今年観た映画 黒澤明30本! 後編
こちらの記事は後編になります。
前編では、個人的に選んだ
⚫︎アクション・派手なシーンが好きな人にオススメしたい作品
⚫︎明日も元気に生きねばと思える作品
⚫︎サスペンス好きに贈る作品
⚫︎女性にこそオススメしたい作品
を紹介してますので、そちらもぜひご覧ください。
それでは、後編いってみましょう!
リメイクが難しいと思う作品3選
素晴らしき日曜日
醜聞(スキャンダル)
静かなる決闘
解説:ここで言う「リメイクが難しい」の意味は、映像・衣装・役者さんの技術や資金の都合でリメイクできないという意味ではありません。どちらかというと、リメイクしても説得力を持たせられないという意味ですね。だからこそ原作を観る価値がある作品と言えるのですが。
ズバリ言ってしまうと、日本人の恋愛観や貞操観念が、この時代と大きく変わってしまったからです。
特に『醜聞』がわかりやすいかな?たまたま旅先で助けてあげた女性が有名人だったために、2人の間には何もなかったにもかかわらず、週刊誌に写真つきで載せられてしまいます。そこから裁判を起こすというお話です。
でもこれ、今の日本で同じことが起きたと想像すると、泣き寝入りして終わりだと思うんですよね。どんなに強く訴えても世の中は信じてくれないでしょうし。。。
黒澤監督も、数十年後、世の中がこうなっていくとは思っていなかったことでしょう。
私などは逆に、この3作を思春期の子に観せたらどうか?と思うんですよね。日本は保守的で、大事なことだと分かっていても親子で性の話ができないという悩みをよく見かけます。どうせ学校で文化観賞会をやるなら、体育館に生徒を集めて『素晴らしき日曜日』とか『静かなる決闘』上映してみてはどうでしょうか?恋人がいる子もそうでない子も、何かは感じるんじゃないかなぁ?
(私が学生のときは、『耳をすませば』を体育館で観ましたが、なんか小っ恥ずかしかったので、むしろクロサワ観たかったかもしれない)
男女の関係うんぬんとはまた別に、壊れてはいけない何かを守り続けてる人が描かれてるという意味でも、黒澤作品は今
観る価値があると思います。
ちなみに、技術的な面で確実に再現不可能なものが黒澤映画に映ってまして、それが『乱』の衣装です。
以前、衣装を担当したワダさんの本の感想も書きましたので、よろしければそちらもご覧ください。
https://note.com/mangokiwi804/n/n755f6e94de4a
演技・俳優さんを見てほしい作品
赤ひげ(山崎努・頭師佳孝)
我が青春に悔いなし(原節子)
乱(原田美枝子・仲代達也)
隠し砦の三悪人(三船敏郎・上原美佐)
解説:作品の解説はすでにしましたが、私は『赤ひげ』の山崎努さんに泣かされました。山崎さんは、『天国と地獄』にも出ていますが、本当に〝ここぞ〟という場面で呼ばれているように見えます。お若い頃から既に存在感のある役者さんだったんですね〜。そういう役者さんが好きな方は、絶対に2作とも観なきゃ!
『赤ひげ』には、のちに『どですかでん』にも登場する頭師佳孝さんも出ています。当時はまだ子役でしたが、本当に病気の子どもに見えるほど自然な演技でした。
『我が青春に悔いなし』。こちらも作品の解説はしましたね。あの美しかった原さんが、途中で原さんに見えなくなってくる。あの体当たりの演技に注目してほしいです!
『乱』。シェイクスピアの『リア王』を下敷きにしてると言えば、どのような話か想像つく方も沢山おられると思います。
夫を殺された楓の方を演じる原田美枝子さんがすごい。
やや挑発ぎみに、それでも抑えながら嫌味を言ったかと思えば、脇指を抜いて怒鳴りながら斬りかかってくる。
ケラケラ笑って戸を閉めたら、再び叫び出して、自分の着物を刃物で切り刻み始める。さらには「夫を殺されてもなんとも思いませぬ」とぶっちゃける。
この感情のジェットコースターが凄すぎて、何回もそこばっかり観てしまいました。
なんという妻だろうか?と普通なら思ってしまいますが、彼女の生い立ちを知ると、なるほど感情の波が予測不能な動きをしてしまうのもわからなくもない。
彼女を単純に「悪女」と言ってしまうのは違う気がしました。黒澤作品には、本当に手に負えない恐ろしい女性が沢山出てきますが、楓の方は嫌いじゃないんですよね、私。
自分がただ楽をしたいとか、美味しい思いができればいいとかじゃなく、腹の底に揺るがない復讐心があったのかなと思うとね。
年齢を重ねてからは、穏やかなお母さん役などを演じることが増えたと思いますが、そういう原田さんしか見たことないという人は、絶っっ対イメージ変わると思う。
そして、仲代達也さんが4時間かけてメイクしておじいちゃんを演じてます。仲代さんの演技に解説は不要かとも思いますが、火の付いた矢が次々に飛んでくる中、顔色ひとつ変えないシーンは、ぜひ観ていただきたい。
元々、勝新太郎さんが演じる予定だったそうですが、『独眼竜政宗』のときの演技が個人的にあんまり好みでなかったので、仲代さんでよかったと思います。。。ファンの方いたらごめんなさい。
原節子さんと、三船さんと、上原さんについては、何がどう素晴らしかったのか既にたくさん書きましたので、ここでは省略します。
人にはすすめない作品5選
どですかでん
どん底
デルス・ウザーラ
影武者
夢
解説:『どですかでん』についてはすでに詳しく書きましたので、ここでは割愛いたします。https://note.com/mangokiwi804/n/neb896fecdd62
『どん底』は、文字通りどん底の暮らしをしている人しか出できませんし、映画の中のかなりの時間、限られた空間で役者さんがやりとりするだけなので、派手な演出が好きな私には合いませんでした。役者さんの演技を堪能したいのであれば、左卜全さんがめちゃくちゃいい味出してますので、ご注目ください。Wikipediaで左卜全さんを調べましたが、奥様との関係がとてもユニークで面白かったので、興味ある方はぜひ読んでみて!
『デルス・ウザーラ』も人にすすめるにはなかなかハードル高いっす(^_^;) まずこの作品、黒澤コーナーに置いてない。洋画の扱いなんですよね。
知ってる俳優さんが出てこない+字幕と吹き替えの選択肢がない+極寒の地でオジサンがひたすら頑張る話なので絵面が地味 という・・・。男の友情を描いた話やアドベンチャーものが三度の飯より好きという方にはオススメします。
デルスの純粋な人柄は素晴らしいのですが、やっぱりオジサンばかり数時間見ていると、美少年とか出てこないかな?とか不届きな私は思ってしまいました。。。最後の方にいきなり私の心を読んだかのごとく、セーラー服の美少年出てきて「ご褒美か!?」と口に出してました。スミマセン(笑)
『影武者』は、戦国時代好きとしては絶対に観ておきたかったのですが、3時間ありますので流石にちょっと長いですね・・・。『7人の侍』と『赤ひげ』と『白痴』も長いですが、長いだけの意味があるというか、どのシーンにも意味を感じたんですが、『影武者』は全体的に少々間延びしてる感じが否めないというか。カットもできたのでは?と思ってしまった。でも、衣装はそれぞれの個性も出ていてキレイでしたよ!数えきれない馬が一面に倒れてるシーンは圧巻。どうも一頭一頭麻酔で眠らせたそうですから、これは大変ですわ。
『夢』は、タイトルだけだとかなりボンヤリした印象を受けますが、そこはやはり黒澤作品なので、ボンヤリではありません。私が驚いたのは、1990年に発表されたこの作品の中で「セシウム」という言葉がセリフの中に入っていたことです。私などは3.11が起こるまでは全く知らない言葉でしたが、原発や放射能に強い危機感を抱いていた監督は、知っていたんですね。
本作はオムニバス形式になっています。
かなり教訓めいた作品が多く、娯楽性は低いという理由で人にはすすめません。
それら全てを総合して私が人にすすめたい作品
1位 隠し砦の三悪人
2位 赤ひげ
3位 乱
時点 椿三十郎
何度も取り上げましたが、『隠し砦の三悪人』は、とにかくダントツで娯楽性の高い作品です。アクションがカッコいい!お姫様がキレイ!お話としてもカラッとして良い気分で終われる。
黒澤作品は、う〜んと考えさせられる作品が多く、そういうのも個人的には好きですが、人にすすめるならやっぱり単純に楽しめる作品になりますね。
『赤ひげ』は、『隠し砦の三悪人』に比べたら少々重たいですし、時間も長めではありますが、人間ドラマを深く味わいたいなら、観て損はしませんぜ!
『乱』も単純に映像が素晴らしいですし、演技も素晴らしい。海外で賞をとった日本人の作品という意味でも、教養として観ておくのはアリじゃないでしょうか?この作品は後期黒澤映画の代表作でもありますし、カラーなのでね。
おすすめしやすいかも。
『椿三十郎』は、実をいうと森田監督のリメイク版を先に観ていたので、それに左右されずに感想を書くのが難しいです。。。確か脚本はそのままで、いじってなかったと思うんですよね。そういった理由でベスト3には入れませんでしたが、こちらも非常に映画として娯楽性の高い作品です。
黒澤作品には、怖い女性が沢山出てきますが、あそこまでコミカルな女性が登場する作品も他にない気がします。他の作品に比べてお茶目なキャラも多く、すごくお茶の間向けとも言えるでしょう。
私が思わず笑っちゃった作品
『姿三四郎』 先生とのやりとり
『続・姿三四郎』先生とのやりとり
『酔いどれ天使』三船さんの肩
『夢』 桃畑
『白痴』 綾子の揺れ動く心
『八月の狂詩曲』リチャード・ギア
『姿三四郎』は、漫画にしてみましたので、よろしければご覧ください。
『酔いどれ天使』は、何よりも三船さんのジャケットですね。ものすごい肩パット。元バンギャルの私には、完全にゴールデンボンバーの『ダンスマイジェネレーション』の衣装にしか見えませんでした(笑)そんなに入れる?ってくらい肩パット入ってる。
こういう時代もあったんですね〜。
『夢』の『桃畑』で、桃の精霊が現れたシーンはちょっと笑ってしまいました。
いい大人が顔を白塗りにしながら子ども取り囲んで言いたい放題いってるようにしか見えなくて(笑)そんなの子どもじゃなくても泣くよ!(^_^;)
泣きながら少年が自分の言い分を伝えたら、
「この子は・・・良い子だ」
いやこのおじゃる丸、手のひら返し早っ!(笑)
『白痴』はドストエフスキー原作なんで、結構シリアスなお話です。綾子さんという気難しいお嬢さんが、気分によって意見を二転、三転させる場面がありまして。
そのシーンがね。画がパッパッと切り替わるごとに、綾子お嬢さんがコロコロコロコロ違うこと言い出すので、テンポが良すぎて逆にコントみたいに見えてしまったんですよね(^_^;) シリアスなお話だから余計笑えるってことないですか?
あれ、リメイクするなら絶対に違う撮り方すると思う。「白痴」という言葉自体が差別用語にあたると思うので、難しいかもしれないですが、リメイクに挑戦する監督さん求む!
『白痴』では、原節子さんが男たちを翻弄する役を演じてます。とある場面で「みなさん、よござんすね!?」って確認するのがちょっと笑えた。原さん、ついさっきまでそんな口調じゃなかったやん!急にどうした?(笑)しかも2回くらい言ってた。
『八月の狂詩曲』は、長崎に住むおばあちゃんの所へ、夏休みに孫たちがやってきて、子どもたちの目線から原爆や戦争について知っていくお話です。
『生きものの記録』もそうですが、原爆投下そのものよりも、その後の人々を描くことで、影響の大きさをより強調する手法は、さすが黒澤明と思います。
で、そんな『八月の狂詩曲』には、リチャード・ギアが登場します。戦争中は日本人にとって憎むべき相手だったアメリカ人ですが、おばあちゃんの兄弟がアメリカに帰化して、アメリカ人の親族ができたという設定なんですね。
お話のことはさておき。リチャード・ギアは、カタコトながらも日本語のセリフが沢山あって、この作品に真剣に打ち込んでいたのがうかがえます。撮影に使用した念仏堂を自分の別荘に置くくらいですから、彼にとっても大事な作品になったことと思われます。
しかし。アリの行列を見つめるシーンがありまして、本来そこにリチャード・ギアは映らない予定だったのですが、本人の希望で参加することになったそうです。
生き物ですから、人間の思った通りに動いてくれるわけではありません。アリ待ちの時間が随分とかかったそうで、リチャード・ギアは
「もうアリとは共演しない」
と言って国に帰ったそうです。。。
みんなお行儀が良くて何も言わないから私が言いましょう。
「お前が言い出したことじゃっっっ!!」
最後に、ここまでで触れなかった作品についてと補足です。
『まあだだよ』は、派手なシーンはありませんし、誰かと誰かが激しく対立し、そこから人間ドラマが生まれる・・・とかでもないんですよね。かといってキャラや生き方はとても立っているので、作品として楽しめなかったわけでもなく。なので、どの項目にも入れられませんでした。
『生きものの記録』は、実家で観てしまったので家族に茶々入れられて真剣に観れず・・・。すいません。三船さんが老けたメイクして演じてるのが信じられなかったのか、うちの両親は「これは三船じゃないだろう」と、ずっと疑ってました。
原爆について描かれていると聞いて、『カンゾー先生』とか『この世界の片隅に』的な描写を想像してましたが、原爆が落ちるシーンはありません。『はだしのゲン』がトラウマになっている方でも安心して観られますので、そこはご安心ください。
『虎の尾を踏む男達』。これは、説得力のある俳優さんが演じないと緊迫感を出せない作品だなと。ネタバレしたくないので深くは言えませんが(^_^;) 終戦の年に製作されたと考えると、作品の中身は一旦おいといて、なんとも言えない気持ちになります。これが撮影された頃、スクリーンの外では・・・って考えると。
色々あって公開されたのは数年後だそうです。
『用心棒』に出てくるお侍さんは、『椿三十郎』と同じお侍さんじゃないか?と思います。殺陣もあった・・・かなぁ?比べるとこっちの三十郎は、戦う侍の側面より、知恵を使って利を取る侍の面が強調されてるので、カッコよくて憧れるっていう感じはあんまりなかったかな(^_^;)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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