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《寄稿》初めてジェットコースターに乗った話 (ねこ)

 時は少し戻ってクリスマスイブ。

 恋人の誕生日を祝うために、私たちはみなとみらいに泊まっていた。
 ショッピングでもしようかと歩き出した昼前、恋人が目を輝かせ放った一言が以下のものである。

「ジェットコースター乗りたい!」

 ジェットコースター。猛スピードで走る機械に乗せられ、空中から落とされるあれ。園内のどこにいても人々の叫び声が響くあれ。もはや乗らなくたって怖いとわかる。

 そう、なにを隠そう、私は人生でただの一度もジェットコースターに乗ったことがない。乗る気もない。だって乗らなくたって怖いってわかるから。

「安全バーの方下ろしてくださ〜い」

 そんなこんなでジェットコースター乗車。
 なぜなのか。

 結局、“人生で一度も乗ったことがないそれがどんなものなのか“という好奇心に負けたのである。もう後戻りができない。

「それでは、行ってらっしゃ〜〜い!」

 ジェットコースターは非情にも動き出す。どうしてすぐ目の前に上り坂があるのだろう。もしや初手から私を落とすつもりではあるまいか。

 アイドルってすごい。罰ゲームでジェットコースターに乗ったりするんだから。アイドルって本当にすごい。

「無理かも、降りたい、帰してほしい、本当に、お願いだからお家に帰してェア゛〜〜〜〜!!」

 懇願している間に落ちた。

 落下。そうこれは落下だ。
 なにかに縋りたいのに握れるのは安全バーだけ。そのバーごと落ちているのだから安心感の欠片もない。体の重みを感じることもできなければ、足が絶妙に前方にあって踏ん張ることさえできない。自然落下でこのスピードになるのって何百メートル地点なんだろう、というような速さで延々に落ち続ける。たまに横回転する。

 私の命日は今日なのだと悟った。熱烈な悟りだった。人間としての原始的、根源的恐怖。だって人は飛べないのだ。人は高所から落ちたら死ぬのだ。
 好奇心は猫を殺すというが、あの猫様さえ殺されるなら、私如きそりゃあ簡単に死んでしまう。

 兎にも角にも、わかったことが一つだけある。番組企画のジェットコースターやバンジーをリタイアするアイドルを叩くオタク。奴らは絶対に、人生で一回もジェットコースターに乗ったことがない人間である。アイドルってとってもすごい。

 
 そんなこんなで数週間過ぎた頃にこれを書いているわけだけれど、今の私は「ジェットコースターまた乗りたいな〜」という気分です。人間は愚か。こうして過ちを繰り返すのです。

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