になって天に昇るという有名な故事から。
浮世絵に描かれる金太郎と鯉の組み合わせは鯉のぼりをネタにしたというよりも、歌舞伎の演目『鯉つかみ』から派生した画題だということです。とはいえ立身出世のシンボルとして五月人形の題材になっている金太郎だけに鯉のぼりのイメージとも相性が良いですね。
『国芳入門編』では、力強さや魔除けの演出としてこのシールだけ裏面の地の色を朱色にしました。倉敷版では他と同じ色なので違った雰囲気が楽しめます。
・源頼光四天王の一人として名を馳せ
「よりみつ」か「らいこう」かで悩み、「らいこう」の方が横文字っぽくてカッコイイのでこちらにしました。カッコイイは大事。
・数多の怪物を退治!!
ルビを「モノノケをケーオー」にして韻を踏んでオトしてますね。こういうベタな言葉遊びが好きなのはオヤジになったからではなく若い頃から変わりません。そしてこれからも(ゴクリ)
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【蛇足】
倉敷にある美術館へ挨拶に伺ったのは今年の5/29だったのですが、浮世絵マン処女作にあたる『国芳入門編』の発売が去年の5/30だったので、驚くことにちょうど一年目の最後の日でした。
そしてオーナー様とは、ここには書けないような繋がりが次々と発覚し、たいへん目まぐるしく充実した一日を過ごす事ができました。
不思議な縁ってあるものですね。
最後に、こんなこと書きたくありませんが、今回のシールは先方の粋な計らいにより、かなり安価で販売させていただいております。高額転売はいつも以上におやめください。見つけたら孫子の代までえげつなく祟ります。
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以上、今回は裏書き解説よりも『浮世絵マン』についての自分語りが多くなってしまいました。浮かれているのだな、と大目に見ていただけると有り難いです。そして是非とも『UKIYO-E KURASHIKI × 浮世絵マンシール』をよろしくお願いいたします。
これまで以上の長文を最後までお読みくださった方、ありがとうございました。
またこんど!!