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東京の旅・福井の旅 ③
翌日の27日、水曜日の朝。私たちは東京駅から北陸新幹線に乗って北陸へ向かいました。途中、所用があったので富山駅で下車。昼食は、いつもの富山駅構内「すし玉」で食べました。普段食べている回転寿司とは、さすがにネタが違います。富山の寿司はおいしい。寿司を堪能したところで再び北陸新幹線に乗車。金沢駅を越えて、今回の延伸部分である福井駅まで乗って、そこで下車しました。福井では、駅前の「マンテンホテル」を家内が予約してありました。部屋は狭かったけれど、駅から近くて便利だし、大浴場が広くて清潔なのと、翌日の朝食が美味しいホテルでした。おすすめです。
家内は疲れたようで、ホテルの部屋に入ってから夕食まで休憩したいというので、私は一人で駅前の散策に出かけました。福井の街中を歩くのは初めてでした。まずは福井駅。今や、福井は県をあげて「恐竜王国」であることをアピールしています。駅舎の壁には恐竜の絵が、駅前の広場には巨大な動く恐竜のつくりものが数頭もいました。なかなか力が入っていますね。
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でも、私が見物したかったのはここではありません。少し歩いたところにある福井城址でした。福井城は、徳川家康の次男である結城秀康以来、幕末まで続いた松平家の城でした。秀吉に敗れた柴田勝家の北之庄城をそのまま改築したものではないようですが、ほぼ重なる地域に建てられました。加賀前田家を監視するための立派な城郭だったそうです。現在、その堀と石垣は残っていますが、城の内部は福井県庁と議会、福井県警察本部になっていました。県庁にも警察にも用はないけれど、橋を渡って、城の内部に入ってみました。
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二つの大きな建物の間の道を奥まで歩くと、天守台の跡がありました。急な石段を登ってみました。なかなか見晴らしがいい。しばらくそこに立って、かつての福井の街の様子を想像しました。幕末には、ここに松平春嶽という名君がいました。坂本龍馬とも親交があって、幕末を語るには欠かせな人物です。そんな歴史も頭をよぎりました。
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帰途は、元の道を引き返すのではなく、たまたま見つけた「山里口御門」から堀の外に出ました。ここは最近になって復元されたようです。その先が堀を渡る橋になっていて、橋には屋根がついています。「御廊下橋」というそうです。当時は、お殿様しか通れない通路だったそう。橋を渡った先には、中央公園の広大な芝生広場がありました。かつての西二の丸の跡地だそうです。よそ者の勝手な考えですが、県庁や警察はここに引っ越して、城内を公園にしたらいいのにと思いました。できれば天守閣も再建してね。
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旅行から帰ってから調べてみました。江戸時代の絵図を見ると、福井城は何重もの堀に囲まれた巨大な城郭だったようです。現在のJR福井駅も城内でした。現在残っているお城と堀は、そのほんの一部分だったんですね。福井の街は、戦災と福井大地震によってほとんど壊滅。かつての城下町の面影はほとんど残っていません。震災や火災は江戸時代においても何度もあったようで、福井城も焼失したことがあったようです。城は再建されましたが、天守閣の再建は許されなかったそうです。幕末に福井を訪れた坂本龍馬は福井城の天守閣を見ていないことになります。
富山駅でも金沢駅でも、北陸新幹線開業とともに、駅の高架下に魅力的な地元の名品を扱う店や飲食店が並ぶショッピングセンターが出来て、いつも旅行者で賑わっていますが、福井駅でも例外ではありませんでした。その夜、私たちは高架下の「くるふ福井駅」の中にあった海鮮居酒屋で夕食をとりました。やはり北陸の海鮮はおいしい。私たちは大いに満足してホテルに戻りました。
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今回、富山でも金沢でもなく、福井に泊まったのは、できるだけ早く「恐竜博物館」に行きたかったからです。なにしろ、今回の旅の一番の目的が、「恐竜博物館」に行くことだったから。というわけで、翌朝、朝食を食べてすぐにホテルをチェックアウトした私たちは、JR福井駅に隣接する「えちぜん鉄道」の福井駅に向かいました。ここから1時間かけて終点の勝山駅まで行き、そこから直行バスで博物館に行きました。それにしても、電車で1時間は遠いですね。「えちぜん鉄道」は単線で各駅停車だから仕方ないのかもしれません。途中に、京都の嵐山をいくつも連ねたような絶景を通りました。ちょうど紅葉の季節でした。そんな景色をゆっくり味わうことはできましたが、やっぱり、レンタカーなどで行った方がよかったかな。
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私は8年前に、大学時代の友人たちと「あわら温泉」に一泊したついでに「恐竜博物館」に行ったことがあるんですが、家内は今回が初めてでした。博物館はリニューアルされていて、展示内容は更に充実していました。私たちのような老人でも興奮したんですから、感受性と好奇心の強い子供達は、たぶん、一日中ここにいても飽きないでしょうね。とにかく素晴らしい展示でした。私たちの年齢になると、恐竜たちにワクワクするというよりも、数億年にわたって地球上の絶対王者だった恐竜たちが絶滅してしまったという事に思いが行ってしまいます。果たして人類はこれからどれだけの期間生存できるのだろうかとかね。
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リニューアルによって、前回訪れた時よりもレストランやショップも広くなっていました。私もついつい、記念のTシャツと恐竜のフィギュアを買ってしまいました。さまざま種類の恐竜がいる中で、私が買ったのは、あまり恐竜らしくないものでした。尻尾の先が丸くなっているのが可愛いですね。どうやら、後期白亜紀に北アメリカに生息していたアンキロサウルスという恐竜だそうです。後期白亜紀は中生代では一番新しい時代だそうですが、それでも1億年近く前です。想像もつきませんね。
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同じルートで福井駅に戻った私たちは、再び、「くるふ福井駅」の中の店で昼食を食べてから、北陸新幹線で帰路につきました。もちろん、初めて乗る区間です。ながらく、富山や金沢へ行くたびに車窓から工事現場を見てきたので、感慨深いものがありました。敦賀駅に着いて、特急サンダーバードへの乗り換えに1時間近く余裕ができたので、特に目的はなかったけれど、家内の希望もあって、駅の外に出してもらうことにしました。ここで、運命的と言いたいくらいの、思いがけない出会いがありました。駅前に「otta」という、芝生広場を中心にしたしゃれた商業施設があって、そこに何気なく入ってみると、本屋さんがありました。「ちえなみき」という名前です。本棚の配置が独特で、カフェスペースもあって、普通の本屋さんとは違うなと思いながら二階にあがったら、眼下に、松岡正剛さんの言葉が現れました。上からみると、書棚が木の枝のような形状に配置されていて、その書棚の上の枝状の電照ホワイトボードのようになった部分に、松岡正剛さんの言葉が書かれているのでした。どうやら、この本屋さんは、松岡正剛さん自身がプロデュースしたか、松岡正剛さんのファンの方がオーナーとして開店した本屋さんのようでした。(地元の書店と編集工学研究所が共同で運営しているそうです。)いずれにしても、まさか敦賀にこんな書店があるなんて。この日に敦賀で下車することは、まったくの偶然なので、これはまさに神の配剤としか考えられない出来事でした。神様は、私が熱烈な松岡正剛ファンであることをご存知だったんだ。そして、松岡さんが亡くなって喪失感を覚えている私をここに連れてきてくれた。というわけで、今回の旅は、画竜点睛。終わりまで素晴らしいものになりました。
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なお、本棚の上に書かれていた松岡正剛さんの言葉とは、「読書こそ文学と言葉を教え、恋の苦味を伝え、世界に裂け目があることを告げる。」というものでした。