君へ。⑴

6月の君は冷たいくらいの綺麗さだった。

緑豊かな山の上にある、煉瓦作りの大きなホテルの変に賑やか過ぎたロビー。

人だかりの中、本当の名前だって知らない君のことをただずっと、ずっと待っていたんだ。

オーダーのスーツはグレーの細かい千鳥格子。

シャツはアイロンのない白のラルフローレン。

決めすぎない格好が君は好きだって言ったから。

数の限られた僕のクローゼットから選んだ精一杯の君へのメッセージ。
虫に食われたままの袖先の生地がやるせなかったけれど、
それさえも、彼女は気に入ってくれるんじゃないかなんて、おもってた。

「パーフェクトなんて糞だ。」

君の暴力的な言葉は
いつだって僕に安らぎをくれた。

対岸に活火山を臨む港街。
はじめて見る、灰まじりの雨が作る黒い染みに汚される興奮。

気付けばあの日、重たくて暗い階段をこうして登り始めてしまったんだ。

#散文
#小説
#僕と君
#記憶

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